地球環境問題に対する意識の高まりとともに,LEDを用いたディスプレイの実用化が加速している.その次を担うレーザーを用いたディスプレイ(レーザーディスプレイ)は超低消費電力に加えて,小型・軽量かつ広い色再現性をもつため,さまざまな応用展開が期待されている.本稿は,このような固体照明を用いたディスプレイ,特に次世代の有力候補となりつつあるレーザーディスプレイについて概観する.
赤色(635nm),青色(445nm)域ではGaInP系,GaInN系材料によって高出力半導体レーザーが達成されており,まずその高出力化の技術的ポイントをまとめた.これを参考にして緑色半導体レーザーの進展と課題,新しい展開について述べた.最近,GaInN系で緑色半導体レーザーの室温連続動作が得られたが,500nm以上の緑色域ではしきい値電流密度はnm刻みで高くなって,高出力化のために解決すべき課題も多い.本稿では,緑色レーザーに向けた別の手法についても紹介し,GaNナノコラム,InP基板上? -?族系材料の可能性を述べた.
プロジェクターは,パソコンを用いたプレゼンテーションやホームシアターなどで広く使われており,高輝度化や高画質化が進んでいる.さらに最近ではLEDやレーザーの固体光源と小型化技術の進歩により,携帯性を向上させた新たな市場が生まれつつある.本稿では,こうしたプロジェクターの市場動向を概観し,半導体レーザーのプロジェクションディスプレイへの応用についてその課題と可能性を探る.
民生用大画面レーザーTVへの適用を目指して,超小型で高効率,高出力な波長変換緑色レーザーの開発を行った.平面導波路構造の励起用LD,固体レーザー素子,波長変換素子を近接配置するシンプルな構成でレーザー体積0.01ml の超小型化を図り,電気効率20%,出力10Wの高性能を達成した.また,40°Cの素子温度変化時の出力変動も20%以下に抑え精密な温度制御を不要とした.本レーザーを搭載した世界初のレーザーTV“LaserVue”では,色純度が高く,小型,高効率な三原色レーザーの特長により,液晶TVに比べ約2倍となる色再現性を実現するとともに,65インチの大画面で,奥行き255mmの超薄型化と,液晶TVの約1/3となる135Wの低消費電力化を達成した.
三次元映像を三次元空間に直接投影する空間立体描画装置(レーザープラズマ3Dディスプレイ)について紹介する.今回開発した描画装置はレーザー焦点近傍でのプラズマ発光現象を利用したものであり,レーザー光の焦点位置をX,Y,Z 軸で制御することで,空気以外何もない空間(三次元空間)に実像としてのドットアレイからなる三次元映像の描画を実現した.
CMOSの微細化が進み,素子のしきい値電圧(Vth)ばらつきの増大が深刻化している.これは回路の動作電圧低減を困難にさせ低消費電力化の障害となる.この問題を解決するために,完全空乏型SOIの一種で埋め込み絶縁(BOX)層が10nm程度と薄い,薄膜BOX-SOIを開発した.Vth ばらつきの主要因である不純物個数ゆらぎの影響を抑えるために低不純物濃度チャネルとし,極薄のSOIおよびBOX層により優れた短チャネル特性を実現させた.その結果,従来バルクCMOSの半分程度のばらつきが実現でき,0.6V程度の低電圧でSRAMが動作可能なことを示した.さらに,基板バイアスによる適応制御が可能な特長を生かしてLSIの大幅な低電力化が可能である.
高エネルギーのイオンビームをテーパー付きの細いガラス管(キャピラリー)に導き,通過させて収束する技術とその応用について述べる.典型的には,入口径を1mm,出口径を10μmとし,これに2MeV,10nAのヘリウムイオンビームを入射させると,出口からは10μm径で0.1nA程度のイオンビームがエネルギー損失なしで得られる.イオンはキャピラリー内壁で数回反射して出てくると考えられる.この現象は結晶中でのイオンのチャネリングによく似ている.入射させるイオンビームは,結晶のチャネリング実験で使われるイオンビームのように,発散角(扇形の頂角)が大きくても0.1°程度の平行なビームであることが必要である.
光がエネルギーを運ぶことは知識としてだけでなく,日常的な体験からもよく知られている.本解説では,空間に蓄えられている光のエネルギーとその流れの基本的な概念を整理し,実用上重要な光の強度という物理量を正確に理解していただくことを目指す.また,物質中ではそれを構成する電子との相互作用を通して,光は損失を受け,熱エネルギー,電気エネルギーなどに変換される.応用上はエネルギー変換効率が性能として重要となるが,その最適化のためには物質中を伝搬する光の強度変化に対する理解が必須である.