シリコン超々大規模集積回路(ULSI)は,Mooreの法則を指導原理として,スケーリングに基づいた微細化を推し進めることで発展してきた.しかしながら,技術的,コスト的な面から,将来の微細化に対する壁が次第に見え始めており,スケーリングに代わる新しい技術開発指針が求められている.ここでは,微細化に依存することなしにULSIデバイスの高性能化,高集積化,高機能化を実現する技術をポストスケーリング技術として捉え,その現状を将来への期待を含めて概観する.
分子エレクトロニクスは,AviramとRatnerの単一分子ダイオードの提案から38年という歴史をもつ.単一分子を電極で架橋した単一分子接合は,新たな物性発現の低次元構造体として基礎科学の面からも注目を集めている.それ以外にも金属錯体分子膜の高い電子移動能,導電性高分子電極,分子機械を利用したデバイスなどさまざまな研究が報告されている.本稿では,単一分子接合から単分子膜トランジスタ,分子機械を利用した分子素子,2次元平面を利用した超分子構造体の電気伝導測定など分子エレクトロニクスの最新の動向と今後の展望について解説する.
構成要素をナノスケールまで微小化した電気機械システムをナノエレクトロメカニカルシステム(NEMS)と呼ぶ.NEMSは,ナノ寸法化した機械振動子がもつ極めて高い共振周波数やQ値といった新奇な機械共振特性をフルに活用して,革新的な機能や性能を創出する.超高速・高感度センサはその代表的な応用分野である.ここでは,NEMSという新しいナノテク分野の研究について,主要素であるナノメカニカル振動子の特徴,NEMS開発のための振動測定技術,高性能なナノ機械振動子の作製技術,およびセンサ応用に向けた研究例について紹介する.
スピン角運動量の流れを表すスピン流は,ナノスピンデバイスにおける磁化反転(書き込み)技術に革新をもたらしただけでなく,ナノエレクトロニクス・デバイスにおける新しい情報伝搬媒体としても注目されている.本稿では,スピン流の生成・伝搬機構について概説し,スピンデバイスの高性能化におけるスピン流の重要性について述べる.さらに,電気の流れを伴わない純スピン流とその制御技術についても紹介し,それらを応用することで実現が期待される高性能スピンデバイスの課題と今後の展望について述べる.
生物学の進化によりタンパク質超分子の構造と機能の理解が深まってきている.バイオミネラリゼーション研究(生物的無機材料合成)でも,タンパク質表面と無機イオンや材料表面の動的相互作用をナノ領域で明らかにしつつ,バイオ+無機材料複合体やナノ粒子,ナノワイヤの作製ができるようになってきた.得られる複合体はナノメートルオーダで制御でき,量子効果や触媒作用増強などの機能発現も確認されることから,ナノテクノロジーの基本部品として注目されている.さらにこの複合体は自己組織化能力をもつことから,トップダウン加工では作製できないエレクトロニクスデバイスのナノ構造作製が試みられ始めている.いくつかのグループでは既にそのナノ構造を生かしたメモリ,単電子トランジスタ,電池電極,量子効果素子などが実現されている.このバイオとナノテク,エレクトロニクスの融合はまだ始まって間もないが新しいフロンティアが拓【ひら】かれつつある.
らせん形成ペプチドについて,鎖長を変え,また,さまざまな官能基で化学修飾し,STM観察による単分子コンダクタンスなどを評価することで,有機分子を介しての電子伝導機構が複数種存在することを示し,また,分子エレクトロニクスに分子ダイポール工学が寄与できる期待を紹介する.
半導体のマイクロ・ナノ加工技術により作製したナノ計測のツールやナノメカニカルな高感度センサ,ナノメカニクス特有の現象とそのセンシング応用について概説する.走査型プローブ顕微鏡用のマイクロプローブにアクチュエータの機能を付与すると,表面の原子や分子などの質量分析やナノスケールの電気計測などに応用できる.また,マイクロからナノスケールの微小な振動子は,高感度な質量センサや力センサとして応用でき,新しい化学・バイオセンサや磁気共鳴を利用した3次元のナノイメージングに適用される.極薄のSi構造は機械的な非線形性をもち,これを利用すると振動子において,同期現象や確率共鳴などを起こすことができ,微小な世界でのセンサとして利用できる.また,非線形効果を利用し,極めて高感度な熱量センサが実現できる.
ナノ構造を利用して人工的に熱伝導率を低減することで,熱電効果を利用した発電効率がここ10年で大きく改善されてきた.一方で電子デバイスの省電力化が進み,身近にある小さなエネルギーでデバイスを駆動させるエネルギーハーベスティング技術の開発も盛んとなっている.本稿では,それぞれの動向とそれらナノテクとマイクロ加工を融合させた研究について紹介する.
アトムトランジスタは,ゲート電極から供給された金属イオンが絶縁体薄膜中を拡散し,ゲート電極に対向して設置されたソース・ドレイン電極間に伝導経路を形成することで動作する.絶縁体でオフ状態を,金属でオン状態を実現することから,極めて低いリーク電流特性と高いオンオフ比が得られる.用いるゲート電圧に依存して,揮発性動作と不揮発性動作の選択動作が可能であることもわかってきた.
近年,ナノメートルスケールの直径を有する半導体ナノワイヤが,ナノエレクトロニクス・フォトニクス・グリーンデバイスの構成要素として注目を集めている.本稿では,有機金属気相選択成長法によるIII-V族化合物半導体ナノワイヤ成長について,シリコン基板上の集積技術を紹介し,位置・サイズ・配向制御された半導体ナノワイヤの幾何的特徴を利用したナノワイヤ発光ダイオード・縦型サラウンディングゲートトランジスタ・太陽電池応用について紹介する.
電子の電荷とスピンの両者を駆使することで新しい機能を生み出す「スピントロニクス」は,ハードディスクの高性能な読み取りヘッドや磁気ランダムアクセスメモリを生み出し,現在も急速な進化を続けている.本稿は,スピントロニクスへの平易な入門を意図している.スピンとは何か? からスタートし,スピンのもたらす諸現象を駆け足で紹介した後,これらの基礎にある概念とスピントロニクスの物理の考え方を解説する.