2010年に発足した技術研究組合LEAPは,Internet of Thingsへの応用などを念頭に,LSIのさらなる低消費電力化に貢献するデバイスとして,薄膜SOI基板を用いたSOTBや,抵抗変化を利用した原子移動型スイッチ,磁性変化メモリ,相変化メモリ,そして,カーボンを用いた低抵抗配線技術を開発してきた.量産と同じ300mmウェーハを用いた試作環境を構築し,これらのデバイスを用いたLSIチップが試作できるまでになった.本稿では,低電圧動作という観点でのデバイスの特徴と,LSIで実証した低電力特性について紹介する.
高解像度化のために短波長化が繰り返されてきた半導体リソグラフィの光源は,次世代の極端紫外光(EUV)リソグラフィにおいて,初めて電離放射線領域に入る.シングルナノの解像度が求められる次世代リソグラフィの材料設計指針を得るため,我々は電子線形加速器からの超短パルス電子線を利用した過渡吸収分光と空間的な高分解能が得られるリソグラフィ露光機を組み合わせることで,反応機構の解明に取り組んできた.電離放射線領域では,従来の光レジストと異なり,レジストにランダムに落とされる入射光のエネルギーをいかに効率よく化学反応に結び付けられるかが課題となる.さらに,高分子がエネルギー吸収から現像までの全ての過程において重要な役割を果たすため,個々の機能が干渉しあうことを避けて分子設計を行うことが要求される.
福島第一原子力発電所の事故後,ガンマ線カメラを用いた放射性物質の分布の可視化技術が話題となっている.コンプトンカメラは,装置内部で起こった「コンプトン散乱」のプロセスを記録し,そのエネルギー・位置情報を用いて,コンプトン散乱の運動学からガンマ線の到来方向を求めるカメラである.1970年代の初頭に初めて提案されたコンプトンカメラは40年の開発の歴史を経て,ようやく実用化されつつある.この技術が開発されれば,数百keVから数MeVのガンマ線の領域で「写真」が撮れるようになり,ホットスポットの可視化ばかりではなく,医療や非破壊検査などのイメージングへの応用が期待される.本稿では,最新の半導体センサ技術を用いて開発されたコンパクトなガンマ線イメージング用のコンプトンカメラについて,その現状を述べる.
LEDの導入により,自動車灯火のデザインが飛躍的に多様化した.これまでにない形状,色のランプが開発され,その機能としての役割だけでなく,自動車のブランドを示すシグネチャとしての役割を担うようになってきている.しかし,灯火には安全に走行するためにさまざまな要件が規定されている.より安全に貢献するという観点からも,LEDの登場によってこれまで想定していなかった規制緩和や改正が進んでいる.ここでは,それらを含む自動車灯火の基準の国際調和について現状を報告する.
新世代のX線光源であるX線自由電子レーザー(XFEL)による観察では,高ピーク輝度・超短パルスという特徴から,放射線損傷の影響を回避した自然な状態の構造を捉えることができる.微量な溶液試料を封じ込めるマイクロ液体封入アレイとXFELによる計測を組み合わせた,生きた細菌の高分解能イメージングについて紹介する.
ポリ(4-スチレンスルホン酸)をドープしたポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT/PSS)は最も成功した導電性高分子の1つであり,水にコロイド分散可能なことからプリンテッドエレクトロニクスへの応用が期待されている.本稿では,PEDOT/PSSの階層構造に焦点を当て,電気伝導度向上のメカニズムについてこれまで得られた知見を中心に解説する.
酵素を電極触媒とするバイオ電池は,糖やアルコールなどの安全で豊富な化学エネルギーから直接発電するデバイスであり,電池全体が有機物で構成できるなど,生体および環境に優しいのが特徴である.本稿では,バイオ電池の研究開発動向の解説とともに,我々の最近の成果を紹介する.
スパッタ法やプラズマ化学気相成長法(PE-CVD)などのプラズマを用いた薄膜形成方法は,対象となる基板上に良質な膜が形成できる.その良質な膜を均一に成膜するためには,プラズマ密度の分布を制御することが最も重要となる.このプラズマ制御の応用技術は,半導体,パワーデバイス,LED,磁気記録媒体,太陽電池,フラットパネルディスプレイ(FPD)などの多岐にわたったデバイス製造工程において,欠かすことのできないコア技術となっている.これらのデバイスの中でも,成膜される基板サイズが最も大きな(基板短辺が3mを超える)FPDにおいては,プラズマ制御技術が大きな発展を遂げた.本稿では,FPDの製造工程における金属配線膜や透明導電膜などの薄膜形成に利用されているスパッタ装置のプラズマ制御方法と,近年注目される透明酸化物半導体(TOS)の薄膜形成における大面積スパッタ技術について述べる.