応用物理
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Print ISSN : 0369-8009
78 巻, 2 号
『応用物理』 第78巻 第2号
選択された号の論文の13件中1~13を表示しています
巻頭言
企画の意図
総合報告
  • 緑川 克美
    2009 年 78 巻 2 号 p. 107-117
    発行日: 2009/02/10
    公開日: 2019/09/27
    ジャーナル フリー

    最初の報告から20年が過ぎて高次高調波の研究は,その物理的機構の解明から,軟X線領域のコヒーレント光源の開発,そしてアト秒科学へと進展してきた.高調波の発生は,光電場の1サイクルの中で起こる電子のトンネル電離とそれに引き続く輻射再結合過程を原理としており,アト秒オーダーの時間スケール内で生じる光と電子の相互作用に関してきわめて興味深いさまざまな物理現象を具現化してくれる.その発生は,紫外から軟X線領域にかけて数十オクターブにわたるコヒーレントな光を発生するというきわめて魅力的な光源を提供するのみならず,その発生過程を用いて原子や分子内の量子ダイナミクスをアト秒精度で観測する手段をも提供するユニークな現象でもある.本稿では,高次高調波によるアト秒パルスの発生とそれを利用した原子・分子のアト秒量子ダイナミクスの観測に関して著者らの研究成果を中心に最近の進展を報告する.

解説
  • 板谷 治郎
    2009 年 78 巻 2 号 p. 118-124
    発行日: 2009/02/10
    公開日: 2019/09/27
    ジャーナル フリー

    高次高調波とは,高強度超短パルスレーザー光をガス・固体・プラズマなどの非線形媒質中に集光して発生するコヒーレントで広帯域な短波長光である.特に,ガスターゲットを用いた高次高調波発生に関しては,その理解と実験技術が非常に進展しており,アト秒領域の極短パルス発生が実現している.一方,高次高調波のスペクトルから,発生源である原子や分子の電子構造やそのダイナミクスに関する情報が得られることが明らかになってきた.特に,筆者らにより「分子軌道トモグラフィー」と呼ばれる最外殻電子軌道の形状を測定する手法の原理実証が行われた.これまでに,その解釈をめぐり多くの理論的・実験的な研究が行われ,強レーザー場中での原子分子の振る舞いについて多くの知見が得られている.本解説では,高次高調波のスペクトルから分子の電子構造やダイナミクスを観測する最近の研究を紹介する.

  • 森下 亨
    2009 年 78 巻 2 号 p. 125-129
    発行日: 2009/02/10
    公開日: 2019/09/27
    ジャーナル フリー

    近年の強レーザー技術の発展に伴い,アト秒パルスの生成が可能となった.アト秒は原子・分子内電子の軌道周期の典型的な時間スケールであり,アト秒パルスの登場は,物質中の電子状態の遷移について,実時間分析の可能性が開けたことを意味する.本稿では,アト秒パルスを利用してHeの2電子イオン化の運動量分布を適切な座標系で測定することにより,相関が強い2電子の運動の時間発展がプローブできることを示す.

  • −メタホウ酸銅の巨大電気磁気光学−
    有馬 孝尚
    2009 年 78 巻 2 号 p. 130-135
    発行日: 2009/02/10
    公開日: 2019/09/27
    ジャーナル フリー

    反転対称心をもたない結晶に磁気秩序が現れると,従来の磁気光学とは異なる種類の光学現象を示す.例えば,光の伝搬方向の反転に伴って,無偏光あるいは直線偏光の吸収係数が変化することがある(方向二色性).この現象は電気磁気効果が光の振動数領域で現れたものとみなされ,電気磁気光学効果あるいは光学的電気磁気効果などと称される.最近,メタホウ酸銅(CuB2O4)が9〜20Kの温度領域で大変大きな方向二色性を示すことを見いだした.光子エネルギーが1.405eVで電場ベクトルがc軸に垂直な光について,伝搬方向の反転に伴い吸収係数がおよそ3倍変化する.また,方向二色性が大きくなる光の伝搬方向と磁化の向きの間に,結晶構造の対称性に基づく特殊な関係があることも明らかになった.

