1980年代に始まった量子物理学におけるパラダイムシフトは,光と固体素子の最先端技術の融合を通して,量子情報関連分野を生みだした.それと同時並行的に進展した,原子をレーザー冷却して捕獲・制御する技術の進展は,気体のボース・アインシュタイン凝縮生成の成功によってマクロ量子多体系を自在に制御することを可能にし,いくつもの画期的な成果を生みだした.さらに最近では,量子多体系を1原子のレベルで観測・制御する実験技術が開発され,また,少数多体系を精密に制御する研究も進展している.本記事では,冷却原子気体の最近の話題と,それに関連した研究の一端を紹介する.
量子ドット集合体を超短光パルスにより共鳴励起すると,多数の量子ドットの集団コヒーレンスが誘起される.不均一性の大きな量子ドットでは,集団コヒーレンスは瞬時に緩和してしまうが,フォトンエコー法を用いることで不均一性の影響を除去し,量子ドット集合体を量子情報技術へ利用することが可能となる.本解説では,量子ドット集合体における集団コヒーレンスの基礎と,フォトンエコー法を利用した量子インタフェースへの応用例を紹介する.
オプトメカニクスは,電磁波と機械振動子の相互作用を利用した,光とメカニクス制御の新興融合分野である.この相互作用により機械振動を完全に凍結させたり,電磁波との間で状態転送を行ったり,振動子の変位を量子限界で測定したりすることが可能となる.共振器電磁力学の分野で開発された高Q値共振器や,2準位系と電磁波の強結合領域の知見,また一方ではナノ材料の生成技術の向上により,オプトメカニクス研究において,幅広いサイズスケールの機械振動子の量子領域を探求できるところにたどりついた.本稿ではこれまでの研究状況の一部を紹介する.
量子情報科学分野の発展にとって,量子操作が可能な,小型でスケーラブルな固体系の開発は重要である.しかし,原子系とは異なり,固体であるがゆえに量子系の天敵である熱から孤立した状態を確保することは非常に困難である.近年,極低温技術とナノ加工技術の進歩によって,新たな固体量子システムの候補として機械振動子を利用する研究が進展し,量子力学的イメージからは程遠いメソスケールの物体の振動を量子力学的基底状態にまで光で冷却することが可能になってきた.本稿では,フォトニック結晶ナノ共振器を利用したレーザー冷却法を取り上げ,その物理と展望について紹介する.
空間分解能のよい高感度磁力計の実現は,基礎物理学から医療まで幅広い分野のさまざまな応用を可能にする非常に重要な技術課題である.スピン自由度をもつ原子気体ボース・アインシュタイン凝縮体は,その技術課題の限界に挑むうえで優れた研究対象であると考えられる.本稿では,近年の研究について,特に我々が最近行ったスピンエコー法を用いた交流磁力計について紹介する.
レーザー冷却技術による希薄原子気体のボース・アインシュタイン凝縮では,熱励起成分が無視できるほぼ純粋な凝縮体を準備し,その運動を直接光学的に観測できる.この凝縮体の運動は波動関数で表現されるが,その振幅と位相は構成原子の特性を利用して電磁場やレーザー光によって操作することができ,人為的にさまざまな構造を凝縮体に導入することによって,従来実現困難であった凝縮体の物性研究や応用が可能になると期待される.本稿では筆者らが開発を進めてきた凝縮体波動関数の位相操作技術や,量子渦導入などへの応用について紹介する.
機械振動子という巨視的な物体の熱的なブラウン運動を,真空中に漂う原子気体やイオンと同様に,レーザーやマイクロ波で制御・冷却することが可能になってきた.本稿では,物理描像を理解しやすい現象論的な古典モデルを用い,光共振器を介して機械振動子をレーザー冷却できる仕組みを必要最低限の物理を使って理解することを目指す.このモデルを用いて,光熱効果を利用した最初の共振器冷却の実験,半導体ナノメンブレンを共振器冷却した我々の実験,そして,光の放射圧を使った共振器冷却の実験を紹介する.
新しい透明電極材料として期待されるグラフェンの特徴をITOとの比較により議論する.さらにグラフェンの工業利用の要である合成法を概観し,ロール・ツー・ロールによる大量生産の試み,グラフェン透明電極の応用展開について述べる.