液晶ディスプレイの産業規模は驚くべき速度で拡大した.その原動力となったのが,薄膜トランジスタ(Thin Film Transistor : TFT)技術の進歩である.非晶質シリコン(Amorphous Silicon : a -Si)TFT技術は大型液晶TVを生み出し,低温ポリシリコンTFTは携帯電話などの中小型ディスプレイの中核技術となった.さらに,多様なTFT技術シーズが次々と生まれており,情報インフラと生活スタイルにマッチした新たな情報機器の出現を予感させる.本稿では,これまでのTFT技術開発の歴史を振り返り,これからの発展の方向を薄膜トランジスタ技術イノベーションの観点から展望する.
低温多結晶シリコン薄膜トランジスタは,次世代の情報端末システムオンパネルを実現するための有望な技術である.高性能化を目指して,さまざまな低温結晶化技術が検討されてきた.本稿では,われわれが開発したグリーンレーザーによる結晶化法や金属ナノドットを用いた金属誘起横方向結晶成長法について解説した.また,電気的ストレスに対する信頼性評価技術として,動作中の微弱な発光を活用したホットキャリア解析法やジュール熱劣化を分析する赤外線発熱解析法などの解析技術についても紹介した.
アモルファス酸化物半導体をチャネル材料に用いる薄膜トランジスタは,≥〜10cm2 · V-1 ⋅ s-1 の移動度と高い安定性を示す次世代薄膜トランジスタの最有力候補である.本稿は,実用化が近づく,アモルファス酸化物半導体の薄膜トランジスタへの応用における課題の現状と将来展望を解説する.
薄膜トランジスタ(TFT)は,低温で形成できるため,ガラスやプラスチックといった材質の大型基板に低コストで作製できるという特長があり,これまで,フラットパネルディスプレイに広く応用されてきた.しかしながら,その特長を踏まえると,さらなる応用を提案できる.本稿では,TFTのフォトデバイス応用と題して,その電気光学特性の実験と解析,および,外光センサーやエリアスキャナーさらにはバイオミメティクス分野としての人工網膜といった新たな応用の可能性について報告する.
有機材料は柔軟性,軽量といった特徴を有し,低温・低環境負荷かつ大面積デバイス製造に適した塗布・印刷法が適用でき,無機半導体にはない革新的材料系である.本研究報告では,従来の有機薄膜トランジスタの課題を解決できる可能性を秘めている縦型有機トランジスタを中心に,筆者らが進めている最近の研究紹介と期待される応用分野について述べる.
近年,ユビキタスネットワーク社会の現実化が進み,タブレット型コンピューターやスマートフォンなどの普及が加速している.これらモバイル機器への要求として,良好な表示品位と携帯性のよさ,すなわち「薄い ・ 軽い ・ 割れない」が挙げられる.当社では,表示品位を維持したまま,ガラスでは実現できない「軽い ・ 割れない」を満たすことのできるフラットパネルディスプレイ用フレキシブル基板開発を進めており,本稿では,開発を行ったプラスチック基板(スミライト®TTR)の紹介を行う.
カーボンナノチューブ(CNT)を使った薄膜トランジスタに関する研究を紹介する.CNTは電気伝導性や化学的安定性に優れ,塗布・印刷できる半導体材料として有望である.ここでは,CNT薄膜の特性制御,金属・半導体CNT分離技術,ディスペンサーやインクジェットを用いた塗布・印刷CNT薄膜トランジスタ試作について紹介する.
炭素原子の単層シート:グラフェンは,電荷キャリアが相対論的粒子として振る舞い,バンドギャップレス,キャリア有効質量消失,巨大キャリア移動度など,通常の二次元電子系とは異なる特異な伝導現象が現れることから,トランジスタの新しいチャネル材料として注目されている.本稿では,グラフェンチャネルトランジスタの研究開発の現状と将来展望について述べる.
InP基板上に形成したInGaAsを活性層にもつトランジスタは,その電子の高移動度をさらに生かせるヘテロ接合をもった高電子移動度トランジスタ(HEMT)とヘテロ接合バイポーラトランジスタ(HBT)において,トランジスタとして最高の速度を示し続けている.その性能維持には縦のヘテロ構造の微細化と電子ビーム露光による横の構造の微細化,さらに電流密度の増大などを組み合わせて行われてきた.この報告では,筆者の実例を交えつつ,その現状を紹介したい.
本稿では,ポルフィリン誘導体を用いたトランジスタ型分子接合の電気伝導特性の結果を基に,分子接合における分子の役割と単分子トランジスタへの応用について述べる.また,金ナノ粒子/有機分子複合体を用いた単電子トランジスタについて紹介する.