量子情報を離れた場所へ転送する量子テレポーテーションの技術は,光を用いた量子通信や量子コンピューティングの実現に欠かせない.光の量子テレポーテーションには,光の粒子性と波動性を生かした,量子ビットと連続量という2つの独立なアプローチがあるが,いずれも技術的課題に直面していた.本稿では,従来の量子テレポーテーションの課題を取り上げるとともに,2つのアプローチを融合する「ハイブリッド」な手法でその課題を克服するに至った近年の我々の研究の進展を紹介する.
近年,シリコンを用いた光デバイスの開発が活発化している.間接遷移型半導体であるシリコンでは,光技術の源となるレーザー光を発生させることが困難とされてきたが,誘導ラマン散乱を用いた光励起型のレーザーが開発され注目されている.本稿では,高Q値フォトニック結晶ナノ共振器を用いた超低閾(しきい)値のシリコンラマンレーザーについて紹介する.
有機薄膜材料の本質的な柔らかさと低温プロセス可能である特徴を生かして,世界最軽量(3 g/m2)で最薄(2 µm)のくしゃくしゃに折り曲げても動作する有機光電変換素子「「超薄膜有機太陽電池」と「超薄膜有機LED」」,電子スイッチ「超薄膜有機トランジスタ回路」の開発に成功した.エレクトロニクスの基本要素であるトランジスタとPNダイオード構造(LED,光センサ)をわずか1 µm厚の高分子フィルム上に実現したことで,近い将来,超薄膜であらゆる表面形状に追従する「装着感のないウェアラブルエレクトロニクス」を実現できる基盤技術として期待されている.本稿では,1 µm級厚みの薄膜フレキシブルエレクトロニクスの開発進捗,技術課題と次世代医療・福祉分野への貢献など将来展望についても紹介したい.
有機薄膜上への制御された電極形成は,高性能な有機デバイスを実現するための基盤技術とされている.電極形成を金属原子の物理蒸着によって行う場合,有機薄膜中への金属原子の拡散が界面の秩序性を著しく劣化させることが問題点として指摘されている.我々は,金属原子の集合体である金属ナノクラスタを有機薄膜上へ非破壊的に固定化して電極を形成すると,この問題を解決できるだけでなく,電極/有機界面の電気特性を制御できることを見いだした.本稿では,それに関連する最近の研究成果を紹介する.
クーロン反発が電荷やスピンの物性を支配する強相関電子系において,「電子型強誘電体」と呼ばれる概念が注目されている.強誘電性や誘電異常の主要因が電子間相互作用による電荷の偏りであることから,外場(電場,光)に対する高速でフレキシブルな応答が期待されている.しかし,その実験的な評価方法や機能創成は議論の途上にある.本稿では,新しい電子型誘電体の候補物質である層状の三角格子有機物質κ-(BEDT-TTF)2Cu2(CN)3における誘電異常の起源とその光応答を,テラヘルツ光領域のスペクトルから議論したい.
超短パルスレーザーを用いて有機固体の動的構造変化を観測する手段について紹介する.狭帯域または広帯域の中赤外超短パルス光を用いた時間分解振動スペクトル測定により,有機結晶における異なる時間スケールで変化する電荷と構造の変化を観測した.2色の赤外パルスを用いることにより,高度に不均一な試料においてもこのような測定ができることを示した.さらに,フェムト秒電子線回折測定との比較により,振動スペクトル変化と実空間の構造変化との関係も明らかにした.
カーボンナノチューブは,光励起や電流注入により近赤外光領域で発光し,将来の光ファイバ通信用省エネルギー光源やバイオイメージング用発光体などへの応用が期待される擬1次元量子細線である.しかし,通常その発光の量子効率は約1%程度と低く,実用化のために大幅な発光効率の向上が望まれている.今回,発光性の0次元的な局所状態(量子ドット状態)をナノチューブ上にまばらに埋め込むと,その部分において,元の1次元部分と比べ約18倍以上の高い量子効率(約18%程度)で発光が生じることが明らかとなった.この発見は,レアメタルなどの希少元素を用いることなく,光ファイバ通信用の高効率な量子光源などを,炭素だけで作製する革新技術の実現につながると期待される.
3次元のナノ粒子状構造体をイムノアッセイの基材として用いることで,抗体固定化量が増加し高感度な分析が可能となった.この3次元構造体をマイクロチップに搭載することで4時間の分析を20分に短縮できた.ナノ粒子状からファイバ構造の3次元構造体では,ファイバを通して試料溶液を吸引させることができ,律速段階となっている物質拡散の効率化を図り,5分というイムノアッセイの分析時間を達成した.3次元ナノ構造体の利用により,高感度・迅速なイムノアッセイを実現できることを示せた.