応用物理
Online ISSN : 2188-2290
Print ISSN : 0369-8009
77 巻, 6 号
『応用物理』 第77巻 第6号
選択された号の論文の11件中1~11を表示しています
巻頭言
企画の意図
  • 『応用物理』編集委員会
    2008 年 77 巻 6 号 p. 630
    発行日: 2008/06/10
    公開日: 2019/09/27
    ジャーナル フリー

    光の回折限界を打破する技術という枠を越えて,近接場光学に新しい流れが生まれ,その基礎が確立されようとしています.例えば,ナノ空間に局在する近接場光とナノ構造の織り成す物理,さらにはその応用研究に新しい流れの一端を見ることができます.そこでは,もちろん「光計測の空間分解能をサブミクロンからナノメートルへ」という量的な変革を目指しています.しかしそれだけではなく,「伝搬光では実現不可能な現象を利用してナノ光機能を実現し,新しいアーキテクチャーに基づくシステムを構築しよう」という質的な変革を目指す研究が進展しています.今回,量的な変革の最近の進展に加えて,質的な変革をめざす研究についてわかりやすく解説していただく小特集を企画いたしました.

    1980年代,回折限界を超える分解能をもつ光学顕微鏡の実現のために,近接場光が注目されました.近接場光を用いた技術は1990年代に入り,さまざまな物質の物性(分光)評価技術・装置として急速に発展してきました.そのような研究開発状況は,例えば,2001年の小特集に解説されています.また,極微小領域の分光(顕微分光)とその応用分野の広がりは毎年何らかの形で本誌に取り上げられてきました.

    一方,顕微分光にとどまらない,より広い量的・質的変革を目指した研究も展開されてきました.この出発点は発想の転換でした.近接場測定には何らかの物質系をプローブとして測定対象に近づける必要があります.これは測定される場をみだして初めて測定が可能になる,すなわち,ナノ領域に局在する光とナノ物質が互いに作用して変化することが近接場の本質であることを意味しています.この相互作用を積極的に活用して,ナノ構造の作製やナノ構造での量子性の発現,ナノ光機能の実現,さらにはナノフォトニックデバイス・システムの研究が実験理論両面から探究され,近年めざましい進展を遂げています.今回の小特集では,このようなナノフォトニクスと呼ばれる分野に焦点を当てています.記録密度がテラビット級の大容量記録装置,寸法100 nm 以下の光スイッチといった量的要請に加え,光通信システムの情報漏洩(ろうえい)に対する安全機密性といった質的な社会の要請にこたえていくためには,今後ますますこのような研究が重要になってくると考えられます.

    「基礎的な物理現象を記述する理論は何か」,「ナノデバイス機能とシステムに要求される要件は何か」など,基礎から応用,システムまでを展望し,新しいナノフォトニクスの展開とその背後にある物理を理解していただければ幸いです.

総合報告
  • 堀 裕和
    2008 年 77 巻 6 号 p. 631-642
    発行日: 2008/06/10
    公開日: 2019/09/27
    ジャーナル フリー

    ナノメートル空間に特有の近接場光相互作用を素過程として,光領域の電磁的相関や電磁的励起の伝達に基づく機能を生み出す科学技術分野が,ナノフォトニクスである.本稿では,ナノ空間で機能を発揮するデバイスとは何かを課題の中心に据えて,ナノフォトニクスの最近の展開を概観する.物質電子系の電磁相互作用が信号や情報の流れを生み出す過程を,光領域の電磁的励起の伝達と散逸をキーワードにして詳細にたどることで,ナノテクノロジーにおける機能の意味と,それを創生する仕組みに関する多様な側面と,解決すべき課題を明らかにするとともに,複雑系のダイナミクスを取り扱うような,新機能デバイス,システムへの展開の可能性を探索する.

解説
  • −分子デバイス光応答への期待−
    塚田 捷
    2008 年 77 巻 6 号 p. 643-649
    発行日: 2008/06/10
    公開日: 2019/09/27
    ジャーナル フリー

    ナノ電極間を架橋する有機分子,フラーレンなどの架橋系の輸送現象に関する理論解析を行った.原子細線では量子化コンダクタンスによりコヒーレント伝導が確認できるが,電極とのボトルネックが強くなるにつれ,多重散乱による振動が透過スペクトルに現れ,さらに共鳴トンネル過程に特徴的なスパイク型スペクトルになる.架橋分子の共鳴トンネルには著しい分子内ループ電流の生成など,興味深い現象が期待できる.電子と分子振動,外部電磁場などとの相互作用が増すにつれ,コヒーレントな伝導から散逸的なあるいは粒子的な伝導へと移り変わる.分子振動との相互作用について,ポーラロン的な状態への移行と輸送現象への反映を解析した.エキシトンポラリトンなど光応答系との関連についても述べた.

  • 西田 哲也
    2008 年 77 巻 6 号 p. 650-655
    発行日: 2008/06/10
    公開日: 2019/09/27
    ジャーナル フリー

    Tbit/inch2 級の高記録密度を有する大容量ストレージの実現には,光の回折限界や磁性体の熱揺らぎ(超常磁性限界)という,現状の伝搬光や磁気だけの技術の伸長では解決できないと考えられている課題を克服することが必要である.そのためには,光の回折限界を超える数十nm径の近接場光による磁気媒体へのハイブリッド記録が有望である.ここでは,入射伝搬光からの光利用効率が飛躍的に高くなるように新たに開発したプラズモン共鳴型近接場光プローブ「ナノビーク」を紹介し,これを搭載した記録ヘッドを用いたCo/Pd多層膜磁性ドット・ナノパターン媒体への近接場光・磁気ハイブリッド記録について解説する.

