光吸収に伴う熱弾性過程により音響波が発生することを利用した光音響イメージングは光イメージング,超音波イメージングの利点を活用することで従来では到達できなかった「深部を可視化できる技術」である.加えて,「ラベルフリーイメージング」と,「鮮鋭な画像(深部でも空間分解能が低下しにくい)」という特長がある.基本原理,技術的な特徴と,幅広く研究されている応用について,最新の研究動向を中心に解説する.
超伝導効果で半導体における発光プロセスを変化させる試みについて紹介する.特に量子ドットを用いると,発光スペクトルに超伝導効果による状態密度の変化が反映され,より詳しい光物性が明らかとなる.超伝導におけるクーパー対の量子もつれ,クーパー対の変換から生成する光子対の量子もつれと量子情報通信への展開についても紹介する.
従来,無機材料開発は酸化物,フッ化物,窒化物など単一のアニオンを含む化合物を中心に行われてきたが,近年,同一化合物中に複数のアニオンを含む化合物が,新物質の豊富さや多彩な物性を示すことから注目を浴びている.中でもそれぞれのアニオンが異なるサイトを占める“複合アニオン化合物”は,特異的な結晶構造や配位状態をもつ新物質が合成可能である.本稿では,複合アニオン化合物の物質設計と鉄系超伝導体における物質探索研究を中心に,物質開発の現状と今後の展望について述べる.
強誘電体薄膜が有する優れた圧電性を利用した圧電MEMSの研究開発が注目されている.約10年前にインクジェットヘッドやジャイロセンサとしてPZT圧電薄膜の応用デバイスが実用化されて以降,その優れた電気機械変換効率を利用した多様な機能性マイクロデバイスが提案・研究されており,その応用の拡大が期待されている.本稿では,圧電薄膜のMEMS応用に関する基本的な技術とその特徴,また圧電MEMS技術開発の現状と今後予想される展開について紹介する.
室温よりもはるかに高い磁気転移温度をもつ新しい電気伝導性フェリ磁性体,A-Bサイト秩序型ペロブスカイト構造酸化物CaCu3Fe2Re2O12を高圧法により合成した.この物質は,伝導電子のスピンが一方向に揃(そろ)ったハーフメタルであることが電子状態計算から示唆され,実際にスピンに依存した抵抗変化が観測される.このような高い転移温度をもつハーフメタル酸化物は,将来のスピントロニクスを支える材料になる可能性を秘めている.合成した新物質の結晶構造,磁気構造,電子状態と磁気輸送特性を示すとともに,高い磁気転移温度と大きな磁化がペロブスカイト構造でのカチオン秩序配列により磁性イオン間の相互作用を制御した固体化学的物質設計に基づくものであることを紹介する.
ダイヤモンドは,次世代パワーデバイス材料として実用化が始まりつつあるSiCやGaNを超える材料ポテンシャルを有し,次々世代パワーデバイスへの応用が期待される.高い絶縁破壊電界強度から予測される超低損失化だけでなく,高い電流密度耐性や高温での安定性により超高電圧領域への応用も期待できる.我々は,ダイヤモンドの材料ポテンシャル検証と,高耐圧デバイスに向けた可能性検討の一環としてpinダイオードを試作し逆方向耐圧に着目して特性を調べてきた.これまでに降伏電界として3.6MV/cm,降伏電圧としてダイヤモンドpinダイオードで最高の11.5kVを得た.本稿では,これらの結果とともに,繰り返しの降伏に対する耐性や熱に対する安定性パワーデバイスとして有利な特性がデバイス構造で得られた結果について紹介する.
これまで発光材料は発光測定で評価するのが当然とされてきた.その重要性は間違いないが,実用に耐える発光効率を目指すには,すでにうまくいっている光った過程の詳細を調べるよりも,むしろ「光らなかった」過程を特定して最小化するほうが理にかなっている.本稿では「光らなかった」過程,すなわち供給したエネルギーの散逸や損失を測定する手法を2通り紹介する.1つめは「光らなかった」過程を電気的に直接検出する方法,2つめは「光らなかった」過程を光った過程に転化して間接検出する方法である.特に「光らなかった」過程のダイナミクスは,原因特定や光った過程との競合を知る時定数の評価に役立つ.