「日本の半導体産業が凋落(ちょうらく)しつつあるのは,「先送り」してきたことが原因です.日本が完全にリードしていた液晶ディスプレイやDRAMが競争力を失っていったのは,問題の先送りが理由だと思います.我々,応用物理学会は「先送り」しないことで,会員と世界に応用物理学で貢献していきたいのです」.
これまで講演会企画運営委員長,副会長として,そして現在,会長としてさまざまな改革を続けてきた河田聡会長にお話を聞きました.
1845年にM. Faradayが着想した「光で物質を磁石にする」という夢はレーザーの発明により実現したが,さらに超短パルスレーザーの出現は,超高速かつ自在なスピン制御という新たな夢をもたらした.本稿ではファラデー効果と逆ファラデー効果,コットン・ムートン効果と逆コットン・ムートン効果を対比して説明する.逆ファラデー効果と逆コットン・ムートン効果を用いて,偏光の3つの自由度をフルに活用した磁化の3次元ベクトル制御について述べる.今後は偏光,周波数,パルス幅,空間形状などの特性を制御された光を用いることで,さらに自在なスピン制御が可能になるだろう.
原子炉内などの高放射線環境下での撮像が求められている.真空管である撮像管は半導体撮像デバイスより耐放射線特性に優れている.しかし,従来の撮像管には熱陰極が使われているため,小型・軽量・低消費電力化が困難である.近年,微細加工技術を用いて,冷陰極である電界放出微小電子源アレイ(FEA)の開発が行われている.熱陰極の代わりにFEAを用いると,撮像管の長所を保ちながら,その欠点を克服したFEA平面撮像管を開発できる.本稿では,FEA平面撮像管の研究動向を紹介するとともに,平面撮像管用の電界集束電界放出微小電子源の動向についても紹介する.
半導体中の不純物や,触媒中の活性原子のように,特定の元素やその周辺の局所構造がその物質全体の性質を支配することがしばしばある.このような箇所の3D原子配列観測は周期性をもたないため従来の分析では不可能であったが,最近,日本において光電子や蛍光X線のホログラフィを用いて3次元的にイメージングする技術が発展してきた.これらの解析から機能制御に結び付く技術が開発されれば,広く新材料・新機能の創成につながると期待される.このような科学を切り開くために,新学術領域研究「3D活性サイト科学」が発足した.本稿を参考に,多くの方々に関心をもっていただき,共同研究が広がることも期待している.
フレキシブル有機デバイスにとって,外部から侵入する水蒸気は深刻な劣化要因となる.デバイス寿命を確保するためには,高いバリア性を有する封止(ふうし)技術,特にハイバリアフィルムの開発が重要である.しかし,水蒸気バリア性評価の信頼性には課題があり,バリアフィルムの性能評価が困難な状況である.本稿では,国際標準となりうるバリア性評価技術を確立するため,国際単位系(SI)にトレーサブルな装置を用いて評価技術の妥当性を検証した.
自動車のエンジンが吸入する空気には水分(水蒸気)が含まれているが,この吸入空気中の水分量の変化に合わせて,エンジンや排気ガス後処理システムを制御できれば,燃費の向上や汚染物質の発生量の低減につながると考えられる.従来からこのような考えはあったが,適切な湿度センサがなかったため,実際にはそのような制御は行われてこなかった.しかし,近年になって,高性能なMEMS湿度センサの開発が活発化したことや,市場の低燃費志向と各種排ガス規制が強化されてきたことから,そのような制御が行われるようになり,湿度センサを吸気系に搭載した自動車が高級車を中心に増えてきている.本稿では,湿度計測を取り入れた最近のエンジン制御技術の動向について紹介する.
等方的な光学特性をもつメタマテリアルを実現するには,立体的な構造をもつ3次元メタマテリアルを作ることが必須である.このような3次元メタマテリアルを大面積に高速に加工する手法として,我々は電子線リソグラフィ法と金属薄膜の残留応力を利用した自己組織化法を組み合わせた加工技術を開発した.そして,試作したメタマテリアルが,30THzの周波数において0.35という実効屈折率を等方的に示すことを実験で確認した.
再生可能エネルギーを最大限に生かすためには,発電所や変電所など基幹電力系統網に対応した,直流送電技術を含むインテリジェント化(スマートグリッド)が究極の目標となり,100kV級のデバイスが必須となる.本稿では,1つの半導体素子では困難なこの分野に挑む,真空とダイヤモンド半導体ならではのユニークな物性を組み合わせた超高耐圧半導体真空スイッチの研究を紹介する.
真空技術とは気体を扱う技術であることを説明し,気体分子の運動について簡単に解説します.それから,代表的な真空ポンプ(油回転ポンプ,ターボ分子ポンプ,クライオポンプ)について,動作原理と使用上注意すべきことを述べます.