応用物理
Online ISSN : 2188-2290
Print ISSN : 0369-8009
77 巻, 3 号
『応用物理』 第77巻 第3号
選択された号の論文の13件中1~13を表示しています
巻頭言
企画の意図
  • 『応用物理』編集委員会
    2008 年 77 巻 3 号 p. 254
    発行日: 2008/03/10
    公開日: 2019/09/27
    ジャーナル フリー

    電子産業の発展を担ってきたシリコンCMOS 半導体集積回路(LSI)の微細化は日進月歩で,45nm プロセスにより製作された20GHz プロセッサーが市場に投入されるまでに至りました.しかし,これからのCMOS 開発では,微細化(スケーリング)に頼るのみでは性能の向上が飽和することが予想されるため,電子産業のさらなる発展に必要な新しい技術開発が嘱望されています.その一つが,昨年の本誌9月号でも特集された,シリコンCMOS の継続的性能向上を維持するためのポストスケーリング技術です.ポストスケーリング技術はシリコンを中心に据えるという点で最も有望な路線ですが,その一方で,シリコンCMOS とは異なる概念を有する電子素子の出現にも大きな期待が寄せられています.本小特集では後者のアプローチに着目し,新原理・新機能・新構造に基づく機能性電子素子開発の可能性を論じます.

    では,2進数論理演算を見事に実行するシリコンCMOS スイッチのさまざまな長所(微細加工限界,動作速度,動作信頼性など)を凌駕する新しい2進数スイッチング素子,または2進数という概念さえも打ち破り,シリコンの性能を上回る新パラダイム電子素子ができるのでしょうか? この問いに明確に「Yes」と答えられる研究・技術者は,世界的にも皆無でしょう.しかし,この暗中模索状態において,文部科学省はあえて2007年度科学技術振興機構(JST)-CREST のための戦略目標に「新原理・新機能・新構造デバイス実現のための材料開拓とナノプロセス開発」を掲げました.そこには“シリコンCMOS の延長では対応できない「次世代エレクトロニクス(Beyond CMOS)への壁」を突破できた国こそが,10〜15年後のエレクトロニクスの覇権を握る”と明言されています.きわめて高い目標ですが,とっかかりとしてはCMOS が苦手とする計算を補完するCMOS Supplement 技術を開発するだけでも大きなインパクトが得られると思います.本小特集ではBeyond CMOS やCMOS Supplement の種になりうる物性研究・材料研究の一部を紹介し,読者の皆様と一緒に電子素子の将来像を考えていきたいと思います.

総合報告
  • 高梨 弘毅
    2008 年 77 巻 3 号 p. 255-263
    発行日: 2008/03/10
    公開日: 2019/09/27
    ジャーナル フリー

    スピントロニクスの発展の中でスピンの流れ,すなわちスピン流の研究が大きな関心を集めている.スピン流は,スピンにかかわるさまざまな物理信号の変換・制御にとって最も基礎となる概念である.スピン流を理解することは,さまざまな物理信号の変換・制御のメカニズムを明らかにすることであり,それはスピントロニクスに格段の発展をもたらすとともに,さらに新しい物理現象の発見や新しいデバイスの創製につながる.本稿では,まずスピン流の概念と歴史的背景について説明した後,スピン流の創出,物性と機能,デバイス応用の三つに分けて,研究の現状と将来を俯瞰する.

解説
  • −量子相関デバイスの実現に向けて−
    石橋 幸治, 青柳 克信
    2008 年 77 巻 3 号 p. 264-270
    発行日: 2008/03/10
    公開日: 2019/09/27
    ジャーナル フリー

    量子相関デバイスに決まった定義はないが,トランジスタに代表されるこれまでのデバイスが,多数の電子が独立に運動しているという1粒子描像でその基本原理の理解ができるのに対して,量子相関デバイスとは,時空間領域あるいは粒子間の何らかの相関を利用しようとするデバイスである.具体的には,トンネルの時間相関が重要となる単電子デバイスや,電子間の量子相関(エンタングルメント)や量子状態のコヒーレントな時間発展が本質的な役割を果たす量子コンピューティングデバイスなどを考えることができる.本稿では,筆者が考える量子相関の意味を述べ,カーボンナノチューブ量子ドットの人工原子としてのユニークな特性を示すことにより,その可能性を考えたい.

