µmスケールの流路を基板に加工してその中でさまざまな機能を実現するマイクロフルイディクスが発展し,超微量(nL)・超高速(秒〜分)の化学分析などさまざまなデバイスが実現してきた.さらに近年では,10〜100nmの空間を利用した拡張ナノフルイディクスへと進展している.細胞よりはるかに小さいaL〜fLの体積を利用した単一細胞単一分子分析や,この空間で初めて発現する物性を利用した超小型光駆動燃料電池など,新たな化学デバイス工学が期待される.しかし一方で,超微小な空間を作り,その中の分子を計り,物性や現象を探るためには,全く新しい方法論と技術が必要になってくる.本稿では,マイクロ・拡張ナノフルイディクスの現状と展望について解説する.
グラフェンを筆頭とするさまざまな分子材料へのスピン注入・スピン伝導現象が,近年盛んに研究されている.本稿では,分子材料を用いた最近のスピントロニクス研究について,具体的な研究成果や近年広がりを見せつつある実験手法の紹介を通して現状の分析と今後の展望を議論する.
プラズマエッチングにおけるパターン側壁や底面のラフネス(荒れ)はデバイスの特性ばらつきの要因となり,その抑制が求められる.本稿では,プラズマによるナノスケールのラフネスとリップル(波状の周期構造)について,形成メカニズムのモデリングとシミュレーション,ならびにその実験検証と制御に関する筆者らの最近の研究を紹介する.表面ラフネスやリップルの形成・発達において,プラズマから入射するイオンの表面反射(散乱)が重要な役割を担っていること,反射確率が小さいイオンの入射が多い状況ではラフネスが抑制されることがわかってきた.プラズマ・表面相互作用に起因するラフネス・リップルの制御は,表面ナノ構造形成の観点からも関心が高い.
太陽光をまず単色レーザー光に変換し,その単色光に特化した太陽電池で効率よく電気に変換する.口径5cmの軸外し放物面鏡を用いた超小型太陽光励起レーザーを開発し,太陽追尾により安定な発振に成功した.レーザーの伝送性と小スポット性を生かす特殊な太陽電池を管理環境下に隔離・保持して,難設置地域における長寿命・高効率な太陽光発電の実現を目指す.
電気化学分析法やバイオセンサ開発にさまざまなカーボン材料が用いられてきた.電子サイクロトロン共鳴スパッタ法などで形成したスパッタナノカーボン薄膜は,sp2とsp3結合から成り,極めて平坦な表面を有する.その結果,広い電位窓や生体分子吸着が抑制されるなどの優れた電気化学特性を示す.本稿では,スパッタナノカーボン薄膜の構造と電気化学特性,DNA検出や食品分析,さらに薬剤管理のためのセンサに応用した研究を紹介する.
光技術を用いたイメージング技術はバイオ・物性研究に欠かせないツールとなってきている.多光子励起顕微鏡法によるin vivoイメージングは近年の脳機能研究の発展に多大な貢献をしてきている.脳は散乱体であり,通常ではほんの数百µmの深さしか可視化できない.我々は新規高出力半導体レーザー光源および高感度蛍光検出器を組み合わせることでマウス生体脳深部(1.5mm)に位置する海馬歯状回を非侵襲で高解像度イメージングすることに成功した.
テラヘルツ量子カスケードレーザー(THz-QCL)は小型,高出力,狭線幅,安価,連続動作可能なテラヘルツレーザー光源として今後の実用化が期待されている.本稿では,THz-QCLの高性能化の最近の取り組みに関して,間接注入機構を用いた低周波高温動作QCLの実現,窒化物半導体を用いたQCLの世界初発振ならびに未開拓周波数(5.4〜7THz)の実現などについて紹介し,今後のTHz-QCLの動作範囲拡大の将来展望について議論する.
本稿では,最も基本的な温度の測定である流体温度計や熱電対による気体の温度の測定,熱電対による表面の温度の測定,ふく射温度計による表面の温度の測定について,筆者が実験研究の現場で考えたり実行したりしてきたあれこれを述べます.熱電対での測定については,簡単に実行できるいくつかの工夫を紹介します.ふく射温度計については,それで正確な温度の絶対値を測るのは難しいと理解するところから入ることをお勧めします.