セラミックス材料は,食器や水回りの機器などに使われる構造セラミックスから,キャパシタ,表面弾性波素子,超伝導材料などに使われる機能性セラミックスまで幅広いが,応用物理学会で扱われるものは後者であろう.学会の講演会では,セラミックスとしてまとまっているのではなく,機能別に各分科に組み込まれているため,大きな分野にはみえないが,今春の講演会から関連するキーワードを拾っただけでも,ガスセンサ(応用物理一般),セラミックシンチレータ(放射線),セラミックレーザー(量子エレクトロニクス),周期分極反転LiNbO3(光エレクトロニクス),強誘電体・圧電体・半導体薄膜(薄膜表面),圧電・電気光学効果素子,酸化物熱電素子(応用物性),マルチフェロイック酸化物(スピントロニクス),高温超伝導体(超伝導),高誘電率材料(半導体),Al2O3 パッシベーション(非晶質・微結晶)など,セラミックスに関する広範な研究が多くの分科で講演されていることがわかる.
このような状況を反映して,応用物理誌の特集テーマを過去10年程度調べても,高温超伝導などの特定の機能の特集はあるものの,セラミックス全般に関する特集は見当たらなかった.そのような中で,今回分野横断的に機能性セラミックス材料に関する特集号が企画されたことは,分科を越えた取り組みとして評価したい.目次を拝見すると,最近のトピックスや古くからの重要なテーマが並んでおり,多くの読者にとって有益なだけでなく,学会におけるセラミックス研究者の連携を深める効果も期待できそうである.この特集を大いに評価したうえで,以下では応用物理学会におけるセラミックス研究がさらに発展するように,新分野開拓に向けた要望を述べさせていただきたい.
応用物理学会は,これまで半導体産業の発展とともに大きく成長してきたが,多くの企業で半導体集積回路の研究開発に陰りがみえる現状を考えると,新分野の開拓,特に環境エネルギー分野への積極的な展開が本会にとっての重要課題といえよう.環境エネルギー技術の中でも,太陽電池のように本会が主導的役割を果たしている分野は多い.一方で,光触媒,燃料電池,リチウムイオン2次電池などに関しては,本会よりも日本化学会や電気化学会において活発な議論が行われているものと思われる.しかし,これらの技術をさらに発展させるためには,多面的な取り組みが必要といえ,本会会員のように物理系,電気系,機械系などの研究者の議論によって,大きなブレークスルーが生まれる可能性もある.さらに,これらの技術に関する基盤材料を考えると,光触媒におけるTiO2,燃料電池におけるイオン導電性酸化物材料,リチウム2次電池における酸化物電極材料と,多くがセラミックス材料であり,今後学会内で環境エネルギーセラミックスの議論を活発化させることは,本会の進むべき方向とも一致していると思われる.このような理由で,次回のセラミックス特集では,環境エネルギー分野に関する解説や研究紹介も期待したい.
セラミックスは,石器時代から使われている最古の材料であり,かつ現代社会を支える基幹材料の一つでもある.本稿ではその主な素材である透明酸化物の特徴とそれを生かした電子機能発現の研究を,材料設計の視点からまとめる.具体的にはセメント成分12CaO・7Al2O3 の機能化,透明酸化物半導体とその薄膜トランジスタへの応用,ワイドギャップp型半導体の設計などを取り上げ,その進展を紹介する.また,バンドラインナップを基に酸化物半導体を包括的に議論する.
エネルギーハーベスティング技術の一つである熱電変換では,熱電材料のゼーベック効果により熱を直接電気に変換する.熱電材料として,近年,日本を中心に酸化物が注目されている.なかでもチタン酸ストロンチウムは,高品質単結晶が調達可能で,比較的容易に単結晶エピタキシャル薄膜が作製できることから,熱電特性のモデルを構築するためのプラットホームとして優れている.本稿では,SrTiO3 の基本的な熱電効果について解説するとともに,人工超格子や電界誘起2次元電子ガスの巨大熱電能に関する筆者らの最新の研究について紹介する.
