現代社会は高度な情報・エレクトロニクス技術により,さらに効率的で便利で豊かな社会へと大きく変貌しつつある.その情報・エレクトロニクス技術を根底で支えている基盤技術は,間違いなく半導体シリコンテクノロジーであろう.シリコンテクノロジー分科会では,国際半導体技術ロードマップ(ITRS)に代表される短期的な技術進展予測を踏まえて,2040年までの長期的なビジョンにおいて,未来社会とシリコン技術のかかわりについて,アカデミックロードマップを取りまとめた.
有機・バイオエレクトロニクス分科会は2007年に「有機エレクトロニクス」に関連する技術分野を有機ELデバイス,高分子ナノ材料,有機太陽電池,有機光非線形材料,有機トランジスタ,分子デバイス,有機エレクトロニクス材料,有機エレクトロニクス計測・評価技術,有機エレクトロニクス界面幾何工学に分類し,本技術分野の将来展望に関するロードマップを作成した.引き続いて,2009年には,技術発展史ロードマップを作製した.本稿では,ロードマップに記載した本分野の将来展望について概説する.
「テラヘルツエレクトロニクス」はマイクロ波領域から発達したエレクトロニクス技術と光領域から発達したフォトニクス技術がテラヘルツ周波数領域において融合し,大きく発展しつつある領域である.テラヘルツエレクトロニクスを支える基盤技術およびその応用に関する将来展望を述べる.
量子情報技術とは,量子力学的効果を積極的に利用することにより,従来よりも優れた情報処理や情報通信を可能にする革新的技術である.本解説では,量子情報技術とそれにかかわる物理に関して,期待も含めた今後の展開予測をする.量子コンピューターを主とした“コンピューティング”,量子暗号・量子符号化技術を主とした“コミュニケーション”,量子標準・量子計測を主とした“量子新技術”,すべての技術の基礎となる“デバイス・基盤技術”の四つの項目について,それぞれの将来像や技術課題を俯〔ふ〕瞰〔かん〕するとともに,環境・エネルギー問題との関連について言及する.
フォトニクスは,光通信,光波シンセシスや分光計測をはじめとする光科学,レーザー加工をはじめとする製造,さらには医学まで,極めて広い範囲で人類の発展,福祉に寄与する重要な学術・技術領域である.これら広範な範囲を項目ごとに,その将来像を俯〔ふ〕瞰〔かん〕する.また,環境・エネルギーへの貢献という観点からも横断的に予想する.
光学は階層構造を成し,融合と細分化を通して進展し続ける.この中で基盤分野においては,ナノスペースを舞台とするメタマテリアルやプラズモニクスによる新機能材料の開発が重要である.デバイスについては,ナノサイズで高密度・高速・低消費電力の新しい光・電子デバイスが期待され,同時にナノ・マクロインターフェースデバイスの開発も期待される.これらの技術を包含した光メモリーや高機能空間光変調器などを用いて,次世代の光コンピューター,3Dディスプレイおよび高機能光計測技術などの“イメージ”が浮かび上がる.一方,人間科学も研究が進み,光学と融合した新しい人間科学・医療技術の進展も期待される.
放射線分科会においては,「放射線理工学」に関連する技術分野を,より小型の装置で質の高い放射線を発生する「次世代放射線源」,放射線のエネルギーや入射位置などを高い精度で計測する「次世代放射線検出器」と,それら二つの技術を統合した「先進放射線応用」に分類してロードマップを作成した.
SiCやC(ダイヤモンド),GaNなどのIII-V族窒化物半導体,さらにZnOのようなII-VI族半導体など,いわゆるワイドギャップ半導体にはSiやGaAsにはない優れた特長があるため従来の材料ではカバーできない領域のエレクトロニクスへの応用が期待されている.ここではワイドギャップ半導体の結晶成長,デバイス技術,そしてシステム応用に分類し,将来に向けた技術潮流を1枚のメインロードマップに示した.さらにワイドギャップ半導体の優位性を発揮できる領域として特に情報通信エレクトロニクス,エネルギーエレクトロニクス,耐環境・極限エレクトロニクス,生体応用・医療エレクトロニクスの4領域を選んでサブロードマップで示した.
結晶材料や結晶評価を含めた広い意味での「結晶成長技術」の潮流を俯〔ふ〕瞰〔かん〕する.材料技術の視点から,結晶成長技術の将来ビジョンとして,①「より大きく」,②「より小さく」,③「Siへの融合」,④「フレキシブル」,の四つを重要なキーワードとして選定した.それぞれのビジョンを解説するとともに,これらの材料技術に対応した新しい結晶成長技術の方向を展望する.
プラズマ・プロセス技術クラスターでは,将来的に社会の根幹を支え続けるデバイスを作製プロセスの観点から三つに分類した.それらは,直近のエレクトロニクスデバイス,その先の分子レベルデバイス,究極の原子レベルデバイスである.これらのデバイスの作製プロセスの実現に必要な研究課題をトップダウンプロセス,ボトムアッププロセス,および共通基盤技術に分けて概説した.
