波長安定化レーザーの光周波数を測る,水素原子の精密分光を行う,といった基礎物理学のニーズから提案・開発されてきた光周波数コム技術は,物理学の世界で20世紀中に起こったイノベーションである.当初の光周波数のものさしとしての役割に加え,時間軸・周波数軸で極限まで制御された広帯域・多色光源としての応用研究も大いに発展しており,21世紀の基盤技術となることが約束されている.国際光年の今年,Hall博士・Hänsch教授のノーベル物理学賞受賞から10年の節目にあたり,この光コム技術をわかりやすく解説する.
シリコンヘテロ接合太陽電池は非常に高い変換効率が得られるとともに,低温で形成可能,表裏対称構造で薄型化が可能,両面発電型モジュールへの応用が容易など,多くの優れた特長を有する太陽電池である.当社が世界に先駆けて商品化したこの太陽電池の開発の歴史,特長について解説し,変換効率の世界記録更新など最近の高効率化への取り組みや,応用商品である両面発電型モジュールについて紹介するとともに,今後の展望について述べる.
ナノスピン変換とは,角運動量保存則によりナノスケールで生じる角運動量の変換現象の総称である.これまでに,スピントルク磁化反転,スピンホール効果やスピンゼーベック効果など,さまざまな変換現象が見つかっている.本年度から発足した新学術領域研究「ナノスピン変換科学」では,これらの変換現象を伝導電子スピン,マグノン,フォノン,フォトンなどの準粒子間の変換現象として捉え,スピン変換現象を包括的に説明するスピン変換科学の学理を構築することを最終的な目的とする.本研究領域の現状と将来展望についてまとめる.
精密分光分野に革新をもたらした光周波数コムは,近年,さまざまな方面に用途を拡大している.中でも,高速・精密・広帯域分子分光を実現するデュアルコム分光は新たなフーリエ変換分光法として注目されている.本稿では非線形光学効果とデュアルコム分光を融合し,光周波数コムによる新たな分子分光法を実現した研究を紹介する.
化学気相成長法により形成されたダイヤモンド薄膜中の個々の窒素-空孔(NV)ペアに束縛された単一の電子スピンを量子センサとして用い,究極的には単一の核スピンから生じる磁場の計測,すなわち,単一核スピンの核磁気共鳴(NMR)の実現を目指す研究を紹介する.筆者らの現在の成果は,6千個程度のプロトン集合体の核磁場測定であり,これを1個にまで減らす可能性を論じる.
ダイヤモンドナノ粒子内の負に荷電した窒素-空孔中心(NV-)は,最近,新しい蛍光プローブとして注目されている.NV-は退色やブリンキングがなく,長時間の観察が可能なだけでなく,磁気共鳴技術を使って蛍光強度を制御することができるという特殊な性質をもつ.我々はこれらの性質を利用して,ダイヤモンドナノ粒子をほかの蛍光物質と区別して選択的に検出する方法,およびダイヤモンドナノ粒子の回転運動を検出する方法を開発した.その結果,ダイヤモンドナノ粒子を蛍光プローブとして用いることで,これまで観察できなかった長時間にわたる個々の生体分子の動きや構造変化の検出が可能になった.
ハード磁性層とソフト磁性層を交換結合させた薄膜において,ソフト磁性層内に磁気モーメントの波である「スピン波」を励起すると,ハード磁性層を小さな外部磁場で磁化スイッチングできるようになる.このスピン波アシスト磁化反転は,磁気記憶デバイスが直面する情報の高密度化とデバイスの低エネルギー動作の両立という課題への1つの解決策である.本稿では,スピン波を利用した磁化スイッチングの実験と数値計算,およびそのメカニズムについて紹介する.
発光ダイオード(LED)は,省エネルギーで環境負荷の少ない高効率固体光源であり,照明用光源やディスプレイ用バックライトとして急速に普及し,光源革命の担い手として期待されている.本稿では,今後ますます社会に浸透していく可視光LEDを理解する助けとなるよう,pn接合ダイオードの基礎原理,動作原理や構造,発光色はどう決まるのか,発光効率や演色性などの基礎的事項について,初学者にもわかるように概説する.