応用物理
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77 巻, 4 号
『応用物理』 第77巻 第4号
選択された号の論文の14件中1~14を表示しています
巻頭言
企画の意図
  • 『応用物理』編集委員会
    2008 年 77 巻 4 号 p. 366
    発行日: 2008/04/10
    公開日: 2019/09/27
    ジャーナル フリー

    応用物理におけるプラズマエレクトロニクスは材料科学とともに発展してきました.かつてはブラックボックスとして扱われてきたプラズマの中身を理解するため,レーザー計測をはじめとする最新技術でプラズマの内部パラメーターを計測,診断し,コンピューターシミュレーションによりプラズマ内でのさまざまな反応過程が理解されるようになりました.このようなプラズマ計測,診断,制御技術のめざましい発展は,より高品質の材料合成,高精度な材料加工という材料やデバイス開発からの要求にこたえてきたものといえます.材料科学の発展とともにその期待にこたえ,高い研究のハードルを乗り越えるべく,プラズマと材料の相互作用についてさまざまな観点から精力的な研究が進められてきました.

    材料の合成や加工を行うプラズマプロセス,反応性の高いガスを放電させて発生する反応性プラズマの制御技術,あるいは高エネルギー状態のプラズマから放射される光を利用するプラズマ光源の技術は,いまだ完全なものとはいえません.正確に計測され,思いどおりに制御できるプラズマの内部パラメーターはごく一部にすぎないのです.さらに材料はシリコンを中心とした研究開発から,窒化物,酸化物をはじめとするさまざまな化合物半導体へ,あるいはカーボンナノチューブなどの炭素系新材料へと急速な広がりを見せています.また加工技術の微細化に伴って極端紫外光(EUV)など新しい光源への要求も高まっています.材料科学の発展とともにプラズマへの期待や要求も非常に多様かつ高度化し,新しいプラズマ源や難しいプラズマパラメーター制御が求められるようになっています.

    一方で,大気圧プラズマや液中プラズマ,液相気相混在下でのプラズマ,微小空間のマイクロプラズマなど新しい概念に基づくプラズマの生成,制御技術が開発され,材料合成に応用されることにより,従来法では得られなかった面白い新材料が見いだされることも少なくありません.超臨界プラズマやソリューションプラズマによるナノカーボンの合成など,新しいプラズマが新しい材料を生み出しています.しかしこれらの新しいプラズマの多くは,従来のプラズマに比べてさらに計測,制御が困難なことが多く,材料科学からの期待にこたえるには高いハードルとなっています.

    プラズマを,材料を合成,加工するための独立した道具としてとらえるのは適切ではありません.プラズマ自体が材料そのものの過渡的な状態なのです.プラズマという材料の状態を理解することによってこそ,結果としての固体や液体,薄膜材料などの反応や物性を制御できる可能性が拓けてきます.

    この小特集ではプラズマと材料科学という着眼点からプラズマエレクトロニクス分野における最新の研究動向について紹介したいと思います.光源としてのプラズマ利用は,発光媒質である材料との相互作用を制御することが課題であるといえます.また,EUV などの新しい光源が実現することで新しい材料技術への貢献が期待されています.大気中や液体界面でのプラズマ生成利用は新材料やバイオテクノロジーなど非常に幅広い応用の可能性を示しています.この小特集を通じて材料の過渡的状態であるプラズマの生成や制御について理解を深めていただき,さらなる材料科学とプラズマエレクトロニクスの発展につながるヒントとなれば幸いです.

解説
  • −アンテナ励起型マイクロ波放電ランプを中心に−
    神藤 正士
    2008 年 77 巻 4 号 p. 367-374
    発行日: 2008/04/10
    公開日: 2019/09/27
    ジャーナル フリー

    高輝度放電(HID)ランプでは,数気圧以上の封入ガスを長時間にわたって安定に放電させることが求められる.従来の電極を使う放電では,電極現象に起因する電極消耗と発熱や封入物制限などの種々の要因がランプ特性のさらなる改善を制限している.アンテナの微少ギャップに集積するマイクロ波電界を利用すると高圧マイクロ波放電を維持できる.この放電はプラズマ体積の小さな小型HIDランプに適しており,光制御性に優れた長寿命の点光源開発の可能性が開かれる.

