今世紀の最大の課題である地球環境の改善やエネルギー供給問題の解決に超伝導技術は不可欠である.高温超伝導材料が1986年に発見されて四半世紀を過ぎた今,さまざまな分野で実規模の超伝導機器が開発され,中にはすでに日常的に稼働している機器が出てきている.ヒッグス粒子発見に寄与する電流リード,高効率送電を可能とする電力ケーブル,工場で働く高磁場マグネット,交通技術の未来を開く超伝導モータについて現状・課題を紹介する.
磁束量子を利用した超伝導デジタル回路は,ハイエンド情報ネットワーク機器への応用を目指し,高集積化と並行して高エネルギー効率化が推し進められている.半導体回路に対しての優位性を導いているのは,ジョセフソン接合の高速性・低消費電力性とともに,無損失性という超伝導体本来の基本的な特性であった.最近の数年間で超伝導デジタル回路の消費電力は約1/10に低減された.一方メモリでは,磁束量子の保持による記憶が放棄されようとしている.素子内に組み込まれた磁性体の磁化の向きで記憶素子を構成する方式が提案され,その高集積化の可能性から研究が一気に活発化した.本稿では,新時代に突入したこれら超伝導デジタル技術について概説する.
再生可能エネルギーの1つとして導入が進む風力発電設備は,単機容量が増大の傾向にあり,最大規模の発電機は近い将来,10MW級になると考えられる.そのような大型風力発電機では,超伝導技術の適用が期待される.本稿では,大型風力発電機の基本構造とシステム構成,および大型超伝導風力発電機の設計のポイントについて整理する.コスト低減に直接結びつく超伝導線材量の低減と発電機の小型軽量化は設計上,重要な評価項目である.10MW風力発電機の具体的な設計例として,永久磁石風力発電機,突極型と非突極型の界磁超伝導発電機,および全超伝導発電機の設計について紹介する.
福島第一原子力発電所事故に伴い,発電所周辺地域に大量の放射性物質が放出された.中でもセシウム137は約30年の半減期を有しており,現在の放射性物質による被害の主要因となっている.事故により発生した汚染土壌が大量であるため,汚染土壌の除染および減容化技術が強く求められている.これらの問題を解決するための有力な手法として,超伝導磁石を用いた磁気分離法による新たな土壌減容化法を検討した.本手法は剝ぎ取られた表土を分級した後,粘土・シルトを対象に磁気分離を行う.その後,磁気分離された粘土鉱物はセシウム保持体として貯蔵管理するものである.この手法は可能であることが実験的に示された.
本稿では,筆者らが研究開発している高温超伝導誘導同期回転機を舞台として,超伝導現象とモータ特性の関係を議論する.特に,ゼロ抵抗状態だけでなく非線形電流輸送特性も巧みに利用することによって,インテリジェントなモータが実現されることを説明する.さらに,前述の回転機を輸送機器に応用するための研究開発の現状を紹介する.
JOGMECは,金属資源探査において使用頻度の多い電磁探査の探査深度を向上させるために,高温SQUIDを用いた電磁探査装置(SQUITEM)の3号機を完成させた.高温SQUIDを電磁探査装置の磁気センサとして採用した理由は,ノイズレベルが他の磁気センサに比べて極めて小さく,周波数帯域が十分に広いためである.オーストラリアでの亜鉛探査では,SQUITEM1号機を用いた結果,誘導コイルによる従来装置では捕捉できなかった深部の低比抵抗を明瞭に捉えることができた.また,オーストラリアの銅賦存(ふぞん)地区での3号機のフィールドテストでは,2号機よりもさらに深部まで測定できることを確認した.
現在,広範かつ大量に実用化されている酸化物半導体材料は,縮退したn型金属酸化物から成るIn2O3系,SnO2系およびZnO系透明導電膜である.透明導電膜の主要な用途は,フラットパネルディスプレイ,薄膜太陽電池およびタッチパネルなどの透明電極である.縮退したn型金属酸化物半導体について,透明電極応用の現状を紹介するとともに,透明導電膜材料と成膜技術との関係を述べ,得られる膜の電気的・光学的特性について説明する.また,透明電極用途における透明導電膜の研究開発の今後の展望を述べる.