質の高い解説論文に定評がありながら,「内容が難しくカタい」「記事掲載が遅い」という声も聞こえる本誌.さまざまな分野の識者が集まった座談会では,新しい機関誌作りへ向け,忌憚(きたん)ない意見が交わされました.前号に続く後編では,海外との比較から写真やパーソナリティの重要性,IT化まで,具体的なアイデアが提示されます.
現在,有機ELは実用化の時期を迎え,中小型のモバイル用途から照明や大型TVへの展開が積極的に図られている.特に,リン光材料を用いたデバイスは優れた発光性能を有することから,従来の蛍光材料に代わり,有機ELの基幹材料となっている.しかしながら,リン光材料は,化合物がIr/Pt/Osなどのレアメタルを含有する有機金属化合物に限定されていることや安定な青色発光が困難であるなどの問題点があり,新材料の開発が期待されていた.本稿では,熱活性化遅延蛍光(TADF)による新しい発光機構を用いた次世代有機ELについて述べる.分子構造の最適化によって,従来では,その実現が困難であった高効率なTADFが実現し,これにより,典型的な有機化合物によってほぼ100%の発光量子効率で電気を光に変換する究極の次世代有機EL素子が実現された.
有機トランジスタは有機半導体を活性層とする,MOS型の電界効果トランジスタである.有機半導体の中には,溶媒によく溶ける化合物があるため,溶液を塗布して半導体薄膜を形成することが可能で,印刷技術を応用し,低コストかつ大面積のデバイスをプラスチックフィルム上に生産する革新的な産業に期待が寄せられている.本稿では,高性能な有機トランジスタを実現するキーとなる,分子間に広がった電子状態によるキャリヤ伝導の物理について紹介し,移動度10cm2/Vsを超える印刷可能な単結晶有機半導体の産業応用への展望と課題について述べる.
有機ELデバイスは,有機半導体を使用する全固体型発光デバイスである.近年の材料化学の進歩により飛躍的に性能が向上し,ディスプレイのみならず照明用途の本格的な実用化が進められている.白色有機ELパネルの効率は蛍光灯を超えるレベルに達し,課題であった高輝度下での寿命も,タンデム構造の利用により1000cd/m2で10万時間が実現された.2013年には,タンデム型白色有機ELをベースにした大型有機ELテレビが商品化されるのを皮切りに,有機ELデバイスがこれまで以上に大きく飛躍する年になる.本稿では次世代光源として期待される高性能有機ELデバイスの現状と今後の課題について述べる.
有機半導体において,ドナー性,アクセプタ性のドーパントを見いだし,pn制御技術を確立した.ドーピングのみで,ショットキー接合,pnホモ接合,p+,n+有機/金属オーミック接合,n+p+有機/有機オーミック接合などの,一連の基本的接合およびタンデムセルを,単独,共蒸着膜中に作り込む技術を確立した.第3分子導入で,共蒸着膜の結晶化/相分離を起こし,例外なく光電流を大幅向上できた.
レーザー光を照射したときに有機材料中で発生する非線形分極現象を光第2次高調波(SHG:Second-Harmonic Generation)として検出することにより,有機材料中を移動するキャリヤの輸送現象を計測・可視化できる.この非線形分極現象は,電荷からガウスの法則に従って発生する電界が有機分子の対称性を崩すとき,強力なレーザー光照射で発生するものである.キャリヤの輸送とともに発生するこの現象を追跡することで,有機FETや有機EL,有機太陽電池などさまざまなデバイス中のキャリヤダイナミクスが評価できる.ここでは,測定原理と計測例を示しながら,その将来展望を述べる.
有機半導体分子が層状に自己集積する性質を製造工程に生かすことによって,優れた有機薄膜トランジスタを得ることができる.プリンテッドエレクトロニクスの実現に向けて,有機分子のこのような特徴を活用した,2つの新しい半導体印刷製造技術について解説する.
有機エレクトロニクスの進展に伴って,研究開発に不可欠な材料物性・素子特性を評価するための手法も発展してきた.本稿では,光電子分光などの電子構造の評価法やキャリヤの挙動の観測法などを中心に紹介し,その他の評価手法や展望に関しても簡単に紹介する.
現在,LEDといえば白色LEDを意味するぐらい,青色LEDと黄色蛍光体を組み合わせた白色LEDが一般に普及してきた.本稿では,GaN系半導体を用いた青色LEDの効率改善と,それに伴う白色LEDの効率向上について紹介する.