人類が到達できないような深宇宙(遠い惑星)の探査や,人間が行うには危険な作業,人間の活動には適さない極限環境下での作業など,宇宙にはロボットが活躍する場はたくさんある.地上とは異なる環境で仕事をする宇宙ロボットを適切に動作させるためには,宇宙環境に適した設計と制御が必要である.本稿では,宇宙ロボットにおける「力学問題」に注目して,地球周回軌道上および月惑星探査のための宇宙ロボットの役割と,その運動制御のための研究課題について解説する.
小惑星探査機「はやぶさ」はイオンエンジンを駆り地球帰還,世界中を興奮させた.宇宙大航海時代の幕開けである.近年,さまざまな高度宇宙ミッションの遂行・提案に合わせて,既存の電気推進ロケットエンジンの性能向上,作動域の拡大,さらに斬新なアイデアを盛り込んだ,新しい電気推進エンジンの開発研究が盛んである.高性能電気推進エンジンの開発においては,プラズマ物理・技術を駆使して,いかに効率よくプラズマを生成・加速するかが鍵となる.また,宇宙機器特有の軽量化,長寿命化も開発上の大きな問題である.本稿では,電気推進エンジンの最近の開発・利用状況,将来の月基地建造,有人火星探査計画などに適用できる大電力電気推進の必要性,微小電力電気推進エンジン搭載超小型人工衛星打ち上げ計画を紹介する.
科学衛星を用いて始まったX線やγ線観測は,宇宙が,人類が予想もしなかった数千万度から数億度という超高温の現象に満ちていることを明らかにした.これは宇宙が極めてダイナミックであることを明らかにし,人類の宇宙観を変えたともいえる.X線やγ線領域で観測することにより,ブラックホールのごく近傍や中性子星表面の極限環境,あるいは高温ガスからの放射や高いエネルギーに加速された粒子からの放射を選択的に観測することが可能である.現在ではおよそ80% もの物質がX線でしか観測できない高温の状態にあるとされている.宇宙の構造とその進化を探るうえでX線やγ線による観測は欠かせないものとなっている.
2006年2月にJAXA宇宙科学研究所のM-Vロケットで打ち上げられた「あかり」衛星は,日本初の本格的な赤外線天文衛星である.全天を9μmから160μmまでの6バンドで観測するとともに,指向観測モードにより多数の天体の詳細観測を行った.2007年8月末に冷媒である液体ヘリウムが消失した後も機械式冷凍機を用いて波長2μmから5μmの観測を継続し,2011年5月に観測を終了した.この間に得られた観測データは,遠方の宇宙の歴史から惑星系の形成にわたる広い天文分野での研究に大きな成果をあげた.ここでは,特に近年注目を集めている宇宙における物質循環・進化について,「あかり」衛星が明らかにしてきた結果についてまとめる.
宇宙には電子,プロトン,重イオンといったさまざまな放射線が存在し,それら放射線により人工衛星などの宇宙機に用いられる半導体デバイスは,誤動作・破壊,特性劣化を示す.本稿では,宇宙の放射線環境について触れた後に,それら放射線によって半導体デバイスが具体的にどのような影響を受けるかについて,太陽電池と論理大規模集積回路(Large Scale Integration : LSI)の最近の研究成果を中心に紹介する.
無人宇宙輸送船「こうのとり」は,宇宙ステーションへの物資補給手段の一角を担う無人の自動ランデブ宇宙機として開発され,これまでに2度,計画どおり荷物を届けることに成功している.「こうのとり」は,日本としては初めての有人システムへの無人・自動ランデブを行う宇宙機となる.「こうのとり」は有人宇宙システムである宇宙ステーションへの接近,係留を行うため,対有人宇宙機システムとして高い安全要求が課せられている.本記事では,「こうのとり」において高い安全性を実現するために行った設計を紹介する.
21世紀に入り,国際宇宙ステーション(International Space Station : ISS)上での宇宙長期滞在が本格化し,日本人の宇宙飛行士においても,2011年までに3名の宇宙飛行士による半年弱の宇宙滞在が実施されるに至った.今のところ,宇宙での滞在期間は宇宙放射線被【ひ】曝【ばく】によって制限されている.長期滞在によりこれまで以上に測定精度を気にして実測する必要がある.本稿において,地上と宇宙における放射線環境の違い,これまでの実測例,現在開発中の測定器について紹介する.
小惑星探査機「はやぶさ」には我が国の独自技術であるマイクロ波放電型イオンエンジンが搭載された.従来技術と比較して構造を大幅に単純化した本方式は長寿命・高信頼性を特徴とし,深宇宙探査機の主推進装置として最適である.「はやぶさ」の7年間にわたる飛行実績を通じて実証された優れたロバスト性は国内外で高く評価され,海外事業展開および後継プロジェクトとなる「はやぶさ2」を通じた我が国の電気推進技術の発展が期待される.
月探査機かぐやに搭載されたγ線分光計の目的は,月面における10種類の元素の分布図を作成し,月の起源と進化の解明や,将来の月の利用の基礎データを得ることである.γ線分光計はスターリング冷凍機によるゲルマニウム検出器であり,月面で発生するγ線のスペクトルを過去最高の精度で全球にわたり計測することに成功した.惑星核分光法とかぐやγ線分光計の成果,将来の月探査について紹介する.
スピン(磁化)と電荷の相互結合には,従来もっぱら古典電磁気学によるコイルが使用されてきた.スピントロニクスは,量子力学的手法により相互結合効率を飛躍的に向上させるとともに,コイルでは実現できなかった多様なスピン-電荷結合手段を可能にしつつある.これにより,大容量磁気ハードディスクや不揮発性磁気メモリなどが短期間のうちに市場に送り出されたが,更なる新規デバイス創出への期待も強い.ジャンプ編の本稿では,応用の観点から,エレクトロニクスにおけるスピントロニクスデバイスの位置づけと可能性について述べる.