金属や誘電体でできた波長以下のサイズの構造体の集成であるメタマテリアルの導入によって,既存の材料では実現困難な興味深い機能をもった電磁波媒質を実現できるようになった.本稿では,メタマテリアルによって可能となった負屈折率,無反射現象などの特異な電磁波の振る舞いを記述するための波動伝搬理論を述べるとともに,メタマテリアルを利用した完全レンズ,透明マント,ハイパーレンズといった新しい素子の例を紹介する.
テラヘルツ帯では,ワイヤグリッドやfrequency selective surfaceなど金属微細加工体が,偏光子やフィルターなどの光学素子として利用されてきた.この周波数帯のメタマテリアルの構成要素の大きさは数十μmであり,既存の加工技術でも精度のよい試料の作製が可能で,最近現実的な応用も含めた研究が活発になってきた.本解説では,プラズモニック結晶である金属開口配列,スプリットリング共振器メタマテリアル,誘電体立方体メタマテリアルなどの開発の現状と応用可能性について紹介する.
最近の超短パルス超高強度レーザーにより,超小型レーザー駆動粒子線(陽子線,イオン線)発生装置の研究開発が各国で活発になっている.本小論では,この装置開発に関連するレーザーによる粒子(陽子,イオン)加速用プラズマの生成法,粒子加速機構,出射粒子線の性質などを筆者らの研究成果を中心に紹介する.また,本粒子線の医療応用までの開発課題,治療用粒子線を用いた医療側との共同実験なども簡単に紹介する.
本稿では,マイクロ波領域での左手系メタマテリアルを扱う.特に,駆動周波数がチューナブルなメタマテリアルについて論ずる.その中で,筆者らがこれまで行ってきた強磁性金属ナノコンポジットを用いたチューナブルな左手系メタマテリアルの実現に向けた研究を紹介する.
人工的な物性をもつ物質の総称がメタマテリアルととらえれば,50年停滞していた熱電発電の効率改善がメタマテリアルの概念導入により,ここ10年で頻繁に報告されている.ここでは,メタマテリアルによるフォノン輸送の低減と分子動力学計算によるフォノンの理解,さらに計算結果の熱電発電への応用をねらったわれわれの取り組みを紹介する.
近年の微細加工技術の進歩によって,可視光の波長より小さなサイズの特異な形状をもつ人工構造を作製することが可能になった.このような構造体は,光波を制御する人工的な物質として注目されている.光波の偏光回転をもたらす旋光性と呼ばれる現象は,キラル構造と呼ばれる鏡映対称性のない構造によって生じることが知られている.自然界にある物質では,この効果は非常に小さい.われわれは,光の波長程度の大きさの“卍”を周期的に並べた格子構造―キラルナノ格子―において,巨大な旋光性が発現することを見いだした.ここでは,誘電体のスラブ導波路上にキラルナノ格子を形成した構造体が示す巨大な旋光性について紹介する.
光子と電子の散乱は量子電磁気学の最も基本的な過程である.しかし,高強度レーザーによる非常に高い電場下における電子の振る舞いは,単純な光子-電子散乱とは大きく異なると考えられる.近年の高強度レーザーの発展は,これまでは不可能と考えられていたような高強度場中における電子の振る舞いの研究を現実のものとしてきた.本稿では,レーザーの素粒子実験への応用例として,高強度レーザーと電子の相互作用が拓く時空の構造探求の可能性について解説する.
次世代のMOS型素子として,現在,種々の素子構造・材料が提案され,試作されている.膨大な選択肢の中から最も適した素子構造を見つけ出し,それを利用した集積システムを効率的に探索することができるシミュレーション環境の構築を目指し,非平衡グリーン関数法に基づくデバイスシミュレーターを作成した.
リチウムイオン二次電池は電気自動車用電源などへ応用が期待され,新規正極材料の開発が精力的に進められている.本稿では,分析電子顕微鏡法による高容量正極材料Li1.2Mn0.4Fe0.4O2の充放電機構解明に関する研究を紹介する.As-prepared試料と初回充放電の各過程のSTEM-EELS観察から,各粒子内にはFe含有Li2MnO3とMn含有α-LiFeO2がナノドメインとして共存すること,両ナノドメイン領域でLi脱離・挿入の挙動が異なることが見いだされた.本材料の化学ナノドメイン構造(アニオン格子は連続して共通だが,カチオン配置にナノスケールのドメインが存在する構造)が両領域の活性化に効いていること,酸素による電荷補償が高容量化にかかわることなど,電極材料の設計指針につながる知見が得られた.
ナノ構造体の電気伝導計測における「電極問題」を回避するため,X線内殻励起とその脱励起過程を利用する新しい非接触測定法を紹介する.この方法を,X線吸収原子としてKr原子を内包するArクラスターと,同じくBr原子を有する芳香族分子に適用し,X線吸収後の脱励起過程を光電子-光イオン同期計数法と多イオン同時運動量イメージング法により観察した.その結果,希ガス・クラスターでは絶縁性を,芳香族分子では導電性を実験的に確認した.
2001年の,金属間化合物では最高のTc(超伝導転移温度)をもつMgB2の発見以来,その2ギャップ(2バンド)超伝導という特異な基礎物性の研究とともに,超伝導線材化へ向けた多くの応用研究がなされてきた.この発見が,学術的にも工業的にも大きなインパクトを与えたものであったことは,発見から8年余りの間に行われた研究とその進展をみれば明らかであろう.本稿では,これまでに明らかにされてきた基礎物性研究と線材開発研究の最近の動向を踏まえ,超伝導体MgB2 の発展と応用に関して報告する.