キャリアの電荷を主に用いていた半導体材料やデバイスに,従来あらわにはかかわってこなかった“スピン”という物理量を積極的に導入することにより,新しい機能を生み出そうとする「半導体スピントロニクス」の研究が世界的に大きな潮流となっている.強磁性半導体をはじめ,スピンや磁性の性質が顕著に現れる半導体をベースとした材料の開発,半導体へのスピン注入と検出,スピン制御についての研究の経緯と現状を概説し,デバイス応用も含めた将来の展望を述べる.
磁性体に電流を流した場合の磁気モーメントの運動方程式を微視的立場から考察した.電子の運動によってLLG方程式にスピン流 JiS の発散項 −∇·JiS が付与される.これにより磁性体内の磁気モーメントには角運動量を保存するようなトルクが働く.また,LLG方程式におけるギルバート緩和項の起源について最近の理論に基づき概説した.
X線反射率法は,薄膜・多層膜の深さ方向の構造を非破壊的かつ簡便に与える実用的な技術である.微小角で単色X線を試料表面に入射させ,その角度を変化させたとき,特徴的な干渉縞を含む強度プロファイルとして取得され,理論式と実験値のフィッティングやフーリエ解析によって,各層の密度・厚さ,表面および各界面のラフネスを決定することができる.原子層レベルのわずかな変化を敏感に検出できる点は特に優れている.また,結晶構造などには依存せず,平坦かつ平滑な表面・界面でありさえすれば,どんな構造のどんな物質の薄膜・多層膜にも適用できる.本稿では,日々の研究開発にX線反射率法をどのように活用できるかという点を主に解説する.
結晶性MgOトンネル障壁を有する磁気トンネル接合をベースとした磁気抵抗型メモリーが注目を集めている.従来,低い磁気抵抗比,大きな書き込み電流のためメモリーとしての用途は限定されていた.しかし,巨大な磁気抵抗比を示すMgO系磁気トンネル接合の登場と,新しい物理現象であるスピントルク磁化反転に基づく低電力書き込み技術の提案により,高密度不揮発メモリーへ実現の可能性が開けた.本稿では,MgO系磁気トンネル接合の開発の経緯,スピントルク磁化反転の物理およびメモリー開発の現状について述べる.
スピントロニクスの分野において注目されているスピントランジスタの集積エレクトロニクスへの応用について述べる.CMOS集積回路にスピンによる機能を効果的に導入することが可能となるスピンMOSFETと,近年大きく進展しているMRAM技術を利用して擬似的にスピントランジスタを構築する疑似スピンMOSFETについて研究の現状を紹介する.また,このようなスピン機能MOSFETの最も重要な応用と考えられるパワーゲーティング・システムについて述べる.
フォトリフラクティブ位相共役鏡を用いてレーザー増幅器内部の熱収差補正を行い,高品位で高出力なピコ秒パルスレーザーの開発を行った.74W励起で26Wの出力が得られ,出力光のビーム品質はほぼ回折限界であった.繰り返し周波数0.33〜1MHzの範囲で動作し,ピークパワーは2.8〜6.8MWに達する.第2の増幅器をカスケードに配置することで,さらなる高出力化を行い,平均出力75Wを達成した.このレーザーシステム設計の指針と今後の展開について概説する.
GaAs/AlGaAs量子井戸構造中の核スピンコヒーレンスの光検出を実証した.円偏光短パルスレーザー光により電子スピンを励起し,超微細相互作用を介して核スピンを分極すると同時に,核磁場の変化によって生じる電子スピン歳差運動の位相変化を,間分解ファラデー回転測定法により検出し,核磁気共鳴(NMR)スペクトルを得る.スピン3/2の75 Asを対象に量子ゲート操作に用いられる多重NMRパルス列を印加し,NMRスペクトルの光検出を行って多準位核スピン系の位相制御を検証した.
近年徐々に注目を集め始めた分子スピントロニクスであるが,過去には再現性や信頼性に難があるなどさまざまな問題を抱えた時期があった.ここでは問題解決に向けた筆者らのアプローチを紹介しながら,筆者らのグループにおける最近の分子を介したスピン依存伝導現象の観測,また室温におけるスピン流の観測などのトピックを紹介する.
遺伝子情報を抽出・解析するツールであるDNAチップは,より高感度化・高精度化が求められている.そのためには固体基板上のプローブDNAの固定化方法が重要なポイントとなる.本稿では,ナノレベルに制御されたDNAから成る自己組織化単分子膜を固体基板上に作製し,固体表面でのDNAの二重鎖形成(ハイブリダイゼーション)に関する独自の研究成果に基づいて,既存のDNAチップの課題を踏まえ,DNAアレイを用いたハイスループット,非標識かつ高感度な新規DNA検出法について紹介する.
ヒートアイランド現象や熱中症のような熱環境問題に焦点を当てて,都市を広域かつ俯瞰的にとらえられる航空機によるマルチテンポラル・マルチスペクトラル画像と,都市の中の生活空間における熱放射環境をとらえるための全球熱画像を示しながら,その特徴や有効性について解説する.さらに,筆者らが開発している環境計測技術と数値シミュレーションによる環境予測・評価技術についても紹介する.