近年,イオン伝導体とのヘテロ界面付近において,局所的なイオン移動によって生じる物理的あるいは化学的作用に起因した興味深いナノイオニクス現象が見いだされ,それにより得られる新しい機能を利用したナノイオニクスデバイスが提案されている.例えば,原子スイッチ,脳型デバイス,全固体型電気2重層トランジスタ,オンデマンド型多機能デバイス,転移温度の制御が可能な超伝導デバイスなど,従来の半導体デバイスでは得られなかったユニークな機能を有するデバイスが挙げられる.本稿では,次世代の情報通信デバイスの開発研究において,従来のエレクトロニクス分野だけでなく,固体イオニクス分野においても興味深い成果が得られていることを紹介する.
発見から30年を迎える銅酸化物高温超伝導体について,線材開発の歩みを振り返るとともに,先進長尺線材を用いたパワー応用の進展について紹介する.セラミックスである高温超伝導体の線材化は,金属との複合化による可撓(かとう)性の付与やkm級の長尺にわたる組成・配向性の制御,さらにナノサイズの欠陥を人為的に導入・制御するなど,プロセス技術の数々のブレークスルーとともに,マルチスケールにわたる電磁現象を解明しプロセス条件へのフィードバックを可能とする評価技術の開発を経て実現してきた.また,長尺線材の商用生産開始によって,省エネルギー,軽量・コンパクト,高出力を特徴とする各種超伝導電力機器や超高磁界マグネットなどパワー応用への展開が国内外で加速している.
核融合エネルギーの実現に向けた研究は大きく進展しており,現在,重水素と三重水素の核燃焼を目指したトカマク方式の国際熱核融合実験炉(ITER)の建設が国際共同研究としてフランスで進められている.また,核融合科学研究所で稼働しているヘリカル方式の大型ヘリカル装置(LHD)では,最近,高温高密度プラズマが生成できるようになったことから,この方式もITERの成果を踏まえて建設される,発電を実証するための原型炉の選択肢の1つとして考えられ始めている.本稿では,これらの磁場閉じ込め方式について解説し,LHDで予定されている重水素を用いた実験や,磁場閉じ込め方式の原型炉実現へ向けた展望などを議論する.
ラゲール・ガウスモードは円筒座標系における近軸波動方程式の固有解である.ラゲール・ガウスモードに代表される,ビーム断面中心に位相特異点をもつ光波は「光渦(ひかりうず)」と呼ばれる.光渦は波面が螺旋(らせん)構造をとり,よく定義された軌道角運動量を有することから注目されている.本稿では「光渦とは何か」ということをはじめ,その一般的な生成法をまず紹介し,続いて最近,我々が行っている超短光渦パルス生成ならびにその特性の高精度測定,さらに光渦を用いたレーザー加工,非線型分光への応用に関して概説する.
放射線検出器は放射線を紫外〜可視光にエネルギー変換する“シンチレータ”と,その光子を電気信号に変換する“受光素子”と回路から成っている.非破壊検査装置の性能はこの放射線検出器の性能に大きく依存するため,主要構成要素であるシンチレータの高性能化は非常に重要である.実用化可能な特性をもつ優れたシンチレータを世に送り出すには,①全く新しい材料を開発する,②既存のシンチレータの特性を向上させる,③透明なバルク体を作るのは難しいが優れた特性を有するシンチレータのバルク結晶作製技術を開発する,の3通りのアプローチがある.本稿では新規高性能シンチレータ結晶の開発指針について,最近話題となっている母材の元素置換による特性制御,共添加による特性向上,難易度の高いバルク結晶作製技術の開発などを中心に具体例を挙げて説明する.
半導体レーザー(LD)の高性能化に伴い,LD励起全固体レーザーの大出力化が進展している.従来スループットや電力からレーザーへの変換効率が壁となって実用化が進まなかったが,現在,産業用材料加工から究極のエネルギーを生みだす慣性核融合炉用ドライバまで幅広い応用への道が開きつつある.パワーレーザーが全固体化され超高強度・超短パルスが高繰り返しかつ高効率に利用できるようになれば,高エネルギー密度プラズマや量子ビーム発生という革新的な科学技術分野から新産業が次々と生まれる可能性がある.本稿では筆者らが取り組んでいるパワーレーザーと応用開拓に関する研究開発について紹介する.
トポロジカル絶縁体と普通の絶縁体との間には,物質中の電子がもつ位相幾何学的な性質のためにディラックコーンと呼ばれる特殊な金属的電子状態が現れ,ディラック電子が伝導を担うことが知られている.一方,トポロジカル絶縁体に「金属」を接合した場合のディラック電子への影響は,電子回路や素子構造を作製するうえで不可欠な情報であるものの,これまで未解明であった.本稿では,トポロジカル絶縁体上にビスマス超薄膜をエピタキシャル成長させ,その電子状態をスピンおよび角度分解光電子分光を用いて直接決定して,実空間においてトポロジカル状態が移動する「トポロジカル近接効果」と呼ばれる新たな現象を見いだした研究を紹介する.
チャージポンピング(CP)法を用いて,単一のMOS界面トラップを個別に検出して評価する手法を考案し,全く新しい視点でトラップ物理の解明を進めた.従来のCP理論の根幹であるトラップ1個当たりの最大CP電流ICPMAX=fq(fはゲートパルス周波数,qは電子電荷)は誤りであり,0〜2fqのさまざまな値をとることを実証した.この結果は,界面トラップの正体がPbセンタであることを支持しており,さまざまなICPMAXを示す原因がトラップ準位対の形態の違いにあることを実証した.また,単一トラップのエネルギー準位密度分布(DOS)を導出し,Pb0センタのDOSと酷似していることを示すとともに,界面トラップのDOSはU字型とする定説に疑問を呈した.
他周波数帯に比べてこれまで未成熟であったテラヘルツ(THz)領域においても,分光測定の有用性が認識されるようになってきました.しかしながら,今まで活用されてこなかった電磁波であるだけに,ユーザの増加に比べて,試料の準備や測定のしかたに関するコツが十分浸透していないのが現状です.本稿では,THz分光に興味をおもちの方や,初めて取り組む方を主な対象として,正確な分光スペクトルを得るためのポイントについて解説します.