未曾有の大規模災害となった2011年3月11日東日本大震災において,電力,情報通信,交通網,サプライチェーンなどのインフラが壊滅的な打撃を受け,我々の日常生活を大きく揺るがしたことは記憶に新しい.被災地ではいまだ非難生活を余儀なくされている方も多くあり,2年経た今なお,まだまだ復興途上にあるのが現実である.震災直後は固定系約150万回線以上のサービスが中断し,移動系においても約6700の基地局が機能不全となった.これに対し,NTTグループでは全国から約1万人規模の復旧支援部隊を投入し,通信インフラの早期復旧を図ってきた1).その復旧活動の中で,各地の被害状況の伝達と個々人の安否確認といった情報伝達の最重要性が改めて認識された.本報告では先の東日本大震災を改めて振り返ることで,大災害時での情報通信の役割として最重要事項である情報伝達の確保について考えるとともに,そのために通信インフラとして備えるべき機能・技術について考察する.
東日本大震災は日本全体に多くの影響を与えると同時に,科学者・技術者への信頼も大きく揺るがすものであった.本稿では,東日本大震災が起こった現在の日本の状況や,科学技術基本計画への反映などを解説し,それらを踏まえて今後の応用物理学会への期待を述べる.
省エネルギーの切り札として,ワイドバンドギャップ半導体(SiC・GaN)デバイスが実用化されだした.電力変換やモータを駆動する役割を担うパワーデバイスの電力損失を1/10に低減させるのみならず,小型化に寄与し,従来比20〜30倍の30 kW/lのパワー密度を実現している.高温動作にも強いことから熱設計的や軽量化にも有利である.不揮発性ロジックによりデジタルロジックの待機電力のゼロ化と相(あい)俟(ま)って,超エコロジーという時代の要請への対応が始まっている.将来的にはセンサネットワークと連携し,スマート化して,さらなるエコロジー世界が広がっていくであろう.
2011年は,東日本大震災,台風12号,タイの洪水などの自然災害によって我が国の多くの人命,社会・経済的な資産が失われ,それらの災害を経験・目撃し,災害に対する備えの重要さを強く認識した年であった.観測結果(情報収集)を基に,災害時の的確な情報分析・判断を支援し,危険情報の確実な伝達を実施する防災情報システムは,災害時の被害を最小化するだけでなく,ハザードマップの作成や設備計画といった事前準備にも活用することができる.本稿では,光ファイバセンサを用いた観測網を構築し,風水害や地震に対する都市域の防災力を高めるための研究開発について紹介する.
2011年3月11日の東日本大震災の惨状を目の当たりにし,多くの人が地震予知の重要性を改めて強く感じたと思う.しかし,阪神・淡路大震災(以降,神戸地震と略す)後,文部省(当時)の測地学審議会が「地震予知は将来にわたっても不可能」とする報告を発表し,地震学者,メディアを中心に地震予知不可能論が広く蔓延(まんえん)することとなった.今回の東日本大震災後にも再度その風潮が広がっている.従来の地震予知では,地殻変動を計測する力学手法が用いられてきたが,神戸地震後全く異なる電磁気手法が新たに提案され,ここ20年にてすさまじい発展が遂げられている.すなわち,多くの非地震(ほとんど電磁気)現象の前兆(予兆)が発見され,地震予知の可能性を強く示唆している.特に,電離層擾乱(じょうらん)は永年にわたる観測データから,地震との統計的因果関係が確立するに至っている.本稿では,これらの電磁気現象のいろいろを紹介し,地震予知の将来を展望する.
2011年3月に発生した東日本大震災により,ルネサスエレクトロニクス那珂工場は甚大な被害を受けたが,お客様を中心とする多大なるご支援により,予想よりも3カ月早い,被災後80日で生産に着手することができた.本稿では被害の状況および復旧について触れるとともに,今後予想される大規模地震に向けた対策についても述べる.
非冷却赤外線カメラは,通常の可視カメラでは検知不可能な真っ暗闇などの環境下においても,対象を検知できる特性を生かして,セキュリティや防災分野への応用が期待されている.近年,非冷却赤外線カメラは,より小型化,多画素高精細化,高感度化,低価格が求められており,日々技術革新が進んでいる.本稿では,最近の非冷却赤外線カメラの開発状況と防災応用について紹介する.
減原子力を指向するエネルギー戦略が策定されたが,この戦略においても,我が国は今後20年以上にわたって既存の原子力発電所を利用していくことになる.一方,今後の原子力発電と共存するためには,いくつかの重要な課題が存在し,解決されてゆかねばならない.本稿では,特に,福島第一原子力発電所の事故への対応,安全性の強化,バックエンド課題への対応,基礎基盤研究の強化,廃炉技術や軽水炉技術の維持などの課題について論ずる.
人類が利用しているエネルギーの約9割は化石燃料由来であり,原発代替で最も重要なことは,エネルギー源の9割を占める化石燃料の利用効率を大きく上げることである.太陽光発電などの現在脚光を浴びている再生可能エネルギー利用技術は,同じエネルギー源を利用する古代・中世技術に比べて多少効率がよくなったものの,依然として低効率で出力当たりの生態系負荷は大きく,効率向上と出力密度の画期的向上の技術革新がなければ主軸エネルギー源にはならない.エネルギーの最適ポートフォリオを可能にするような統合・制御技術の革新も期待される.
日本の化石燃料輸入費用はこの10年ほどで年当たり10兆円増大しており,旧来の対策だけでは不十分である.再生可能エネルギーの大幅な普及促進は不可避であるが,それには相応の費用や国際競争への留意も必要となる.具体例を挙げつつ,再生可能エネルギーの動向や利用のポイントを概説する.
福島第一原子力発電所事故は,国民の原子力離れと太陽光発電などの再生可能エネルギーの飛躍的な導入の期待をもたらしている.また,2100年には世界のエネルギーの7割が太陽(光)発電で賄われるだろうと予想されている.こうした大きな期待や人類文明の維持発展への貢献のためには,太陽電池のさらなる高効率化,低コスト化や長寿命化が必要である.超高効率太陽電池として,光電変換効率50%以上の実現が期待できるIII-V族化合物半導体を用いた集光型多接合太陽電池を中心に,次世代超高効率太陽電池の研究開発動向と将来展望について述べる.