  • 大野 雄高
    2008 年 77 巻 6 号 p. 656-661
    発行日: 2008/06/10
    公開日: 2019/09/27
    ジャーナル フリー

    カーボンナノチューブ(CNT)は電子デバイスから医療器具まで幅広く応用が期待され,安定した品質の得られる大量合成技術とともに,CNT材料の評価技術の確立・標準化が望まれている.フォトルミネッセンス(PL)分光はラマン分光と並んで重要な評価技術である.CNTの光学特性は周辺の環境により敏感に変化する.PL分光法を評価技術として確立するためには,PLの基礎的物理に加え,環境効果を理解する必要がある.この環境効果は,主にキャリア間に働くクーロン相互作用の遮〔しや〕蔽〔へい〕効果に起因する.それに加え,周辺材料との力学的相互作用や界面特性も影響する.環境に敏感なことを利用したナノスケールのセンシング技術も提案され,環境効果は応用面も興味深い.

最近の展望
  • 川添 忠
    2008 年 77 巻 6 号 p. 662-667
    発行日: 2008/06/10
    公開日: 2019/09/27
    ジャーナル フリー

    近接場光は,光源となるナノ構造体の素励起との結合によって空間的局在が許される振動電磁場である.この局在性は,数nmのきわめて高い空間分解能を光学測定装置に与えるだけでなく,ナノ寸法の光加工や光デバイス動作にも応用が可能である.光加工においてはファイバープローブに発生する近接場光を用いた光化学気相堆積法(光CVD)や,ナノ寸法のパターンを有するフォトマスクを使った光リソグラフィーによって,その応用が実現している.近接場光の素励起との結合は,単なる分解能の向上だけでなく,特有な光化学反応(非断熱近接場光化学反応)を起こすのでその実例を紹介する.デバイスへの応用では光の回折限界以下寸法で動作する集光装置の紹介を行う.

  • −近接場光相互作用の階層性とその応用−
    成瀬 誠
    2008 年 77 巻 6 号 p. 668-671
    発行日: 2008/06/10
    公開日: 2019/09/27
    ジャーナル フリー

    ナノ領域での物質と光の近接相互作用を利活用するナノフォトニクスは,回折限界を超えた微細化能力に加えて,システムとしての特徴的な機能を備えることも明らかにしている.本稿は,近接場光相互作用の階層的性質に注目して,システムを組み上げる際の根本思想ともいえるアーキテクチャーの視点からナノフォトニクスのシステム機能を考察し,セキュリティや光メモリーなどにおける新しい応用への展開を考察する.

研究紹介
  • 島竹 克大, 戸田 泰則
    2008 年 77 巻 6 号 p. 672-675
    発行日: 2008/06/10
    公開日: 2019/09/27
    ジャーナル フリー

    近年,トポロジーの概念が物質科学やレーザー分光の世界にまで広がりつつある.本稿では,超短パルスによる光励起電子応答の実験結果に基づいて結晶トポロジーに起因した物性変化を考える.擬一次元電荷密度波リング結晶の電子緩和において相転移における揺らぎの効果が顕在化し,これが閉ループの電子コヒーレンスによって説明できることを明らかにする.

  • 丸泉 琢也, 牛尾 二郎
    2008 年 77 巻 6 号 p. 676-680
    発行日: 2008/06/10
    公開日: 2019/09/27
    ジャーナル フリー

    p-MOSFETを高温環境下,ゲート電極に負バイアスを印加した状態に保持した場合に観測される界面準位とゲート絶縁膜中の固定電荷の生成は,負バイアス温度不安定性(Negative Bias Temperature Instability : NBTI)と呼ばれ,CMOS信頼性を左右する実用上きわめて重要な現象である.NBTIのメカニズムに関しては不明な点がまだ多く,実験とシミュレーションによる解析とモデル化が進められている.本稿では,われわれが提案した微視的モデルとこれを用いたデバイス寿命予測について紹介するとともに,最近提案されたプロトン移動モデルについてふれる.

  • 越水 正典, 渡邉 翔太郎, 澁谷 憲悟, 浅井 圭介
    2008 年 77 巻 6 号 p. 681-685
    発行日: 2008/06/10
    公開日: 2019/09/27
    ジャーナル フリー

    放射線検出技術は基礎研究から産業応用に至る幅広い分野における基盤技術であり,その高性能化の波及効果は大きい.シンチレーターとは放射線検出素子の一つであり,一般に高い検出効率と良好なタイミング特性を有している.われわれのグループでは,希土類元素発光中心を利用する従来のアプローチではなく,半導体ナノ材料の励起子発光を利用したシンチレーター材料開発により,タイミング特性の飛躍的な向上を目指している.本稿では,希土類発光中心を半導体超微粒子によって代替し,その励起子発光の高速性を利用したシンチレーター材料の開発について,その成果と今後の展望について言及する.

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