最近,イメージセンサにおいて,高解像度,高感度,低ノイズなど性能は飛躍的に向上してきた.さらに,ダイナミックレンジ(DR)についても,新しい広DR技術が開発され,最新の高性能デジタルカメラや監視カメラでは,明暗の差が大きい条件でも白とびや黒つぶれが抑制された撮像が行えるようになってきた.本稿では,CCD,CMOSイメージセンサにおけるダイナミックレンジ制限要因について述べ,最近の主な広ダイナミックレンジ技術として,対数圧縮,複数回露光,横型オーバーフロー蓄積容量技術などについて解説する.
超伝導技術は電気標準にはなくてはならないものである.特にジョセフソン接合素子は直流電圧標準の一次標準として利用されており,量子効果が産業へ応用されている好例である.本解説ではジョセフソン効果とその直流・交流電圧標準への応用,超伝導の遮蔽効果を利用した極低温電流比較器などを中心として,開発の経緯と今後の発展などを概説する.
各種センサをワイヤレスでつなぐネットワークシステムは,ユビキタスネットワーク社会を支える重要な技術の一つである.本稿では,工業オートメーション用センサの出力をワイヤレスでリアルタイムに収集するネットワーク技術の開発最新動向と実際の応用例を紹介する.さらに,推進中の工業用無線通信標準化の動向について解説する.
高速イメージング技術の進歩に伴い,高フレームレートでの画像処理並びにその活用が期待されている.本稿では,高速ビジョンの処理アーキテクチャ,システムの設計指針を述べるとともに,能動光学系の構成要素としてのアクティブビジョンと可変焦点レンズの構成を示し,高速ビジョンを用いた,ジェスチャ認識,マルチターゲットトラッキング,高速3次元形状計測,マイクロビジュアルフィードバック,高速知能ロボットなどの応用システムについて概説する.
爆破テロ事件は,国内ではほとんど発生していないものの,世界的には毎日のように発生しており,特に航空機の安全対策として,手荷物検査や身体検査などの高いセンシング技術が求められている.本稿では,空港における爆発物などの検知技術の現状と新たに導入されている機器などを概説するとともに,最新の体内隠【いん】匿【とく】物【ぶつ】検査技術や液体物検査技術について紹介する.
安心・安全な世の中の実現に貢献するために,事件現場でDNA解析ができる「ポータブル型DNA解析装置」の研究・開発を行っている.「ポータブル型DNA解析装置」開発のカギは,使い捨ての解析用チップである.筆者らの取り組みでは,多層プリント流路シート(Multilayer printed channels and valves sheet)方式で作製している.この方式は,印刷技術を用いて加工された数枚のシリコンゴムフィルムを積層して作製するので,従来方式に比べ安価に大量に生産できるという利点がある.将来的には,ヒトの16遺伝子座について,25分で解析を行う予定である.
現在の光電子増倍管の原型が開発されたのは1939年のことである.1939年から現在までの約70年の間,科学技術の進化は目覚しく,真空管や画像を検出する撮像管がトランジスタやCCD,あるいはCMOSなどの半導体技術に置き換わり,大きな進歩を遂げることとなった.しかし,光電子増倍管は,真空デバイスが半導体デバイスにほとんど取って代わられた現在でも,いまだ代替できないデバイスとして存在している.弊社では創業間もない頃から光電子増倍管の開発・改良に取り組み,既存の光デバイスでは達成できなかった分野・領域への道を切り拓いてきた.本稿では,日々進化を続ける光電子増倍管の最新技術を報告する.
現在ガスセンサの多くは,可燃性ガスや毒性ガスの漏【ろう】洩【えい】による爆発事故や中毒事故を未然に防ぐために使用されている.ここ数年来,ガスセンサは省電力化が進み,現在では電池で5年間使用できるガス警報器も開発されつつある.また,新たなニーズとしてニオイ検知の市場に対応するためのセンサが開発されている.これまでの間,さまざまなセンサ材料が試験され,用途に応じた特性が得られるようになってきた.さらに,揮発性有機化合物に対して超高感度なセンサを開発し,ガスクロマトグラフィ技術を応用したポータブル分析計が製品化されている.ここでは,主に半導体センサを中心に最近の動向とその技術について紹介する.
透過型電子顕微鏡(TEM)での組成分析精度の向上を目指して,超伝導遷移端センサ(TES)型マイクロカロリメータ検出器をX線分析器として応用することを試みた.この検出器をTEMに搭載する際に特有の問題を考慮したうえで実験機を製作し,検出器の動作実証およびスペクトル取得に成功した.エネルギー分解能7.8eV(SiKαの半値幅として)を達成したこと,および10keV程度の広いエネルギー範囲を一度に測定できることから,十分TEMでの組成分析に利用可能であることを示した.実際の材料開発に応用できる状況に到達したとはまだ言えないが,それを目的として現在検出器の多素子化などの開発を継続して実施している.
細胞膜構造を人工的に構築し,高感度バイオセンサや薬物スクリーニング法として応用しようとする試みは従来から行われてきたが,基本構造となる脂質二分子膜の脆弱性の問題がその発展の障害となってきた.本稿では,半導体微細加工基板やポーラスアルミナナノ構造体を二分子膜の保持体として作製し,その中での膜形成により人工脂質二分子膜の安定性を高めようとする我々の最近のアプローチについて紹介する.
ドーパント原子は,半世紀以上の歳月を経て半導体デバイス中でのその役割が大きく変わろうとしている.多数のドーパントを大きなバルクSiの中で取り扱ってきた「バルク型ドーパント」から,ナノ構造Siの中での「個別ドーパント原子」への質的転換である.扱う物がどんどん小さくなれば個別性が顔を出すのは自然の成り行きである.しかし,それに伴ってデバイス原理も大きく転換することとなる.本稿では,シリコンテクノロジーの流れにありながら,デバイスの革新を予感させる最近の研究成果を紹介する.
電子のもつ電荷とスピンの自由度を同時に使うことによりこれまでにない機能や性能を生みだす「スピントロニクス」についての入門的な解説を行う.今回は「スピンの使い方」を紹介する.スピンを使うためにはスピンの検出・生成・制御が必要となるが,これらを可能とする物理現象を網羅的に解説した.