スピントロニクスは固体中のスピンを積極的に利用して新しい素子・システムを構築することを目的とする科学技術分野であり,消費電力増大といった既存技術の課題の解決が期待される.本稿では,スピントロニクス分野において重要と考えられる六つの研究領域についてその将来展望を述べる.
バイオエレクトロニクスやバイオテクノロジー分野では,近年,生体分子や生態系に固有の非常にユニークでオリジナルな機能に基づく人工臓器,生体適合性材料,バイオ燃料電池,バイオセンサー,ドラッグデリバリーシステムなどの研究開発が盛んに行われている.また高齢化時代を迎え,日本人の健康や長寿に対する要求がさらに高まっており,将来,人類として必要になると考えられる介護ロボット,高度医療システムなどの開発が望まれている.本分野の将来に対する目標は持続可能な社会,不老長寿,個の医療などを通して社会に貢献することととらえ,ロードマップを作成した.
マイクロ・ナノメカトロニクス(MEMS/NEMS)技術は,次世代の半導体エレクトロニクスにMore than Moore的な高付加価値をもたらす技術として期待されている.本ロードマップでは,マイクロセンサー,アクチュエーター,システム,MEMSによるサービスなど,シーズとニーズの両方から将来の展望を述べる.
ナノ構造技術,ナノテクノロジーは,物質をナノメートルスケール(10-9 m)で制御して発現する多彩な機能とその応用を取り扱う分野で,物質開発とデバイス作製に関する究極のテクノロジーであり,新しいサイエンスを生み出す場でもある.本稿では,2010年3月に応用物理学会が作成したアカデミック・ロードマップおよび発展史マップに基づき,ナノ構造技術における将来ビジョンを同分野の発展史も含めながら概観する.ナノ構造技術の将来ビジョンのメインマップでは,①デバイス・プロセス,②ナノ計測,③ナノ材料の3分野に分けてその将来展望を記述している.またメインマップに加えて,それぞれの分野に対応して,「ナノ構造技術の発展」,「ナノ構造作製・評価技術(SPM)の発展」,「カーボンナノチューブ技術の発展」と題する3枚のサブマップを作成している.本稿ではこれらの分野の展望を簡単に述べる.
超伝導は約100年の歴史をもつ.超伝導材料のこれまで50年間の発展は主にNb,Nb -Ti,Nb3Snなどの金属系超伝導物質によるもので,MRIや磁気浮上列車に代表される磁石応用,SQUIDや電圧標準などに代表されるエレクトロニクス応用など,超伝導技術の多方面への途を築いてきた.1986年に発見された高温超伝導体は,送電ケーブルなど新しい超伝導応用の分野を拓くなど,超伝導技術の将来像を大きく変え始めている.以上を踏まえ,本稿では2040年までの超伝導技術の展開について物質・材料開発,線材応用,エレクトロニクス応用に分けて概説した.
科学技術の側面を重視しながら,食糧技術の今後の約30年の将来ビジョンについて考察する.歴史的に考えると,世界人口の推移に呼応して食糧生産に関係する注目すべき技術が数多く出現している.食糧技術の発展史で注目すべき要素は,品種改良,化学肥料,農薬,灌〔かん〕漑〔がい〕技術,農業機械および物流技術である.一方,歴史的な蓄積技術だけでは世界的に複雑化する食糧問題を解決することが困難になっており,革新的な科学技術への役割に期待が高まっている.したがって,食糧技術の将来ビジョンについては,革新技術の観点で食糧・食品の安全性向上,地球環境への適応および自給率向上の3項目に関して論じた.食糧技術を狭い局所最適論で展開すると,地球生命のサステナビリティが維持できないので,持続可能な地球視点(エネルギー・資源・環境との相互作用)を特に重視した.
最先端医療において重要な役割を担う医療エレクトロニクスの将来ビジョンを,「ユビキタス医療」,「体外からの低侵襲診断・治療」,「体内で診断・治療する技術」,「機能代行と再生医療」の4テーマに分類して概説した.応用物理が関係している要素技術には医療エレクトロニクスの発展に寄与するものが数多く含まれている.これらの技術シーズが医療機器開発に応用されることが期待される.
温暖化と資源の枯渇を克服し,持続可能な社会を築くことが人類喫緊の課題である.持続可能な具体的社会像と,今後10〜20年に開発すべき技術群を描いた.自然エネルギーへの大胆な転換と画期的な省エネルギー技術の普及が必須で,特に,太陽光からの燃料の直接生産の実現がキーとなる.これらの産業技術は新たな経済発展のテコになると期待される.
人材育成は中長期的課題である.しかしながら,大学工学部への進学者は長期的減少傾向を示し,少子化の進行と相まって,科学技術創造立国をうたうわが国の土台を揺るがしかねない.ここでは,若手研究者,女性研究者・技術者らの観点から,人材育成クラスターで議論を行った問題点と提言についてまとめる.
走査電子顕微鏡像には,試料表面のマクロな形状だけでなく,ドーパントや結晶性などによる材料物性,原子レベルの形状や構造変化,帯電状態の変化などを反映したさまざまなコントラストが現れる.これらのコントラストは半導体材料やナノ構造体の実用的な観察法として利用されている.