多彩な機能に優れる強誘電体材料を薄膜化して機能デバイスへ応用することは,デバイスの小型化・高性能化・集積化をもたらすものであり,現在まで種々の手法で強誘電体の薄膜作製が行われている.その中でもスパッタ法は,基礎的研究から量産過程に至るまで用いられている極めて有用な成膜手法である.本稿ではスパッタ法による強誘電体薄膜作製に関して,その特長といくつかの取り組みを概観した後,作製された薄膜の機能デバイスへの応用について,実際の製品に組み込まれ実用化された例を中心に紹介を行う.
収差補正を用いたHAADF-STEM法およびABF-STEM法を駆使することで,セラミックス粒界・界面の偏析元素の直接観察や軽元素の観察が可能になっている.これら観察結果を第一原理計算により解析・解釈することにより,その機能特性と直結する界面の原子・電子構造の定量的な理解も進みつつある.本稿では,セラミックス粒界における原子一個一個の観察や複数偏析原子の観察・解析が,原子分解能HAADF -STEM法により可能なこと,酸化物超格子および新規な鉄系超伝導体などの界面原子構造やドーパント元素分布がSTEM-EELSマッピング法により計測できること,さらにはABF-STEM法によりリチウムや水素などの軽元素も直接観察が可能になることを示した.
第一原理計算は近年大きく発展し,現実的な材料研究に広く活用される段階になっている.本稿では,この第一原理計算と高精度な実験とを連携させることにより強誘電体の相転移機構,強誘電相の構造について研究した結果を解説する.
近年,高精細インクジェットプリンタヘッドや角速度センサなどへの圧電薄膜の応用が拡大している.しかし,現製品搭載の圧電薄膜は鉛を高濃度に含有することが問題視されつつも,特性的に代替可能な鉛フリー圧電薄膜が学会レベルでも全く見いだされていない状況であった.このような中,我々はスパッタ法による緻密な(001)配向の(K,Na)NbO3圧電薄膜の形成技術を確立し,世界で初めて4インチサイズで圧電定数d31が100pm/Vという実用レベルの高性能鉛フリー圧電薄膜の開発に成功した.
セラミックコーティングは,基材金属の強【きょう】靱【じん】性とセラミックスの高硬度,耐酸化などの両性能を発揮できる表面処理法である.耐摩耗性が期待される硬質セラミックスは窒化物や炭素系など非酸化物系が多いが,高温雰囲気にさらされる耐熱摺動機構など酸化反応が進行し続ける環境では酸化物系コーティングが安定性や信頼性の点で期待される.酸化物系セラミックスは,高精度に組織や結晶性などを制御することが難しく,特に固体潤滑時には摩擦係数(μ)が0.1を大きく超えていたが,最近,成膜パラメータを制御することで,幅広い環境下で低摩擦係数を有する酸化物系コーティングが開発された.ここでは主としてコーティング膜構造を高精度に制御できるコンビナトリアルスパッタコーティングシステムの紹介と,これを用いてμが0.1未満となる酸化物系固体潤滑コーティングの開発について紹介する.
グラフェンの単層剥離の成功以降,層状化合物の単層剥離が新規なナノ物質を創製する技術として注目され,近年研究が盛んに行われている.なかでも,酸化物,水酸化物,カルコゲナイドなどに代表される無機ナノシートは究極の2次元性とともに,組成,構造,機能の多様性を具備しており,2次元ナノ物質の新しい舞台として注目されている.本稿では,無機版あるいはセラミックス版のグラフェンといえる酸化物ナノシートを取り上げ,最近の研究動向とともに,ナノシートをベースとした機能材料の構築技術やナノシートで実現する新しい機能について紹介したい.
光ディスクメモリはコンパクトディスク(CD),デジタルバーサタイルディスク(DVD),ブルーレイディスク(BD)と記録容量を向上させながら発展してきた.記録容量の向上は,光源の短波長化と対物レンズの高開口数化により集光スポットを微小化することで実現された.しかし,この手法はBDで限界を迎えている.この限界を超えた更なる大容量化を目指し,従来の延長線上にない次世代光メモリ技術の研究開発が各機関で行われている.本稿では各種の次世代光メモリ技術の原理や動向について解説する.