最近の展望
  • 香月 浩之
    2009 年 78 巻 2 号 p. 136-140
    発行日: 2009/02/10
    公開日: 2019/09/27
    ジャーナル フリー

    原子・分子系の量子状態を外部からのレーザー光照射によって制御する研究はコヒーレント制御と呼ばれ,化学反応制御や量子情報技術などへの応用が期待されている.超短パルスレーザー光は広いスペクトル幅をもつため,一発のパルス照射によって系の複数の量子状態がコヒーレントに励起される.パルスを二発にすれば,対象とする系に独立した二つの波束の重ね合わせ状態を作成することができる.本記事では,アト秒精度で光パルス間の遅延時間を制御することで実現できる,分子の波束状態を制御する手法について紹介する.

  • 吉富 大
    2009 年 78 巻 2 号 p. 141-144
    発行日: 2009/02/10
    公開日: 2019/09/27
    ジャーナル フリー

    波長の異なる複数のフェムト秒パルスの包絡線タイミングと光波位相を高精度に同期制御してフーリエ合成することにより,任意の光電場波形を生成する「光ファンクションジェネレーター」を実現することができる.このような技術が実現すれば,アト秒領域で任意に制御された電場波形によって,超高速で動く電子のダイナミクスの観測・制御が可能になると考えられる.本稿では,このような応用を視野に入れた高強度のアト秒精度光電場波形制御を目的とした筆者らの研究の進展について紹介する.

  • 渡辺 修
    2009 年 78 巻 2 号 p. 145-148
    発行日: 2009/02/10
    公開日: 2019/09/27
    ジャーナル フリー

    アゾベンゼンポリマーの表面に微小物体を接触させて光照射を行うと,その微小物体を包み込むように表面が変形を起こし強く固定することができるようになる.この新しい光固定の原理は緩やかな条件での固定が可能であり,たんぱく質などの生体分子も固定し,また機能を保持することができる.さらに,光変形現象の利用,配向制御分子の利用などにより微小物体の配列・配向制御も可能となってきている.バイオチップ,新規なメタマテリアル創製などへの展開が期待できる.

研究紹介
  • 沖野 友哉
    2009 年 78 巻 2 号 p. 149-153
    発行日: 2009/02/10
    公開日: 2019/09/27
    ジャーナル フリー

    原子・分子内の電子の超高速運動を追跡するには,アト秒の時間分解能が不可欠である.アト秒パルスは高次高調波を用いて発生できるようになってきた.しかし,アト秒パルスを用いたポンプ・プローブ計測を行うためは,光と分子が相互作用する領域において,アト秒パルスの時間幅計測を行う必要があった.しかしこれは,自己相関計測を行うために必要な高効率な非線形媒質の欠如から困難であった.本稿では,窒素分子のクーロン爆発過程を用い,アト秒パルス列のパルス幅を自己相関計測によって計測した研究成果について紹介する.

  • 伊藤 貴司
    2009 年 78 巻 2 号 p. 154-158
    発行日: 2009/02/10
    公開日: 2019/09/27
    ジャーナル フリー

    ホットワイヤ化学気相堆積法は,装置が簡便で装置コストが安い,ガス分解効率が高いなどの特徴をもった製膜方法で,ダイヤモンド薄膜やシリコン系薄膜,最近では酸化物薄膜やカーボンナノチューブの作製と,その適用範囲に広がりを見せている.この製膜法を,カーボンナノウォールの作製に適用し,その作製に成功した.カーボンナノウォールは,基板上に自立した数nm〜数十nmの厚みのウォール状の構造を有し,電界電子放出素子など,その特徴を生かした応用が期待されている.本稿では,ホットワイヤ化学気相堆積法によるカーボンナノウォールの作製に関する研究成果を紹介する.

オーラルヒストリー
基礎講座
  • 宮永 俊之
    2009 年 78 巻 2 号 p. 169-172
    発行日: 2009/02/10
    公開日: 2019/09/27
    ジャーナル フリー

    地球温暖化防止の観点から,近年需要の伸びが著しい家庭部門の省エネルギー対策が強く求められている.一方で,生活者からは住まいの利便性,快適性などについて改善や質的向上が求められていることも事実で,省エネルギーと快適性など一見相反する課題を同時に解決するための技術の確立が急務となっている.本稿では,家庭におけるエネルギー消費の約3割を占める暖冷房を対象とする技術の支援策の一つである,住宅を対象とした温熱環境計画手法(室内の温熱環境と生活者の温熱快適性シミュレーション)を概説する.

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