グラフェンや2次元遷移金属カルコゲナイドに代表される2次元ナノ材料は,その物性の理解が進み,さまざまな分野での応用が期待される.中でも,バイオセンサなどへのバイオ応用に向けた期待は高く,生体分子と2次元ナノ材料の界面に関する理解は,その重要性を増している.本稿では,2次元ナノ材料表面で規則正しく自己組織化構造を形成するペプチドを用いた,生体分子・ナノ材料の界面制御に関する最近の研究進展について解説する.
基板上に高密度に垂直配向成長したカーボンナノチューブ(CNT)では,蚕の繭(まゆ)から絹を紡ぎ出すのと同じように,CNT連結体がつるつると紡ぎ出される乾式紡績現象が発現する.CNTが自己組織化的に一方向に配列するため,紡ぎ出された糸やシートなどのCNTアセンブリには,CNTの優れた電気伝導特性,熱伝導特性および力学特性が現れる.近年,この乾式CNT紡績技術が,CNTならではの新しい応用技術を生みだす革新技術として注目されている.本稿では,CNTの乾式紡績現象とCNTアセンブリ材料およびその応用技術について解説する.
ドレスト光子は,ナノ寸法の空間において励起子エネルギーの衣をまとった光子である.本稿ではその発生の原理,性質をオフシェル領域に発生する量子場の観点から紹介する.応用例として,シリコン結晶を材料とする発光ダイオード,レーザーを紹介し,これらのデバイスが発する光は光子ブリーディングと呼ばれる性質を示すことを指摘する.今後の発展のため,量子場のミクロ・マクロ双対性,複雑系の理論研究を紹介し,研究開発を展望する.
発明当初,光周波数計測を主な応用としていた光周波数コム(光コム)は,近年その応用範囲を大きく広げている.中でも2台の光コムを用いるデュアルコム分光法は,高い周波数分解能と精度,広い測定帯域,そして短い測定時間という特長をこれまでにない高度なバランスで併せもつ分光法である.本稿では,光コムおよびデュアルコム分光の原理を説明し,我々が開発した,極めて広い測定帯域と高い分解能をもつデュアルコム分光計を紹介する.
恒星から来る光のスペクトルのドップラーシフトの測定によって地球型の系外惑星を発見するには,光周波数に対して10-9の分光精度が求められる.そこで,分光器のスペクトル基準となるレーザー周波数コム光源の開発を行った.12.5GHz間隔で1040〜1750nmの帯域,6日間連続測定での周波数変動0.2MHz以下のコム光源の開発に成功した.また,コム光を分光器に導入するために,スペクトル平坦(へいたん)化,非偏光化,モード雑音の除去などの光処理系を開発した.さらに,このコム発生技術を発展させた可変波長コム光源の状況についても報告する.
有機半導体内にキャリヤを蓄積すると,その光透過(反射)率はごくわずかに変化する.本稿では,イメージセンサによりこのような微小変化を捉え,動作する有機薄膜トランジスタ(TFT)アレイの性能分布をイメージ化し高速・一括に評価する,ゲート変調イメージング法について解説する.印刷技術を用いたデバイス製造技術(プリンテッドエレクトロニクス技術)への応用に向けて,多数の有機TFTで構成されたアクティブバックプレーンの性能分布を非破壊・高速・一括評価した実証実験を紹介する.
本稿では,熱電変換材料の性能を評価するために必要なゼーベック係数,抵抗率,熱伝導率の測定において,特に気をつけなければならない測定上の注意点について,筆者が実験を通して得たコツを含めて述べます.熱電材料だからこそ,金属や一般的な半導体とは異なる注意点があり,測定には熱と電気の両方が絡んでくるため,電気的測定だけではなく,熱的測定におけるコツも必要となります.そのために熱電変換の基礎を理解することでよりよい測定ができるように紹介します.また,熱電変換材料の応用を考えたときには性能指数ではなく,もっとわかりやすい最大出力を測る必要がありますので紹介します.