  • 勝木 淳, 秋山 秀典
    2008 年 77 巻 4 号 p. 375-382
    発行日: 2008/04/10
    公開日: 2019/09/27
    ジャーナル フリー

    パルスパワー放電で生成した高エネルギー密度プラズマは,次世代半導体製造装置の露光用光源として有力な候補である.光源の実用化のためには,EUV光を高効率で発生する準安定状態の高エネルギー密度プラズマを生成することが重要である.本論文では,高効率EUV発光のためのプラズマ閉じ込め方法について,EUV放射過程とプラズマ閉じ込めに関する理論と実験をもとに議論している.レーザーアブレーション法を利用して,電極表面近傍に局所的にガス分布を形成しパルス放電を開始すると,効率よく電極表面近傍にプラズマを閉じ込めることができる.本論文では,このレーザーと放電を組み合わせた方法について実験結果を交えながら述べる.また,EUV光源開発の現状と課題を紹介する.

  • 北野 勝久, 浜口 智志
    2008 年 77 巻 4 号 p. 383-389
    発行日: 2008/04/10
    公開日: 2019/09/27
    ジャーナル フリー

    大気圧下にて簡単に生成可能なLF(LowFrequency)マイクロプラズマジェットが,物理的にも応用面でも,注目されている.ヘリウムガス流束の近傍に低周波高電圧を印加した電極を設置するだけで,グロー放電のようなプラズマを,50μmから数十mm程度の大きさでさまざまな形状にて生成できる.高速度撮影によると,一見細長く伸びるジェットは,実は,10km/s程度の高速で移動する小さな発光体(プラズマ塊)である.すなわち,大気中へ射出されるヘリウムガス流束中の間欠的な部分放電である.このジェットを液体に照射することにより,液中プラズマプロセシングが安定して行えるなど,幅広い条件下でプロセス応用が可能である.

  • 月出 章
    2008 年 77 巻 4 号 p. 390-396
    発行日: 2008/04/10
    公開日: 2019/09/27
    ジャーナル フリー

    宇宙の暗黒物質の有力な候補である弱い相互作用をする大質量粒子(WIMPs)の直接探索実験について述べる.WIMPsの検出は弾性散乱によって生じる数十keVの低速反跳核による電離や発光を観測する.低速重粒子と物質との相互作用について触れ,主に気体タイムプロジェクションチェンバー(TPC)と液体希ガス検出器における電離密度と消光(用語)について述べる.

  • 白井 肇
    2008 年 77 巻 4 号 p. 397-401
    発行日: 2008/04/10
    公開日: 2019/09/27
    ジャーナル フリー

    液中,溶液を対向電極とした大気圧プラズマ生成は,従来の気相,固体電極では期待されない酸化・還元反応,電気泳動,構成元素のプラズマ領域への輸送および液滴-溶液間プラズマなどユニークな反応場の創生が期待される.しかし液体の電子状態およびプラズマ−溶液系における溶液内の電子,構成イオンの挙動については,固体電極ほど理解が進んでいない.本稿では,主に絶縁性液体,電解質溶液の電子・イオン過程およびプラズマ-電解質溶液界面に関する最近の話題を紹介する.

研究紹介
  • −固液界面アトムプロセスの応用−
    板谷 謹悟
    2008 年 77 巻 4 号 p. 402-405
    発行日: 2008/04/10
    公開日: 2019/09/27
    ジャーナル フリー

    蒸着法などの真空技術を用いた物理的方法ではなく,固液界面反応を用いた,有機半導体の完全単結晶薄膜の創製法と,得られた完全単結晶の幾何学的構造,さらには電子デバイスとしての特性を述べる.溶液中から得られたペンタセン,あるいはルブレンの単結晶は数十μmに及ぶ広大な分子的に平坦なテラスを有し,ほぼ完全結晶であった.また,それらの結晶中の正孔移動度は,ほぼ物質固有の数値であり,液相から得られた単結晶は,有機FETの半導体層として十分な特性を有している.

