国立天文台は主鏡をコンピュータ制御し最高の画質を誇る8mすばる望遠鏡をハワイ島マウナケア山頂に1999年に完成した.10年後には,大気の揺らぎによる像の劣化を実時間補償してその解像力を回折限界にまで高める補償光学装置とレーザーガイド星生成装置の開発により,すばる望遠鏡の視力はさらに10倍になった.この補償光学の原理と実際の装置構成,新たな展開と他分野への応用を述べる.すばるが成し遂げた初期宇宙史の解明や太陽系外の惑星の探査をさらに進めるため,国立天文台は2014年度からマウナケアに口径30mの次世代超大型望遠鏡TMTを国際協力で建設する.TMT計画の概要とそのサイエンスについても解説する.
1954年のシリコン太陽電池の発明以来,太陽電池の高効率化は半導体科学・工学の中心的な課題の1つである.ナノ構造半導体において顕在化するキャリヤ多体効果を利用することにより,高いエネルギー変換効率を達成できる太陽電池の設計が可能となる.オージェ再結合およびマルチエキシトン生成の基礎過程とそれらを利用した太陽光の効率よい電力変換について議論する.
溶液成長によるSiCウェーハの開発状況について解説する.前半はマクロな欠陥の少ない良好なバルク結晶の高速成長について述べる.特に,溶液にCrを添加することによる成長速度の向上や成長面方位,メニスカス形成,結晶形状の制御によるマクロ欠陥の抑制について言及する.後半は,筆者らのグループの結果を中心に転位密度の低減の試みについて解説する.
3D映像技術に関して,取り巻く状況も含めて,注目すべき技術を中心に最近の技術動向について述べる.3DTVの売れ行きは残念な状況ではあるが,3D映画はすでに確固たる地位を占めるに至っており,3D映像技術の普及を目指す複数の団体も設立され,ガイドラインや標準化に関しても日本が先導している.3D映像関連の技術発表に関しては,新たな研究会の設立もあり,国内外ともに依然として盛況なうえ,3D映像の品質も着々と向上している.また,3D入力技術や3Dプリンタなどの関連技術の市場はむしろ活発化してきており,2018年の韓国での冬季オリンピック,2020年の東京オリンピックを目指して,多くの技術が結集し,結実することを期待したい.
単純スケーリングによるSiトランジスタの性能向上限界を打破し,CMOS集積回路の高性能化および低消費電力化を実現するためには,新材料・新構造トランジスタの導入が必須である.本稿では,高移動度材料であるInGaAsをチャネルに用いた三角形状トランジスタの試作結果を報告する.有機金属気相成長の際に形成される(111)Bファセットを利用することで,通常の(100)面より高い移動度増大を実現することができた.また,本素子はオフリーク電流低減に有効な立体型トランジスタ構造をとっており,高性能・低消費電力CMOS応用へ向けて大変有望である.
ある最適な半導体材料に対して,電気陰性度,原子半径の大きく異なる元素をわずかに導入して作製した高不整合混晶材料では,本来のバンドギャップ中に新たなエネルギーバンドが形成されるため,計3つの光学遷移過程を創出できる.これにより,1つの材料でありながら光吸収の観点から太陽光スペクトルを幅広くカバーすることができるようになり,太陽電池の高効率化が期待されている.本稿では,II-VI族半導体ZnTeに酸素を微量添加した高不整合材料の創製と中間バンド型太陽電池への応用に関する研究について紹介する.