ワイドギャップ半導体は,照明やパワーデバイスへの応用で次世代の省エネルギー社会を担うべき宿命をもっている.GaNによる白色LEDは照明分野への急速な普及が進んだが,SiCやGaNのパワーデバイスは実用段階に達したものの,照明用LEDほどの急速な普及は感じられない.ここにどんな課題があるのだろうか.またダイヤモンドや酸化物など,新たな役割を担う材料の研究も進んでいる.これらワイドギャップ半導体が真にその役目を果たすには,欠陥や表面・界面など,基礎の部分で未知の点や解決すべき点が多く残されているようである.本稿では,ワイドギャップ半導体の花満開に向け,基礎研究から克服すべき課題と今後への期待を述べる.
電力機器の大幅な省エネ化をもたらす半導体材料として,シリコンカーバイド(SiC)に大きな期待が集まっている.ショットキー障壁ダイオードがすでに量産化されているSiC半導体ではあるが,そのさらなる実用化・普及には,いまだ多くの課題が残されている.本稿では,SiC半導体技術の礎となるSiC単結晶ウェーハの高品質化について述べる.バルク結晶成長,基板加工,エピタキシャル薄膜成長の各工程について高品質化の現状を紹介し,今後取り組むべき課題について議論する.
p型ZnO成長に関して,これまでの研究を概観した.第一原理計算などに基づき,種々のp型ドーピングが提案されてきた.実験的には,p型ZnO成長の報告例は極めて多い.しかし,ZnO膜の結晶性,均質性あるいはホール測定の観点からは,ZnO基板あるいは疑似格子整合基板を用いた単結晶ZnO膜のエピタキシ成長によって,信頼性・再現性のあるp型ZnO成長が可能になる.
LEDを用いた固体照明の普及のための継続的なコストダウンの可能性を検討する.サファイア,シリコン(Si),窒化物半導体(GaN)バルク基板上のエピタキシャルコスト構造を示し比較する.特に単位面積当たりのエピタキシャル成長コストだけでなく,1台のMOCVD装置で生産できるランプの数量が非常に重要であることを示す.併せて,MOCVD装置技術の目標も示す.
トラップからのキャリヤ放出による空乏層容量の過渡応答を基礎とした評価法が,半導体の点欠陥研究に用いられる.なかでもDLTS法は,解析の容易さ,トラップ分離の能力,高感度などの点で優れており,多くの研究者によりSi,GaAs,AlGaAsなどの点欠陥評価に用いられてきた.近年,高耐圧,高温動作,高周波デバイス開発でGaNが注目を集めている.本稿では,GaNにDLTS法を用いてトラップの評価を行った研究について紹介する.
a-InGaZnO TFTを用いて,アンテナ一体型の超薄型RFIDを試作し,無線動作を確認した.完全空乏型のa-InGaZnO TFTを用いて整流回路,RF通信回路,論理回路を形成し,回路全体での消費電力を20µW以下に抑えた.薄膜プロセスのみで形成されたRFIDは最厚部のアンテナを加えても段差が数µm以下であり,さまざまな形状に違和感なく貼り付け,組み込み可能である.
アモルファス酸化物半導体は,TFT製造に関わるプロセス条件に非常に敏感である.このため,酸化物半導体TFTのプロセスを構築するためには,各TFT製造プロセスが酸化物半導体の電子状態に与える影響を明らかにすることが重要となる.本稿では,筆者らがTFT作製プロセス中の酸化物半導体の電子状態を詳細評価するために近年取り組んでいる,酸化物半導体TFTと同一構造,同一プロセスで作製したデバイスを用いた電子状態の評価状況を紹介する.
自分の知識や能力に自信をもって研究や開発に取り組んでいる技術者・研究者は世界中にたくさんいる.その中で,自分の研究開発が世の中に役に立つ具体的な製品となり,世界に紹介できることは,研究者が起業して経営者になることの大きな魅力である.このような立場の人がどれだけいるだろうか.
自分がすばらしいと思う技術を他人に伝えたい.その思いの延長は,発想から実験による確信,試作品の設計,製造,経営と管理能力で製品の完成,販売の実績,そして最後は利用者の満足である.これらは,起業して自らが経営者となって初めて実感できた喜びである.起業して成功することが難しいと思われている日本で,この四国・徳島県で,私がどのようにして起業し,今に至っているかを紹介する.
タッチパネルはディスプレイ上にあり,指などでタッチしてディスプレイに表示された項目に入力するデバイスである.最近は,従来の1点入力から,2点以上が同時入力できるマルチタッチ化が進んでいる.本稿では,マルチタッチに対応するタッチパネルにもさまざまな種類を紹介し,それらの構造と検出原理を概説した.また,主に材料面から,タッチパネルの今後の方向性についても述べる.