2012年8月号の記事「機関誌「応用物理」の行方を探る」で,本誌が目指すべき進路について議論しました.これを踏まえて,今号と次号では異分野の研究者,サイエンスライター,新聞記者といった,それぞれ独自の視点をもつ方々を迎え,「やわらかい記事をタイムリーに掲載するために必要なこと」について語り合います.
材料の表面自身を変化させ,新しい機能を付加する表面改質技術について,金属材料・高分子材料を中心に概説し,半導体プロセスで行われている類似の処理について述べる.まず金属に対する表面焼き入れ,ピーニング,拡散浸透法,イオン注入,化成処理,溶射について,次に高分子材料に対する薬液処理,UVオゾン処理,プラズマ処理について概説した後,LSIプロセスにおけるシリサイド技術,Cu表面の改質技術,低誘電率絶縁膜のダメージ回復技術について紹介する.
有機分子が固体表面に化学吸着する過程で,分子が自発的に集合し,形成される単分子膜は,Self-Assembled Monolayer(SAM, 日本語では自己集積化単分子膜あるいは自己組織化単分子膜)と呼ばれる.SAM形成により,固体表面がくまなく有機分子で覆われることにより,表面物性が劇的に改変される.シリコンへのSAM被覆は,その半導体材料としての有用性を考えると重要な研究課題である.本稿では,SAM被覆によるシリコンの機能化について,基板最表面のシリコン原子と有機分子が共有結合によってつながっている,直接結合型のSAMを中心に解説する.
アンジュレータ光源を用いたSR(Synchrotron Radiation)軟X線照射によるSi原子の凝集現象,および非晶質Si,Ge,SixGe1-x薄膜の低温固層結晶化,さらにレーザー・プラズマ軟X線照射過程における内殻電子励起と,Xe+によるSi表面改質の素過程の複合が,結晶化に及ぼす効果に関し紹介する.軟X線照射の基本素過程は,非晶質膜を構成する原子の内殻電子の局所的励起と,原子間クーロン斥力による原子移動である.結晶化の場合はこの素過程により,擬似結晶核が形成される.現在,赤外線加熱よりも約100℃の低温結晶化を実現している.
薄膜・界面の熱物性は,現代の電子機器や情報機器に用いられるデバイスの発熱や内部の温度を適切に制御するために重要である.薄膜において特徴的な,微細な結晶粒,結晶欠陥,また成膜プロセスに起因する気体分子の混入などは熱伝導のキャリヤであるフォノンや自由電子を散乱する要因となるため,薄膜の熱物性値は物質本来の値とは異なることが多い.またナノスケールの多層構造では,異種物質の接触面において生じる熱抵抗(界面熱抵抗)も無視できない影響を及ぼすことがある.本稿では,金属薄膜の膜厚方向の熱拡散率を定量的に測定できるパルス光加熱サーモリフレクタンス法の概要を紹介し,薄膜の熱拡散率の計測例や界面熱抵抗の評価について紹介する.
原子スケールの表面平坦化技術として,加工基準面を有する新しい化学エッチング,触媒表面基準エッチング法を開発した.SiC(0001),GaN(0001),ZnO(0001),サファイア(0001)を例に,炭化物,窒化物,酸化物単結晶材料の表面処理に適用した結果,幾何学的かつ結晶学的に極めて高度に規定された表面の創製が可能であることを明らかにした.
ソフトマテリアルの表面および界面は濡(ぬ)れ性や接着,摩擦などさまざまな機能性発現に重要な役割を果たしている.筆者らは無機材料やソフトマテリアル表面に優れた親水性を有する高分子電解質をブラシ状に固定化することにより,表面物性の制御を行った.高分子電解質ブラシを表面に付与することで超親水性表面や防汚表面,水潤滑機構,有機溶剤を用いることなく,繰り返し接着・剥離が可能な環境に優しい接着機構を実現した.
延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)は,フッ素原子が炭素原子鎖を均一に覆って保護する形になっているため,生体内で化学的に非常に安定であるが,組織との反応性が極めて低いためにさまざまな術後トラブルを引き起こす.イオンビーム照射によって,フィブリン糊接着性と体内での長期間の組織接着性をePTFEに付与することにより,脳脊髄液の漏れを防止する人工硬膜,ワイドネック型動脈瘤(りゆう)治療材料として臨床使用を行い,良好な成績を得た.
DLC被覆は,機械的性質に影響を及ぼすことなく,金属材料の摩擦係数,耐摩耗性および疲労強度を顕著に改善可能な優れた表面改質法である.近年には,異種元素を添加したDLC層の各種特性について研究が進められている.その一方で,DLC被覆した金属材料の機能性や耐久性は,母材部の性状と密接に関係することから,この点についても検討が必要となっている.本稿では,DLC被覆を最終処理とする複合表面改質を施した金属材料に関し,表面層の性状や摩擦摩耗特性および疲労強度に焦点を絞って,著者らの研究結果を紹介する.
GaN系窒化物半導体の数々のエピタキシャル成長技術により,青色LED(発光ダイオード)ならびに青紫色LD(レーザダイオード)が実現された.そこに至るGaNのエピタキシャル成長の歴史と,重要な高品質化成長技術(低温バッファ層技術,ELO技術,厚膜技術,歪(ひずみ)制御技術)について紹介する.