「学術戦国時代」まさにそう呼ぶにふさわしく,最近,学術講演会や研究会の数が多く感じる方もいらっしゃると思う.研究者間の学術コミュニティとしての学会の存在意義は従来から変わらないが,最近では異分野融合に向けた仕掛けや,若手研究者・初学者に向けた講習会,科学技術のアウトリーチなど,学会の活動は多様化してきている.さらに,近年のICT技術の急激な進化と普及によって,学術講演会の開催形式,予稿集などは大きく変貌を遂げつつある.数多く開催される学術講演会の中で,選ばれる学会となるべく,応用物理学会もこの5年間でいくつもの改革を行ってきた.「昔は,予稿集が第3分冊まであって重かったんだよ」という皆様にも,「予稿PDFのWeb閲覧が当たり前でしょ」という皆様にも,応用物理学会の取り組んできた改革の流れをぜひ眺めてみていただきたい.
現在,北海道大学を中核機関として進めている①過酷事故対応を目指した原子炉用ダイヤモンド半導体デバイス開発,②可搬型エネルギー弁別・位置検出α線計測装置の要素技術開発について解説する.①は福島第一原子力発電所事故以降,非常に厳しい耐放射線・耐熱性能を求められるようになった原子炉格納容器内使用機器に用いるためのダイヤモンド半導体デバイス開発の試みであり,500°Cで安定して動作するダイヤモンドFETの開発に成功し,γ線用ダイヤモンド検出器も300°C以上,5MGy,ダイナミックレンジ7桁の要求性能を満たしつつある.②は環境測定や廃炉作業で必要となる238Pu等核燃料起因のα線放出核種を高γ線・β線バックグラウンド環境下においてその場測定するシンチレータベースの可搬型エネルギー弁別・位置検出α線計測装置の要素技術開発であり,Pu:ラドン子孫核種存在比=1:100の環境において0.37BqのPuを5分以内に識別可能な装置の開発に成功した.両プロジェクトは共に過酷な放射線・高温環境に耐えうる材料開発が基礎となっている.
ダイヤモンドを半導体材料や光学材料として利用するためには大面積かつ高品質なダイヤモンドウェーハ作製技術の確立が必要不可欠である.1995年に青山学院大学犬塚研究室がエピタキシャルIr下地へのダイヤモンドのエピタキシャル成長を発表してから20年,大面積化および高品質化技術は着実に進歩している.本稿では直流プラズマCVD法を用いたIr下地へのエピタキシャル成長技術について,これまでの開発成果および今後の展望について紹介する.
シリコンウェーハのゲッタリング技術は,半導体デバイスプロセスにおける重金属汚染,歩留まり改善のための技術として発展してきた.近年,携帯電話,タブレットなどのユビキタスデバイスへの高感度撮像デバイスの実装が進展している.これらの撮像デバイス特性は,デバイス工程での重金属汚染の影響を強く受けるため重金属の特性およびゲッタリング技術に関する検討が必要である.このため,撮像デバイスにおけるゲッタリング技術の最新トレンドについて概説し,筆者らが取り組んでいるクラスタイオン照射による近接ゲッタリング技術について紹介する.
レーザーディスプレイは,民生用レーザーTV,携帯プロジェクタからはじまり,データプロジェクタ,ヘッドアップディスプレイ,情報表示照明というように次々と製品化された.広い色再現範囲を有していることに加え,超低消費電力,また光源の発光面積も小さく,ディスプレイ装置の超小型化が容易であるという特徴を有する.緑色半導体レーザーの量産化も始まったことで3原色半導体レーザーが揃(そろ)い開発が加速している.本稿では,ディスプレイとの融合が見え始めたレーザー照明を含めたレーザーディスプレイ要素技術および応用,さらには将来展望を含め概観する.
炭素の1次元/2次元構造であるカーボンナノチューブ(CNT)およびグラフェンは,さまざまな興味深い特性を有している.我々は,CNT/グラフェンの光非線形性を利用した短パルス光ファイバレーザーと光非線形デバイスを研究してきた.本稿では,CNT/グラフェン光ファイバデバイスとその短パルス光ファイバレーザー,および光非線形デバイス応用について,最近の我々の研究を紹介する.
テラヘルツ(THz)波は,エレクトロニクスによる電子制御の高周波極限であり,オプティクスやフォトニクスによる光制御の低エネルギー極限でもあるため,未開拓とされてきた.そのため,他周波数帯に比べて光源や検出器という基本的な素子が発展途上である.また,THz波の波長は可視光に比べて2,3桁長いことから,イメージングの空間分解能が低いという課題がある.本稿では,カーボンナノチューブ(CNT)アレイ,グラフェン,半導体ヘテロ界面2次元電子ガスという低次元電子系の機能を利用した,新しいTHz波検出・分光・撮像技術について紹介する.
太陽光発電システムは,メガソーラーや住宅用で急速に普及が拡大している.長期間にわたる発電量の維持・向上や発電コスト低減のために,太陽電池モジュールの長期信頼性や寿命がますます重要となっている.本稿では,結晶Si太陽電池モジュールの屋内環境試験による高温・高湿条件下での劣化,ならびに高電圧誘起の劣化(PID現象)について,それぞれの劣化メカニズムと対策技術を紹介する.
走査型トンネル顕微鏡法と原子間力顕微鏡法を例に,走査型プローブ顕微鏡の観察におけるコツを紹介します.制御パラメータの最適化をする際のノウハウや,試料をセットする際に注意すべきこと,測定結果の解釈をする際に注意すべきことを述べます.