大型研究開発プロジェクトは新たな技術を創出する「場」として期待されており,経済産業省は新市場の創出や産業の競争力強化につなげることを目指している.企業や大学は,国プロに使われるのではなく,国プロを使いこなし,幅広く共創を目指すという視点が重要であろう.
大学が本格的に参入した NEDO 傘下の二つの大規模な産学官プロジェクトについて略記し,そこでの筆者の経験に基づいたプロジェクトの効用について述べる.連携と融合をいかに促進し加速するか,その過程においていかに人材を育成するのか,具体的な提案をする.持続性が保障された社会の実現のために今後の学会が担うべき積極的役割についても言及する.
1982年に筆者らが提案した量子ドットおよびそのレーザー応用に関する研究開発は,2002年から2007年まで推進された文部科学省世界最先端I T国家実現重点研究開発プロジェクト「光・電子デバイス技術の開発」,および経済産業省高度情報基盤プログラム「フォトニックネットワークデバイス技術開発プロジェクト」において強力に推進され,市場化の可能性が明確化された.さらに,2006年から始まった科学技術振興調整費先端融合領域イノベーション創出拠点プログラム「ナノ量子情報エレクトロニクス連携研究拠点」プロジェクトにおいては,量子ドットレーザーの研究開発が加速化されるとともに,量子情報デバイス,フレキシブルエレクトロニクス,エネルギー変換デバイスなどの研究開発が行われている.2006年には,上記プロジェクトの研究開発に基づき,株式会社QDレーザーが設立され,量子ドットはイノベーション創出に向けて本格的に貢献する体制が整った.本稿では,量子ドット光デバイスについて産学連携を基軸にして強力に研究開発を推し進めた国家プロジェクトの発足の経緯を中心に論じる.
最近,太陽光発電が環境,エネルギー,経済の観点から注目を浴びている.日本は1974年以来,太陽光発電の研究開発に関する国家プロジェクトにおいて長い歴史を有する.太陽電池に関する国家プロジェクトの現在,過去を振り返りながら,今後の研究開発の展望について紹介する.
2001年度から現原子力機構 JAEA と高エネ機構 KEK が共同で建設を開始した J-PARC は,世界最強の陽子ビームによる核反応で発生する各種の第2,3次ビームを利用する多目的研究施設であり,2008年度で建設を終了し,今年度から利用のフェーズに入った.3台の大強度陽子加速器を基盤として,中性子,ミュオンを利用する物質・生命科学実験施設,ハドロン,ニュートリノを利用する原子核・素粒子実験施設,さらに今後建設が計画されている核変換実験施設が設置され,国際的な共同利用に供される.これら複合施設のシナジー効果により,J-PARC は基礎・応用研究から産業利用に至る第一線の科学技術を主導することが期待されている.本誌では,読者の関心が高いと思われる物質・生命科学実験施設を中心に紹介する.
MIRAIプロジェクトは,微細化の続くシリコン半導体デバイス技術開発を加速するために,2001年に開始したプロジェクトである.これまでに,新構造トランジスタ技術,高誘電率材料ゲートスタック技術,低誘電率材料配線モジュール技術,リソ関連計測技術などを開発してきている.現在は,第3期であり,バリスティックデバイス基盤技術,ばらつき制御技術,革新配線基盤技術,EUVマスク基盤技術,EUV光源高信頼化技術などの最先端デバイス・プロセス開発を進めている.本稿では,(株)半導体先端テクノロジーズ(Selete)にて実施している開発プログラムについて,最近の成果と今後の予定を紹介する.
レーザープラズマ研究は,レーザーの高出力化とともに発展し,レーザー核融合,レーザー加速,レーザー粒子線源,などの研究分野が広がりつつある.特に,1985年に超短パルス超高強度レーザーを実現する CPA 法(Chirped Pulse Amplification)が発明されて以来,相対論的レーザープラズマの実験・理論研究:高速点火レーザー核融合やレーザー加速器の研究が急速に進展している.
南米チリの標高約5000 mの広大な高地に,究極の地上電波望遠鏡となるアタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計(ALMA)の建設が東アジア・北米・欧州の国際共同プロジェクトとして推進されている.最先端の技術を駆使することによって,これまでにない高解像度,高感度でマイクロ波からテラヘルツ波に迫る電波の観測を可能にする.本稿では,プロジェクトの概要を述べるとともに,天文学の要請に応えるために日本が取り組んできた高精度アンテナ技術,超伝導ヘテロダイン受信機技術,位相補償技術について紹介する.
従来の工学研究では,ノイズを抑制しシステムを正確に同定,制御することを目的としてきた.しかしながら,システムの複雑化に対応するとともに,より動的な環境へ高い適応性をもつシステムを実現するには,生命機能に学んだ新しい概念が必要となる.それが本稿で紹介する“ゆらぎ”である.本稿では,生体におけるゆらぎ解析の研究から工学応用にわたる一連の研究を紹介するとともに,その可能性と今後の課題について議論する.