2015 年のノーベル物理学賞を受賞した梶田隆章氏のニュートリノ観測を支えたのが,水の分子にニュートリノが衝突したときに発せられる極かすかなチェレンコフ光を捕まえるために開発された,浜松ホトニクス(株)製の20 inch(50 cm)径の光電子増倍管である.カミオカンデおよびスーパーカミオカンデの両プロジェクトに関わった同社顧問の袴田敏一氏に話を聞いた.
国内外で刊行されている数多くの論文誌(ジャーナル,プロシーディング,研究紀要など)に掲載されている膨大な論文情報を電子的に一元管理した「論文データベース」の導入と利活用が進んでいる.
利用目的は主に3つだ.1つめが研究者や技術者による論文の横断的な閲覧および検索である.かつてのように数多くの論文誌を手元に集めなくても,サービスを購入するなどしてデータベースを利用できる状態であれば,世界中の論文を効率的かつ速やかに一望できるようになった.
利用目的の2つめが評価である.論文をデータベース化したことでさまざな評価指標が容易に導出できるようになったからだ.論文本数のような単純な指標だけではなく,掲載論文がほかの論文から引用された回数(被引用回数)を数値化して論文誌を評価する「Impact Factor」や,物理学者であるJorge E.Hirsch氏が考案した「h-index」のような指標を使って,論文が掲載されている雑誌(論文誌)のほか,大学や研究機関などのポジショニングやランキングの定量化が行われている.さらにこうした指標は研究者個人の評価に用いられることもある.
3つめの利用目的が意思決定の一助となるエビデンス(客観的根拠)作りである.前述のように,論文を軸に特定の研究分野における強みと弱みや他機関との比較を容易に把握できるようになったこともあり,実際に多くの大学や研究機関が戦略立案や予算策定の一助として論文データベースを活用しているとされる.
本稿では,論文データベースを利用する側である科学技術・学術政策研究所の林和弘氏と,論文データベースサービスを提供する側であるElsevierの柿田佳子氏およびThomson Reutersの安藤聡子氏のインタビューを元にお届けする.
グラフェンに代表される2次元物質が,社会や生活に革新をもたらす材料として期待を集めている.これら物質群は,透明でフレキシブルであるという共通の特徴に加え,金属から半導体,絶縁体まで多様な特性を示し,単体もしくはそれらのハイブリッド構造から,エレクトロニクス,フォトニクス,センサ,エネルギー,バイオ,複合材料などへの幅広い応用が見込まれている.本稿では,グラフェンの結晶成長を軸に,2次元物質研究の現状を概観してみたい.
現在の短距離系光通信の光源として中心的な役割を果たしている面発光レーザーの発明から,およそ38年が経過した.これまでの研究開発により,レーザーとしての性能も通常の半導体レーザーをしのぐようになり,アレイ化などの特徴を生かした応用も実証されてきた.特に短距離の光リンク用光源として成長し,光センサ,医療応用,光無線,光加工などの新しい応用分野も考えられている.今後,デバイス技術の一層の進展により,光インターコネクト,光アクセス網,レーザー照明など多様な分野への展開が期待できる.ここでは,面発光レーザーの高速直接変調,波長制御技術,ビーム掃引など,面発光レーザーの最近の進展について述べる.
脳神経系は高いエネルギー効率で知的,複雑で適応的な情報処理を行う優れた情報処理システムである.神経細胞,シナプスのレベルで神経ネットワークを模倣した電子回路であるシリコン神経ネットワークは,次世代情報処理システムの有力候補である.脳神経系における情報処理メカニズムの解明が進んでいない現状で,脳に匹敵する次世代情報処理システムの基盤としてのシリコン神経ネットワークプラットフォームの構築に向けた筆者らが行っている取り組みを紹介する.
フラッシュメモリに代わる低消費電力かつ超高密度の不揮発性固体メモリの研究開発が注目を浴びている.磁気抵抗変化メモリ(MRAM),金属酸化物を用いた抵抗変化メモリ(RRAM),テルルを主成分としたカルコゲン化合物の結晶-アモルファス相転移を利用した相変化メモリ(PRAM)がその主流であるが,近年,相変化メモリに用いる材料であるGe-Sb-Te三元合金がトポロジカル絶縁体であることが理論的に予想されるとともに,(国研)産業技術総合研究所で超低消費電力動作を目的として開発されたGeTe/Sb2Te3超格子相変化メモリが,大きな室温磁気抵抗変化などの従来合金ではこれまで決して観測されなかった性質をもつことから,トポロジカル絶縁体との関係が強く疑われるようになってきた.
本稿では超格子相変化メモリの開発の経緯とその特性,また最近わかってきたトポロジカル絶縁体との関係について紹介する.
グラファイトに代表されるsp2炭素からなるネットワーク物質は,原子欠陥やトポロジカル欠陥の導入により容易に磁気的な性質を帯びることが知られている.ここでは,カーボンナノチューブ(CNT)に端やトポロジカル欠陥を導入することにより,磁性CNTが実現されることを量子論に立脚した第一原理計算の結果を基に示す.特に,有限長のCNTと5員環と8員環からなるトポロジカル欠陥を有するCNTにおいて,詳細な原子形状に依存した磁性状態が発現することを紹介する.
光で自由電荷を作ると,電荷は移動する.電荷が移動すれば,電磁波を放射する.光が極短光パルスであれば,電荷の生成と移動が,高速で誘発され,テラヘルツ電磁波となる.フェムト秒レーザーを走査して,その電磁波のマッピングをとれば,電荷の動きを反映したイメージングが可能となる.我々はこれまで,レーザー走査型テラヘルツ放射顕微鏡(LTEM)を提案し,開発を続けてきた.本稿では,LTEMの最近の進展と応用分野開拓への取り組みを紹介する.
21世紀の今日,電子機器実験にはパソコンによる制御が欠かせません.コンピュータで情報の入出力を自由自在に行うことができるようになると,大量の実験データを延々と取得するシステムやプレゼンテーションで会場をうならせるライブデモなど,さまざまな場面で応用が可能になります.このような制御を行うシステムは有償・無償を含めさまざまなものが出回り,まさに日進月歩の世界ですが入出力の基礎概念さえ押さえておけば時代の流れも怖くはありません.本稿では制御システムの基礎概念を具体的なイメージが湧くようにご紹介します.