光を用いて生きた生物試料を観察でき,光学顕微鏡の回折限界を超える分解能を有する実時間ナノイメージング法を実現することを目的として研究を進めている.本顕微鏡では,蛍光膜に収束した電子線を照射して蛍光膜上に微小光源を励起し,走査することにより高分解能を実現する.蛍光膜で電子線照射のための真空部と試料を配置する環境を分離するため,試料側には真空が必要でなく,通常の光学顕微鏡と同様に大気圧下,液中などさまざまな環境下での観察が可能となる.また,電子線を真空と大気圧の分離膜を透過させて,細胞などにラベリングした蛍光分子を直接励起する直接励起型の高分解能顕微鏡についても紹介する.
近年,にわかに再注目されている層状カルコゲナイド物質は,従来のダイヤモンド構造をもつ半導体材料の場合と同様に,ドーピングや合金化による電子構造の変調が可能である.特に,単層になった場合でもキャリヤ導入やバンドギャップ調整が可能であり,同じ低次元物質であるグラフェンよりも多彩な応用が期待できる2次元半導体といえる.本稿では,単層MoS2のドーピング構造やWS2との合金構造などを原子レベルで明らかにした研究や,電子ビームを用いた相転移を利用して異なる電気特性をもつMoS2相を同一面内に成長させた研究などを紹介する.
磁性体中のスピン渦構造(スキルミオン)は,1原子層当たりでも多数個(102〜104)のスピンから成るが,その特有のトポロジーのために安定なナノ粒子として振る舞う.MnSiなどのカイラル(掌性)構造をもつ磁性体で,2009年にそのスキルミオン格子配列が中性子回折で,そして翌年に個々のスキルミオンが電子顕微鏡で実空間観察されて以来,スキルミオンは多くの関心を集め,その発現理論,材料探索,デバイス機能設計などの研究が進行中である.特に,室温でのスキルミオン観測,材料組成によるスピン渦のサイズや向きの制御,微小電流によるスキルミオンの駆動,マイクロ波整流効果の発見など,新デバイスの実現を期待させる成果も次々と報告され始めている.本稿では,その基礎学理から出発し,最新のスキルミオン研究成果を紹介し,次世代デバイスへの応用の展望を述べる.
液晶は分子配列の方向によって屈折率や誘電率などが大きく異なり,比較的低い電圧で配列方向を大きく変化させることなどの特徴を有しているため,電界や磁界により容易にその配向状態を制御することが可能である.液晶を用いた光学素子は小型,軽量,薄型,低消費電力駆動が可能であることから表示素子に広く用いられているが,最近ではディスプレイ用途以外の液晶の応用が注目されている.本稿では,筆者が取り組んできた液晶を用いた光学素子およびその応用に関する研究成果について紹介する.
ディジタルホログラフィや計算機合成ホログラムなど,コンピュータ上でホログラムを扱う技術を総称してコンピュータホログラフィと呼ぶ.コンピュータホログラフィの応用は多岐にわたるが,本稿では,特に大面積のホログラムを撮影するためのスキャンニング技術とレンズを使用しないホログラフィックプロジェクション技術について紹介する.
カーボンナノチューブ(CNT)薄膜は優れた電気的・光学的・機械的特性に加え,多機能性を兼ね備えたまれな材料である.本稿では,半導体層と電極・配線をCNT薄膜で実現したオールカーボンデバイスについて紹介する.柔軟性と透明性を併せもち,またさまざまな立体形状に加熱成形することもできる.これらの特長を生かすと,透明で存在を感じさせないデバイスや,立体的でデザイン性に富んだデバイスなどの実現につながる.
フーリエ変換分光用4K動作2次元アレイ検出器の開発を目指し,窒化ニオブ(NbN)薄膜を用いたマイクロ波カイネティックインダクタンス検出器(MKIDs)の設計と作製,評価を行った.高Q値マイクロ波共振器と広帯域THzアンテナとしての2つの機能を併せもつDual-Function Spiral Strip(DFSS)を提案し,25(5×5)素子DFSS-MKIDsアレイの設計を行った.NbN薄膜を用いた同アレイの作製と評価を行い,25素子に対応する共振特性と光応答を確認した.
電気鉄道での回生ブレーキは,近くに加速中の列車がないと失効してしまう.蓄電装置があれば,これを有効活用し,一層の高効率化に加え,機械ブレーキの保守低減が可能となる.充放電寿命が長いという特長をもつフライホイール蓄電装置に,超電導コイルと超電導バルク体による超電導磁気軸受を適用すれば,大容量化が期待できる.本提案に基づき,試験装置を製作し,成立性を確認した.
物性評価に最もよく使われる分光測定について,そのコツをやさしく解説します.前半は,市販のダブルビーム分光光度計を用いて半導体の光吸収スペクトルを測定するときに注意すべきこと,および,データ処理のノウハウについて述べます.後半では,光学コンポーネントを実験室レベルで組み合わせて測るスペクトルの例として,フォトルミネセンス測定のコツを紹介します.