陽電子は固体に入射すると電子と対消滅し,主に2本のγ線を放出する.γ線のエネルギー分布と陽電子寿命は消滅相手の電子運動量分布と電子密度により決まる.一方,陽電子はイオン核からクーロン反発力を受けるため,空孔型欠陥ないしは空隙(くうげき)中に局在する傾向がある.空孔中の電子運動量分布や電子密度が格子間位置とは異なることを利用して空孔を検出する.検出可能な欠陥サイズは単一原子空孔程度〜サブnmまでであり,空隙の深さ分布も推定できる.本稿では,陽電子消滅を用いて半導体,金属,絶縁体の空孔型欠陥や空隙を検出した結果を紹介する.
高速イメージングはさまざまなダイナミクスを研究するために最も重要な手法であり,これまでにも多くの現象の発見・解明に貢献してきた.我々は新しい領域を開拓するツールとして,従来のCCD・CMOSイメージセンサとは異なる2種類の新規の高速イメージング技術を開発した.STEAMおよびSTAMPと呼ばれるこれらの手法は,これまでのポンプ・プローブ法のような繰り返し撮影を必要とせず,かつ既存の高速度カメラでは撮影ができない現象を捉えることができる.本稿では,STEAMおよびSTAMPの撮影原理および応用例について紹介し,今後の超高速イメージングに関して議論する.
「可逆計算」では,エントロピー変化が伴わないため,無限小の消費エネルギーで論理演算が可能である.しかしながら,可逆計算をデバイスレベルで実現した研究例はいまだ報告されていない.本稿では,計算とエネルギーを結び付けたLandauerの原理からスタートし,断熱型超伝導論理回路を用いた可逆計算に関する研究成果を報告する.最終的に,本研究で提案したRQFPゲートを用いることにより,可逆計算がデバイスレベルで実現可能であることを示す.
電気抵抗が0であるという画期的な性質をもつ超伝導の唯一の弱点は,液体ヘリウムを用いて極低温までの冷却を必要とすることである.この弱点を克服して広く実社会に受け入れられるためには運転温度を少しでも高めることが望まれる.我々は金属テープ上に各種の超伝導物質膜を形成することで,液体窒素や液体水素冷却で使用可能となる超伝導線材の開発に取り組んでいる.本稿では,それらに関する最近の研究成果を紹介する.
固体高分子形燃料電池PEFCの実用化に伴い,さらなる高耐久化が望まれている.本研究では,現行の導電性触媒担持体であるカーボンブラックに替えて,カーボンナノチューブ(CNT)を用いることで耐久性の向上を達成した.さらに,中温型電解質膜での酸漏出という課題に対し,新たな電解質膜とそれに合わせて設計されたCNT電極触媒を作製し,酸漏出フリーのPEFCを実現した.これによりさらなる耐久性向上が得られた.
量子情報プロセッサの概念の一例を示し,スピン型量子ビット,外部インタフェース用材料としての半導体ナノワイヤとカーボンナノチューブ(CNT)の可能性を述べる.必要な物理効果は,2重結合量子ドットのクーロンブロッケード効果,スピン軌道相互作用を用いて電界でスピンを制御する技術とその物理,人工原子としての量子ビットとマイクロ波回路共振器の量子的相互作用である.それを実現するためのInSb,Ge/Siナノワイヤの利点とプロセス技術を述べる.最後に単層CNTを利用するための分子とナノチューブのヘテロ接合を用いた高次構造作製について紹介する.
光導波路を用いて光子による量子情報処理回路を集積化する研究が盛んに行われている.本稿では,シリコン光導波路を用いた集積量子光回路実現に向けた研究として,シリコンチップ上に実現した超小型,高品質偏波もつれ光子対源,およびシリコンフォトニック結晶によるスローライト導波路を用いた単一光子バッファを紹介し,今後の課題と展望について述べる.
酸化物高温超伝導体は,層状ペロブスカイト結晶構造を有する.その中でもBi2Sr2CaCu2O8+δは,2枚のCuO2面から成る超伝導層間に,SrO-BiO-BiO-SrOの4原子層から成る絶縁層が挟まり,上下の面に配線すればジョセフソン素子として動作する.結晶構造そのものに素子構造が形成されている稀有(けう)の物質である.ジョセフソン素子を金属の超伝導体と酸化物絶縁体とで作製するときには,いかにして制御された接合界面を作るかが問題となる.一方,単結晶そのものがジョセフソン素子であるBi2Sr2CaCu2O8+δの界面は,結晶の並進対称性でその完全性が担保されており,界面が原子層レベルで平滑な理想的なジョセフソン接合を形成している.しかも多数のジョセフソン接合が結晶のc軸方向にアレイを形成している.さらに,高温超伝導体の高い超伝導遷移温度を反映して,超伝導エネルギーギャップが1桁大きいことから,交流ジョセフソン振動数の上限が,金属系の〜1THzに対して,10THzへと広がっている.厚さ1.5µmの結晶には,103の接合が直列し,これらが位相整合して発振すれば,106倍の出力が期待されるため固有ジョセフソン接合は,テラヘルツ周波数領域の新たな光源として期待されている.
Max von LaueとBragg親子がノーベル賞を受賞してから100年めを迎えた2014年は,世界結晶年に制定され,応用物理学会もその協賛学会となってきました.今回は,次の100年に向けて,結晶の完全性や産業的な広がりから結晶の優等生といわれるシリコン結晶を取り上げ,その研究開発を牽引(けんいん)してこられた先生方に,今日の完全な結晶ができるまでの歩みとシリコン結晶が担う将来についてお話を伺いました.
高周波で集積回路を設計するために,回路設計者が回路シミュレーション用デバイスモデルから作らなければならないことがあります.しかし,モデルを作るのに必要となる正確なデバイス評価結果を得ることは,高周波においては容易ではありません.本稿では,ウェーハ上のデバイスの高周波電気測定と,測定結果からほしいデバイスの特性だけを取り出すディエンベディングの2工程で必要となる「針を下ろす」と「配線を測る」を取り上げ,どのようにして高周波で正確な測定結果を導くのかについて紹介します.また,Sパラメータ測定の特異性と測定基準確保の難しさにも触れます.