東日本大震災により我が国は大変な被害を受け,原子力に対してもいまだ緊張した日々が続いている.我が国のエネルギー需給構造に対し,今後長期にわたり緊迫した議論がなされることになる.低炭素エネルギー社会の構築は,地球環境問題はもとより,最近では国境を越えたエネルギーセキュリティ(安定供給)の観点から今世紀最大の課題であり,化石から非化石エネルギーへのシフトが加速されることになる.これまでは,非化石エネルギーの双璧として原子力と再生可能エネルギーが挙げられていたが,原子力に対しては,今後人工物の制御システムの高度化に向け経済性も含めて国際的な議論が展開されることになる.本論文では再生可能エネルギーの技術開発動向だけでなく最新のエネルギー政策についても言及する.
東日本大震災の後,エネルギーストレージの重要性が認識されている.東北大学大学院環境科学研究科は,2010年6月にエコラボというエコハウスを建築し,そこに最先端の蓄電システムを設置した.このシステムは,2011年3月11日の震災の中で稼働した.この蓄電システムは,容量10kWhのリチウムイオン電池を有し,最大出力5.8kWの太陽電池からのエネルギーを蓄電する.また,蓄電した自然エネルギーは,館内の全照明に利用されている.本稿では,エコラボで使用されている最先端の蓄電システムについて紹介する.
地球環境問題,東日本大震災以降の電力不足問題を解決するために,大量の太陽光発電や風力発電を電力システムに連系するとともに,電気自動車,ヒートポンプ給湯機,蓄電池などの多数の需要家機器を,双方向通信システムを介して従来の大規模発電所と協調制御して電力システム全体の安定運用に役立てる日本型スマートグリッドについて解説する.
燃料電池自動車や家庭用コージェネレーションなどへの応用が期待される固体高分子形燃料電池の高性能化,高耐久化のための要素材料研究開発の進展について,筆者らの研究成果を中心として解説する.空気極用触媒にPt-M合金(M=Fe,Co,Niなど)を用いると高い酸素還元活性を示すことを見いだし,その作用機構を多角的に解析できた.これら新規合金の組成と粒径を均一に制御したナノ粒子をカーボン担体上に高分散するナノカプセル法を開発し,作製した触媒は優れた耐久性を示した.また,炭化水素系高分子をナノサイズで配列させた高プロトン伝導性電解質の開発にも成功した.
NEDO技術開発機構は北杜市の太陽光発電所(北杜サイト)にて,多種多様な太陽電池の評価や系統安定化技術などの実証研究を進めた.実証研究を通じ,同容量の太陽電池であっても種類・製品により発電量が異なることを確認したとともに,太陽光発電の出力に起因する電力系統の電圧変動をパワーコンディショナにより抑制できる見通しを得た.また,(株)NTTファシリティーズは北杜サイト周辺に新たな実証研究サイトを構築し,最新の太陽電池および架台に関する研究を開始した.
低炭素社会実現への取り組みの中,世界的に天然ガスの消費は増加しており,その長期的な安定供給の確保が重要な課題となっている.世界では在来型の油ガス田開発が促進されているほか,非在来型のエネルギー資源の開発にも積極的な取り組みを開始している.このような情勢下,メタンハイドレートが新たな天然ガス資源として期待されている.我が国におけるメタンハイドレート資源開発は2001年度から開始され,現在,フェーズ2の段階にある.2012年度内には,我が国周辺海域での海洋産出試験を始め,商業的産出のための技術整備が進められる計画となっている.ここでは,これまでの研究開発の進【しん】捗【ちょく】ならびに今後の取り組みについて概要を紹介する.
ホーム・エネルギー・マネジメント・システムは,住宅のエネルギー使用量の見える化やこれを抑制するための機能を提供しているが,近年急速に普及している太陽光発電システムなど,各種エネルギー機器の運用管理も行うなど,その役割を広げつつある.本報では,近年の電力需給調整に関する議論も踏まえ,最近の開発状況と今後の展開について解説する.
宇宙太陽発電所SPSは1960年代に提唱され,現在も検討が行われている将来の発電所構想である.SPSは夜の来ない静止衛星軌道上に巨大な太陽電池を浮かべ,雨でも減衰のないマイクロ波を用いて地上へ無線電力伝送を行う.SPSは日本では2009年に制定された宇宙基本計画でその推進がうたわれ,経産省とJAXA(Japan Aerospace Exploration Agency)が主導するSPS検討委員会において2009年度からSPS用薄型高効率マイクロ波送電システムの開発と地上マイクロ波送電実験計画を遂行中である.並行してマイクロ波送電の民生応用の拡大も進み,国策と民需の両面で日本はSPS研究を進めている.
量子ドットは,単接合型半導体太陽電池に対して新たな設計自由度を与え,高効率化をもたらす可能性を有している.本稿では,多中間バンドの導入により,理論変換効率が80%近くまで達しえることを示すとともに,開放電圧の劣化のない量子ドット太陽電池やフレキシブル量子ドット太陽電池の実現などについて論じる.さらに,太陽電池の超高効率がもたらすコスト競争からの脱却に向けたパラダイムシフトや,今後取り組むべき課題についても言及する.
光ディスクはCDからDVD,Blu-ray Disc™(BD)へと進化し,音楽や映像の記録メディアとして,あるいはパソコン用の外部メモリとして広く普及している.今後は低消費電力,長期保存性といった特徴を生かして,クラウドデータの格納媒体としても期待される.本稿では,光ディスクの基本的な動作原理としてサーボ技術と相変化記録技術について解説し,さらにCDからBDXL™への進化の中で達成された200倍に及ぶ高密度化技術の一端について述べる.