我々が生活している地上の重力下で,宇宙船内と同様に溶けた半導体や金属を水滴のように丸くすることができるだろうか?
高温で溶けた結晶材料,るつぼ,およびそれを取り囲む空間から水分や酸化物をなくすことで多くの材料融液が表面張力に支配され,少量では球状になる.この状態を融液が溌液化したといい,このような環境下ではるつぼと融液は濡れ性がなくなり,化学反応のない不活性な状態にある.筆者は溌液化を利用したブリッジマン法(VB法),つまり「溌液結晶化法」を用いて酸化物を除く多種の高品質単結晶を作製してきた.この技術はシリコン(Si)やその他のバルク単結晶作製が抱えている長年の課題を解決できる可能性を秘めている.本稿では溌液結晶化法が生まれた背景と手法,得られた単結晶による基礎研究,実用化開発での成果および本技術のSiへの適用と今後の展望について述べる.
SiCの材料物性は,Siに対して約3倍のバンドギャップ,約10倍の絶縁破壊電界強度,約3倍の熱伝導率を有している.SiCを用いる半導体素子は,Si半導体素子と比較して高耐圧化,低損失化,高温動作化に向いており,パワーデバイス用途として優れた特性をもっているため研究開発が進められてきた.本稿では近年活発になってきたSiCパワーデバイスの実用展開について紹介する.
カーボンナノチューブ(CNT)やグラフェンといったナノカーボン材料は,電界効果トランジスタといった従来からの電子デバイス研究に加えて,発光・受光素子などの光・電子デバイス材料としても近年注目されている.本稿では,ナノカーボン材料を用いた発光素子として,黒体放射発光素子とエレクトロルミネセンス(EL)発光素子について紹介し,それらの発光原理・特性制御や,シリコンチップ上での高速・高集積発光素子への応用について展望を述べる.
クリーンで無尽蔵な太陽エネルギー利用の選択肢として,光子を直接,化学エネルギーに変換・蓄積する人工光合成技術がある.本稿では,人工光合成の意義について経済合理性の立場から説明するとともに,当研究室で注力しているレドックス媒体を用いた光触媒反応による水素製造,および多孔質酸化物光電極による水素と有用化学品の同時製造について紹介する.
精密加工というと,通常,切削,研削を行う大型の工作機械を思い浮かべるであろう.しかしながら,精密加工でも1nmレベルになると機械加工に代わり,イオンビーム,プラズマ,電気化学反応など,さまざまな物理化学現象が利用されている.本稿では,筆者が開発してきた,ナノ精度で表面を作製するための加工,計測,転写技術を説明し,その応用であるX線集光用回転楕円ミラーについて紹介する.
LEDは液晶のバックライトや照明などの用途のため,今や数多くの品種が普及しています.しかし,アプリケーションにLEDを用いる場合や,LEDの性能をさらに向上するためには,LED特性の正確な把握が必要とされており,その理屈も踏まえ,測定に関していくつか注意すべき点があることも確かです.本稿では,LEDの光学評価を始めてまだ日の浅い方や初めて行う方を対象として,正確なLED特性を得るためのポイントについて解説します.