ビスマス系超伝導体が金属材料技術研究所(現物質・材料研究機構)の前田博士らによって発見されて以来,住友電工ではこの物質の線材化,応用製品開発に取り組んできた.この間20年以上が経過し,線材の長尺化,高性能化が着実に進展し,実用規模の応用プロトタイプの試作や実証プロジェクトが世界規模で行われている.線材化では加圧焼結法の開発によりビスマス系超伝導線材が工業材料としての地位を確立し,応用分野として電力ケーブルや船舶用などの大型モーターの開発が実用期を迎えようとしている.超伝導は究極の省エネ技術であり,炭酸ガス排出削減,地球温暖化防止に貢献できる技術として,実用化の促進が期待されている.
高温超伝導材料の発見以来,液体窒素温度における応用も含めて超伝導応用への期待が高まっている.開発先行しているBi系超伝導線材に対し,Y系超伝導線材は,さまざまなメリットがうたわれていたが,その作製の難易度の高さにより開発が遅れていた.この技術分野において国家プロジェクトで大きな進展がみられ,500mで300A/cm幅のI c を有する線材が作製できるレベルまで到達した.この成果を受けて機器の要素技術開発が開始され,昨年度からは本格的に電力機器技術開発が始動しており,この線材がようやく世に姿を現そうとしている.本稿では,上述プロジェクトの成果を中心にY系超伝導線材の現状を総括し,さらにその展開として機器開発の状況を紹介する.
鉄系超伝導体の発見より,早一年半が過ぎようとしている.短い時間にもかかわらず精力的な研究が進められ,良質な試料が作られるに伴い物性も徐々に明らかになってきた.本稿では,鉄系超伝導体の結晶構造と超伝導特性に着目し,これまでにわかってきたことや線材化への取り組み,今後期待される新物質などについて述べたい.
絶縁体や金属に添加された希土類元素の発光機能や磁気機能はよく知られており,蛍光体や希土類磁石としてすでに実用化されている.われわれは半導体へ原子レベルで制御して添加された希土類元素を研究対象とし,希土類元素特有の発光機能や磁気機能はもちろんのこと,それらを融合した新機能性を開拓することを目指している.本稿では,希土類元素特有の発光機能を取り上げ,Er,O共添加GaAsに発現するErイオンの協働現象と超高速なエネルギー輸送機構について述べる.また,Eu添加GaNを活性層とした発光ダイオードにおいて観測される室温での赤色発光について紹介する.
フラットパネルディスプレイ用薄膜トランジスタ(TFT)の歴史をひも解いた.電界効果型トランジスタの一種であるTFTのデバイス構造と原理を述べ,現在実用化されているシリコン系デバイスを比較した.新規TFTとして,微結晶Si -TFT,酸化物半導体TFTおよび有機半導体TFTを紹介し,大画面高精細ディスプレイおよびフレキシブルディスプレイへの応用と将来を展望した.
先進超伝導材料として,近年精力的な開発が行われている希土類系高温超伝導線材の実用性能制限因子を明らかとし,作製プロセス開発ならびに機器応用のための基盤を確立することを目的に,筆者らのグループで取り組んでいる超伝導材料の局所的電磁気特性評価を可能とする新しい評価技術について,最近の成果を交え紹介する.
ユニットセル内に,結晶学的に異なる複数種のCuO2 面を有する多層型高温超伝導体は,複数の超伝導ギャップをもつ多バンド超伝導体であると考えられる.20年以上にわたって,この観点から研究を進め,バンド間位相差ソリトンの理論的発見や,このモデルに基づく新しい超伝導エレクトロニクスの可能性について提案してきた.本解説記事では,この分野の最新の動向について紹介する.
今世紀に入りわが国で誕生した新超伝導体,二ホウ化マグネシウム(MgB2)と鉄ニクタイド系は,「BCS理論の限界」を上回る高い超伝導転移温度をもつほか,マルチギャップ超伝導に由来した特異な性質を示す.さらに電磁的異方性が低く,きわめて高い上部臨界磁場をもつことから,次世代超伝導材料として医療用MRIなどへの応用が期待されている.本稿では,上部臨界磁場と臨界電流密度に及ぼす,マルチバンド効果と結晶粒界の影響に関する著者らの最近の研究を紹介し,従来型金属系や銅酸化物系との比較をもとに,MgB2 と鉄系超伝導体の超伝導材料としての特徴と実用化への展望について議論する.
白色LED用蛍光体である,Ce : YAG微粒子を析出させた結晶化ガラス材料の開発に成功した.Y2O3-Al2O3-SiO2 系組成にCe2O3 を添加したガラスを溶融法で作製した後,1200°C 以上の高温で熱処理することにより,体積分率約40% でYAG結晶を単一相で含む材料を得ることができる.試料は半透明で,蛍光特性は粉末Ce : YAG蛍光体とほぼ同等であり,460nmの青色光を吸収し,540nmピークのCe3+ : 5d→4f遷移によるブロードな発光を示す.60% がシリケートマトリックスであるため,高温高湿化でも優れた耐久性を有し,今後の高出力一般照明用白色LED構成材としての用途が期待される.
サファイア基板上に高品質の無極性面・半極性面GaNを成長する新しい結晶成長技術を考案した.a 面{11-20}サファイア基板およびr面{10-12}サファイア基板の表面に,エッチングによりc 面近傍の側壁が露出したトレンチ構造をストライプ状に形成した.成長条件を選ぶとc 面近傍の側壁から選択的にGaNの成長が起こり,横方向成長を経てa 面サファイア加工基板上には無極性m 面{1-100}GaNが,r 面サファイア加工基板上には半極性{11-22}面GaNが成長することを実証した.サファイア基板の面方位を選択し,GaNの成長条件を最適化すれば,サファイア加工基板のc 面近傍側壁から,従来のc 面GaN成長を行う基本的な操作により,原理的にはすべての成長可能なファセット面のGaNをサファイア基板上に成長することが可能である.
半導体はパソコンや携帯電話をはじめとして現代の情報社会に欠かせない.本稿では,バンド構造,有効質量,フェルミ準位などの半導体の基礎概念と,半導体を機能材料として活用するために必須である半導体中の浅い不純物について解説する.