カーボンナノチューブとグラフェンの20年間の研究の展開を中心にお話しする.ナノチューブは,金属半導体の分離が可能になり,デバイス応用に向けて大きな進展があった.またグラフェンデバイスでは,その特異な電子状態から高速に動作するデバイスの可能性が議論されている.
カーボンナノチューブやフラーレンを代表とするナノカーボンの過去20年間の発展を,新奇物質の創製と評価の観点から解説する.特に,フラーレンやナノワイヤを内包したカーボンナノチューブ(いわゆるピーポッド)の創製と構造,および,その特異な電子物性を議論する.
アルコールを原料とした触媒CVD法は,合成可能温度範囲や圧力範囲が広く,簡便な装置で高純度のサンプルが合成できることから,最も一般的な単層CNT合成法となっている.また,基板に対して垂直配向や水平配向,架橋合成,パターン合成などのさまざまな形態の単層CNTの合成が実現し,成長メカニズムの分析のためのその場成長観察,新たな触媒微粒子の探索などが進んでいる.さらに,単層CNTの直径制御,2層CNTやグラフェンの合成も実現している.
近年,在宅医療用の診断チップに向けたバイオセンサーの開発が盛んに行われている.ナノカーボンはその特異な構造・電気特性からバイオセンサーへの応用が期待されている.本稿では,単層グラフェンをチャネルに用いたグラフェントランジスタを用いて化学・生体分子センサーへの応用を試みた研究を紹介する.
われわれは,半導体型および光ファイバー型非線形素子に代わる小型かつ高速な新しい非線形素子を提案している.カーボンナノチューブ(Carbon Nanotube : CNT)がそれである.本稿では,CNTを用いた光非線形特性について述べる.さらに,CNTを用いた受動モード同期光ファイバーレーザーと光非線形機能デバイスの研究についての現状を報告する.
CNT電界効果トランジスタに関して,コンタクト金属の仕事関数とトランジスタの導電型との関係,F4TCNQ を使ったケミカルドーピング,プラズマCVDを用いた半導体的振る舞いを示すCNTの優先成長・原因解明と薄膜トランジスタ応用,水平配向成長技術,n型CNT-FET作製技術に関するわれわれの取り組みの一端を紹介する.
単層CNTは数eV〜数十keVの粒子の照射により損傷を受ける(低エネルギー照射損傷).このため,電子線や真空紫外線などを用いる分析手法を利用する際には,損傷の発生について注意が必要である.本稿では,この低エネルギー照射損傷の特徴や生成する欠陥の性質について述べる.また,生成された欠陥によって電気特性に現れる金属 -半導体転移について紹介する.
ユニークな集合体形状をもつカーボンナノホーンは,種々の応用展開が期待されているが,本稿ではその一つである燃料電池応用の可能性について報告する.カーボンナノホーン集合体には,ナノサイズの白金触媒を緻〔ち〕密〔みつ〕に担持することが可能であり,燃料電池の出力密度の向上に寄与することがわかった.また,カーボンナノホーンの産業応用に不可欠な大量合成法についても装置試作の結果を紹介する.
カーボンナノ材料のバイオ応用研究が進み,ガンの新規治療法開発を目的とした研究が盛んに行われている.カーボンナノチューブやカーボンナノホーンは,多様な化学的,物理的修飾により多機能性を獲得できるため,がん治療に有望であることが明らかとなってきた.本稿では,カーボンナノチューブのドラッグデリバリーシステムの現状を紹介するとともに,われわれの行ってきたカーボンナノホーンのマウスにおける抗がん治療成果を紹介する.
近年,「量子コンピューター」や「量子暗号」などの「量子情報通信」技術が注目を集めている.その中では,「量子もつれ」あるいは「エンタングルメント」という量子力学特有の性質が重要な役目を果たす.だが,量子もつれについて,言葉は知っていてもその本質についてはあまりよく知らない,という方も多いと思う.この講座では,量子もつれについて,できるだけわかりやすく(舌がもつれないように),かつ本質をとらえられるように解説することを試みてみたい.