  • −その現状と展望−
    横山 浩
    2008 年 77 巻 3 号 p. 271-276
    発行日: 2008/03/10
    公開日: 2019/09/27
    ジャーナル フリー

    液晶の階層的構造形成を中心に,分子集団が作る高次構造の生成原理,制御,応用について概観する.分子高次構造は,生体を頂点に,分子集団,巨大分子がかかわるあらゆる側面に登場する普遍的な概念であり,それらの高度な機能発現の本質を担っている.ボトムアップ・ナノテクノロジーと,ナノスケールの分子高次構造の制御は一体不可分の関係にあり,世界的にさまざまな試みが行われている.本稿では液晶を例として,弾性不安定性,非平衡ダイナミクスの共通的役割を述べる.

最近の展望
研究紹介
  • 小池 一歩
    2008 年 77 巻 3 号 p. 296-300
    発行日: 2008/03/10
    公開日: 2019/09/27
    ジャーナル フリー

    a面サファイア基板上にc軸エピタキシャル成長した単結晶ZnO/Zn1-MgxO薄膜において,高い移動度を有する二次元電子ガス(Two-Dimensional Electron Gas : 2DEG)がヘテロ界面に形成されることを見いだし,その主たる要因が,Zn1-xMgxOとZnOの自発分極差に基づく内部電界であることを明らかにした.この2DEGを用いてトップゲート型の電界効果トランジスタを試作し,そのZn1-xMgxOゲート障壁層表面をアミノ基で修飾することによって,当該構造がバイオセンシングに役立つイオンセンサーとして動作することを実証した.

  • 伊高 健治
    2008 年 77 巻 3 号 p. 301-305
    発行日: 2008/03/10
    公開日: 2019/09/27
    ジャーナル フリー

    優れた発光特性やフレキシブル性をもち,低温プロセス・低環境負荷である有機π共役半導体が注目されている.デバイス応用には高度な薄膜成長技術が欠かせないが,他の新規半導体と比べても,有機π共役半導体の薄膜成長技術はかなり立ち遅れており,他の半導体材料で培われた薄膜成長技術をもとにした新しい薄膜成長法の確立が不可欠である.本稿では,有機π共役半導体のデバイス応用に重要なカギとなる薄膜成長技術について,分子ぬれ性という新概念に基づいたバッファ層について述べる.この技術によって高い結晶性薄膜の作製に成功し,高い移動度をもつC60トランジスタを作製できた.このバッファ層の作製には分子レベルでの制御がカギを握っており,これを容易にする新たな薄膜成長法として連続波レーザーMBE法を開発したので,これについても紹介する.

  • 和保 孝夫
    2008 年 77 巻 3 号 p. 306-310
    発行日: 2008/03/10
    公開日: 2019/09/27
    ジャーナル フリー

    共鳴トンネルダイオードの超高速スイッチ機能を利用した全差動型MOBILEコンパレータ,およびそのギガヘルツ帯アナログ/デジタル変換器(A/D変換器)への応用の可能性について述べる.A/D変換器としては,HEMT積分器と組み合わせた2次連続時間型ΔΣ 変調器を対象として,トランジスタレベルの回路シミュレーションにより動作速度と分解能(信号対雑音比)を評価した.基本的なローパス1bit型ΔΣ 変調器のほかに,近年注目されている多ビット型,バンドパス型についても考察し,従来型 DR 変調器を凌駕する高性能化が達成できる見通しを得た.

  • 寒川 誠二
    2008 年 77 巻 3 号 p. 311-315
    発行日: 2008/03/10
    公開日: 2019/09/27
    ジャーナル フリー

    プラズマプロセスの進歩が,半導体デバイスの微細化・高集積化を促進してきたといっても過言ではない.しかし,ナノ領域に突入した半導体デバイスでは,プラズマから照射される電荷や紫外線などによる欠陥生成や損傷は,表面積の小さいナノデバイスの特性を大きく劣化させるものである.そのため,プラズマプロセスにおいて,電荷蓄積や紫外線照射損傷の抑制や制御を実現できる手法の開発は必要不可欠であり,筆者らの開発した負イオンを用いた中性粒子ビームは,エッチング特性と損傷抑制の両立が実現できる画期的な方法である.

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