  • 堀 勝, 平松 美根男
    2008 年 77 巻 4 号 p. 406-410
    発行日: 2008/04/10
    公開日: 2019/09/27
    ジャーナル フリー

    二次元に広がった厚さ10nm程度のシート状構造体が基板にほぼ垂直に成長するカーボンナノウォールは,立ち並んだグラファイトの薄い壁と,その広い表面積が特徴で,ユニークな構造や良好な電気伝導性・熱伝導性を利用したデバイスへの応用が期待される.これまでに培ったラジカル密度計測・制御技術を生かし,フルオロカーボンプラズマに水素原子を注入するラジカル注入CVDを開発し,カーボンナノウォールの形成を行い,構造の制御を実現した.CVDプロセス中に,プロセスに有効なラジカルを高精度に注入する方式は,ナノテクノロジーの量産化プロセスには有効な技術である.

  • 清水 禎樹
    2008 年 77 巻 4 号 p. 411-416
    発行日: 2008/04/10
    公開日: 2019/09/27
    ジャーナル フリー

    大気圧マイクロプラズマ応用技術の一つとして,金属ワイヤを原料に用いたナノ粒子合成・大気中での微小薄膜堆積技術の開発を行っている.最近では,大気中で微小金属薄膜を作製することが可能になり,ある条件では,多重双晶構造を有する星型モリブデン粒子が,基板上に高密度で成長することが見いだされた.本研究紹介では,この星型モリブデン粒子の合成法や,モルフォロジー,微細構造,現在検討中の成長機構などについて紹介する.

  • 丸尾 昭二
    2008 年 77 巻 4 号 p. 417-420
    発行日: 2008/04/10
    公開日: 2019/09/27
    ジャーナル フリー

    2光子マイクロ光造形法を用いて,光駆動マイクロポンプ群を開発した.光トラッピングによって二つのローブ型ローターを同期回転させるポンプを試作し,1pL/分以下の超微量液体輸送を実証した.ディスクを回転させて液体を輸送する粘性ポンプを考案し,脈動のない連続流を実現した.さらに,レーザー光を照射するだけで高速回転するダブルヘリカルローターを考案し,マイクロポンプへ応用した.これら光駆動マイクロ流体輸送機構は,高性能かつ高集積型ラボオンチップへの応用が期待される.

  • 坪井 一真, 梶川 浩太郎
    2008 年 77 巻 4 号 p. 421-425
    発行日: 2008/04/10
    公開日: 2019/09/27
    ジャーナル フリー

    金ナノ微粒子などの金属ナノ構造は,可視領域の光と共鳴を起こす局在表面プラズモン(LSP)によってバルクの金とは異なる光学特性を示す.近年,LSPによる電場増強効果を利用した微弱な光学現象の増感や発色団による標識なしでの生体分子のセンシングが注目を集めている.本稿では,単一の金ナノ微粒子よりも強いLSP共鳴を示す疑似2量体構造(SIGN)による光第2高調波(SH)の増感,そして増感したSHによる生体分子の高感度非標識センシングについて紹介する.

  • 高木 浩一
    2008 年 77 巻 4 号 p. 426-430
    発行日: 2008/04/10
    公開日: 2019/09/27
    ジャーナル フリー

    持続可能な社会の構築を目指して,エネルギー環境学習は,世界規模でますます盛んになっている.エネルギー環境学習のキーワードは“Think globally, act locally”であり,この実現には幼稚園から小中高等学校,大学から社会人までを含めた体験的な学習が必要になる.日本でも,県や地域単位でエネルギー環境学習を行うための拠点形成が試みられており,その拠点を中心に,教材開発や学習プログラム策定,学習のための地域連携ネットワークの構築,理科工作体験教室や連携授業などの学習実践活動がなされている.ここでは,岩手県を例に取り,教材開発や学習プログラム例,理科教室や小学校の総合的な学習の時間での実践,また地域ネットワークの紹介などを行う.

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