応用物理
Online ISSN : 2188-2290
Print ISSN : 0369-8009
77 巻, 11 号
『応用物理』 第77巻 第11号
選択された号の論文の15件中1~15を表示しています
巻頭言
企画の意図
  • 『応用物理』編集委員会
    2008 年 77 巻 11 号 p. 1280
    発行日: 2008/11/10
    公開日: 2019/09/27
    ジャーナル フリー

    近代科学の発展と技術革新は文明社会の発展を実現し,われわれに現代の豊かで便利な生活をもたらしています.しかし,その文明の発展に支えられてきたわれわれの豊かさは,21世紀を迎えた現在,大きな曲がり角に差しかかっているようにも思えます.近年,報道などにおいても,環境問題に関する話題がひんぱんに取り上げられ,地球温暖化や異常気象など,全地球規模の気候の変化が身近に感じられるようになってきました.これまで以上に,環境問題とその対応への関心が高まりつつあるといえます.

    一方で,技術革新から生まれた人工光源であるレーザーは,トランジスタ・コンピューターと並んで20世紀最大の発明の一つとされています.レーザーや発光ダイオード(LED)を応用した光技術は,情報通信,情報記録,ディスプレイ,バイオ,医療,加工など,さまざまな分野に適用されており,現代の豊かで便利な文明社会の発展に貢献しています.近年ではこれらの分野に加えて,環境問題にかかわりの深い,環境計測,エネルギー,農業などの分野にレーザーやLED 技術を適用する試みが見られるようになってきました.今月号では,今後ますます重要性を増すと考えられる,環境,エネルギー,農業分野の諸問題にレーザーやLED などの光技術がいかに貢献しうるかという観点から,最新技術の研究の一端を紹介していただく小特集を企画しました.

    レーザー光は物質とのさまざまな強い相互作用を起こすため,多くの物理・化学情報の計測を行うことが可能であり,環境問題の解明や環境保全に向けて,レーザーを用いたさまざまな環境計測技術が活発に研究されています.また,近年では,環境ガス計測応用に重要な中赤外波長領域においても,利用可能なさまざまなレーザー光源が開発されつつあります.

    エネルギーの有効利用は,環境負荷を減らし,持続可能な文明社会の発展を実現するための重要な課題ですが,レーザー点火による高性能エンジンの研究や,太陽光励起レーザーを用いたエネルギーシステムの研究など,レーザー技術を応用した挑戦的な研究開発が進められています.

    また,地球温暖化が進めば異常気象が多発し,これによる農作物の生産量低下も懸念されています.農作物の生産をいかに安定に,効率よく行うかが重要な課題となっており,LED の利用や,レーザーを利用した作物の生育状態のセンシングなどの研究が進められています.

    本特集により,これらの最新の研究の一端をご紹介することで,レーザー・LED 技術の新たな展開をお伝えするとともに,応用物理の環境諸問題に対する寄与について考えるきっかけにしていただければ幸いです.

総合報告
解説
最近の展望
研究紹介
  • 佐藤 具就, 満原 学, 近藤 康洋
    2008 年 77 巻 11 号 p. 1324-1327
    発行日: 2008/11/10
    公開日: 2019/09/27
    ジャーナル フリー

    本稿では,ガスセンシング用光源として開発したInP基板上のInAs量子井戸構造を用いた2μm波長帯半導体レーザーについて報告する.従来のInP基板を用いたレーザーの発振波長は2μm以下であったが,レーザーの活性層に低温のMOVPE成長により作製したInAs量子井戸構造を用いることにより,2.33μmまでの発振が得られた.さらに,光通信用として成熟した分布帰還型レーザーの作製技術を応用することにより,一酸化炭素の吸収線と一致する2.33μmでの単一波長発振を実現した.この2μm波長帯半導体レーザーは,高感度で簡易なガスセンシングシステムの光源として期待される.

  • 斉藤 保典
    2008 年 77 巻 11 号 p. 1328-1331
    発行日: 2008/11/10
    公開日: 2019/09/27
    ジャーナル フリー

    植物の生理状態を調査する手法として,レーザー誘起植物蛍光の使用法を検討した.蛍光法の有効性を確認するため,植物蛍光スペクトルの現地観測が可能な可搬型(レーザー誘起)蛍光計測装置と,遠隔観測が可能な(レーザー誘起)蛍光ライダーシステムを製作した.前者では温室内で栽培中のトマト苗の生葉を,後者では15m離れた場所に自生するケヤキ樹木の生葉を,それぞれ観測対象とした.どちらの観測結果からも,光合成機能の主要分子であるクロロフィルの形成・消滅に関する情報が得られた.また,生理活動の結果である代謝二次産物に関する蛍光スペクトルの増減が示された.これらの屋外実験を通じて,本手法の有効性を確認した.

  • 島田 敏宏
    2008 年 77 巻 11 号 p. 1332-1336
    発行日: 2008/11/10
    公開日: 2019/09/27
    ジャーナル フリー

    有機分子の薄膜成長において,結晶方位をそろえた結晶薄膜を得る方法を探究した.Si単結晶微傾斜表面に形成したナノメートルスケールの段差を用いる方法,低蒸気圧液体薄膜をフラックス(融剤)として基板に塗布してから蒸着する方法,そして分子を偏光で励起する方法について述べる.配向薄膜の応用として,角度分解光電子分光によるバンド分散の測定について触れる.

  • 古川 行夫
    2008 年 77 巻 11 号 p. 1337-1340
    発行日: 2008/11/10
    公開日: 2019/09/27
    ジャーナル フリー

    多くの有機発光ダイオード(有機EL)とトランジスタは,有機薄膜の単層または多層構造で構成されている.有機薄膜の特性がデバイス機能と関連しているので,デバイス中の有機薄膜の評価法が重要である.赤外・ラマン分光を用いると,有機薄膜のその場観測を行うことができる.ラマン分光を用いた動作している素子中の有機層の温度測定に関する研究と,赤外分光によるキャリア観測の研究とを紹介する.赤外・ラマン分光は,有機物の分子構造,分子配向,結晶/アモルファスの違い,温度,キャリアに関する情報を与え,有機デバイスにおける有機薄膜の分析法として有用である.

「世界物理年」記念記事
  • 大津 元一
    2008 年 77 巻 11 号 p. 1341-1352
    発行日: 2008/11/10
    公開日: 2019/09/27
    ジャーナル フリー

    ナノフォトニクスは近接場光を使う技術であり,近接場光の実体を物質励起の衣をまとった光子として,さらにナノ寸法物質間の信号伝送をこの光子の交換としてとらえることにより,多様な実験結果が説明されるようになった.その結果,デバイス・加工・システムへの応用において,従来の光技術の回折限界を超えるのみでなく,新機能や新現象が実現し,光技術の質的変革がもたらされた.本稿では,光・物質融合技術としてのナノフォトニクスの誕生の経緯,技術の現状と将来展望について記す.

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