有機材料を光発電層や電荷輸送層に用いる有機系太陽電池は,分子設計によって感光波長やエネルギーレベルのチューニングが可能であり,また印刷による低コスト製造につながる利点をもつ.色素増感型と有機薄膜型の太陽電池が12%を超える太陽光エネルギー変換効率に届く中で,両者の原理を融合した新しい塗布型の太陽電池として,有機無機複合化合物のペロブスカイト結晶を使う固体薄膜太陽電池が16%を超える効率に届き,この研究が世界的規模で活発化している.我々はハイブリッド太陽電池の設計をする中で1.2 Vに届く高い電圧も実証しており,高電圧の特性を引き出す戦略による高効率化の可能性を検討している.本稿では有機無機ペロブスカイト太陽電池と有機金属錯体型薄膜太陽電池を例に,化学工程で作るハイブリッド材料を感光層に使った太陽電池について,高効率化への取り組みを紹介する.
カーボンナノファイバは,既存のカーボンナノチューブと炭素繊維の中間のサイズに位置する新しい繊維状カーボン材料である.本稿では,カーボンナノファイバの研究開発の現状と今後の展望について,その作製法と低炭素技術への展開を中心に解説する.
サンベルトと呼ばれる海外の日照量の豊富な地域(米国南西部,地中海沿岸,豪州,中東,北アフリカなど)では,大型太陽集光システムによる太陽熱発電の導入が進んでいるが,その大型集光システムを用いて高温太陽熱から水の熱分解などで水素などのソーラー燃料を製造する熱化学プロセスの開発が次世代技術として注目されている.欧米では2020年までに$3/kg水素でCO2フリー水素を製造することをターゲットに,研究プロジェクトが展開されている.この技術が開発されれば,太陽光の豊富なサンベルトから日本へ太陽エネルギーを燃料としてタンカー輸送することが可能になる.本稿では,次世代技術としての高温太陽熱水分解水素製造技術の開発状況について概説する.
軽元素から構成されるLiBH4などの錯体水素化物は,その質量水素密度が大きいことから,高密度水素貯蔵材料として広く研究が行われてきた.筆者らのグループにおいて最近,LiBH4高温相が10-3 S cm-1を上回る高速リチウムイオン伝導率を有することを見いだしており,その全固体電池用電解質としての応用が期待されている.本稿では,錯体水素化物系高速イオン伝導体の研究開発動向とそれを利用した全固体型リチウムイオン二次電池開発の最近の成果を紹介するとともに,今後の展望について述べる.
安価な半導体光触媒を用い,無尽蔵の太陽光によって水から水素を直接製造することができれば,エネルギー問題の解決に寄与できる理想的な太陽光エネルギー変換系,すなわち人工光合成系となりうる.実用化への課題はエネルギー変換効率をいかに向上させるかであり,そのためには太陽光スペクトルの大部分を占める可視光の有効利用が不可欠である.本稿では,筆者らが開発した「2段階光励起型水分解系」による可視光水分解の実証を中心に,本研究分野の背景や現状を解説する.
多様な産業分野で計算化学が利用されるために,原子,分子レベルからメソ,粒子,マクロレベルまでを含むマルチスケール計算手法に加え,電気伝導,熱伝導,摩擦・摩耗,触媒反応,電極反応,光吸収・発光などマルチフィジックス計算手法を開発してきた.低炭素社会の実現に向けた要素技術として,自動車におけるトライボロジー,水素製造プロセスで用いられる触媒,また燃料電池,蓄電池,太陽電池などの各種電池技術などについて,マルチスケール・マルチフィジックス計算化学による実践的な応用研究を進めている.
近年の石油などの化石燃料資源の枯渇あるいは地球温暖化などの問題から,電気自動車(EV)あるいはハイブリッド車(HV)などの開発が急ピッチで進められている.このEVやHVにとって,最も重要な基幹部品がその動力源となる二次電池である.ここでは,自動車用二次電池の開発を中心に,次世代自動車とそのエネルギーの在り方について述べる.
不透明な内部を可視化する非破壊内部計測技術は,医療や産業,広い分野の学術研究において,非常に重要な技術である.光の特性や干渉を用いると,非接触・非破壊で,µmの分解能で高感度な観察が可能になる.今回は,特に最近医療の分野で注目を集めている,不透明なサンプルの内部をµmの分解能で可視化する光断層計測(OCT)について,解説する.OCTは,すでに眼科臨床における網膜診断において,欠くことのできない技術として活用されている.本稿ではOCTの原理から応用例,最近の研究動向までをわかりやすく紹介する.