有機金属ハライドペロブスカイト太陽電池は,次世代の革新的低製造コスト太陽電池の1つとして,世界中で大きな期待を集めている.2016年3月現在,変換効率はNRELチャートで22%を超え,論文では20.8%が報告されており,ここ数年で著しく性能を上げてきた.有機系太陽電池が,その性能において無機系太陽電池に遠く及ばなかった時代を思い返すと,隔世の感がある.有機金属ハライドペロブスカイト太陽電池には,大きく分けていわゆる「ナノ構造型」「平面ヘテロ接合型」「逆構造型」の3種がある.また,元素組成やバリヤ層の材料などで,さまざまな特徴をもつものが報告されている.製造方法についても「1ステップ法」「2ステップ法」「アンチソルベント法」などが知られており,日々進化し続けている.一方,いわゆる「ヒステリシス」の問題や耐久性などの課題もあるが,最近,1cm2でも18%を超えて再現性の得られるセルも作製されており,非常に大きな将来性を秘めている.本稿では,このような有機金属ハライドペロブスカイト太陽電池の現状と展望について報告する.
超伝導に転移する温度が液体窒素の沸点77Kを超える高温超伝導体が1987年に発見されて以来,超伝導の応用分野は飛躍的に拡大することが期待されてきた.しかし,多元素から成ることに加え,高温での結晶成長を必要とする酸化物であることから,薄膜や回路などの製作プロセスの開発に長い年月を要した.資源探査現場での超伝導量子干渉素子SQUIDの応用には,耐磁場性能に優れていることが必要である.本稿では,SQUIDとはどのような特徴をもち,感度と耐磁場性能向上のためにどのような工夫をしてきたかを紹介する.現在この磁気センサは,地上から地下1000mに達する金属資源探査装置として実用化されている.また最近では,この技術をさらに発展させ,二酸化炭素圧入による石油増進回収技術CO2-EORのモニタリングシステムとして,地下3000mに投入可能なSQUIDシステムの開発が進められており,その応用についても紹介する.
タンパク質の複素誘電率測定を,サブGHz〜テラヘルツ(THz)帯にわたる広帯域において行い,タンパク質のダイナミクスに及ぼす水和と熱活性の効果について調べた.特に,THz帯のスペクトル強度が,脱水和状態の場合は温度に対して単調に増加するが,水和試料については200K付近より高温で温度変化の傾きが大きくなる,動力学転移様の現象を示すことを観測し,その分子論的な描像を明らかにすることができた.すなわち,温度上昇に伴い,水和水に由来する緩和成分のスペクトルがGHz帯からブルーシフトし,200K付近からTHz帯に侵入するために,動力学転移様の現象が引き起こされたことがわかった.
共蒸発分子誘起結晶化法は,真空蒸着中に液体を導入することで有機混合膜の結晶化を促進する手法であり,有機薄膜太陽電池への応用を意図して考案した.しかし,研究を進めるうちに,この手法は有機混合膜結晶化に限らない真空蒸着法の本質的な拡張法であることが明らかになってきた.例えばこの手法は,従来法では不可能であったC60単独成分膜の粒径のnm〜µmオーダの連続的な制御を可能にすることがわかっている.本稿では,このような共蒸発分子誘起結晶化法による有機薄膜成長の特徴とその応用について紹介する.
液晶エラストマ(LCE)は,ゴムの柔軟性をもつ液晶性の固体材料である.LCEおよび溶媒で膨潤した液晶ゲルは,液晶配向を変化させる外場(温度変化や電場など)に応答して大きなマクロ変形を示し,変形様式を配向パターンで制御できるユニークな刺激応答材料である.多様な刺激応答特性をもつLCEや液晶ゲルは,ソフトアクチュエータの素材やゴム状光学素子として期待されている.ここでは,配向制御されたLCEや液晶ゲルの熱や電場に対する応答挙動を紹介する.
物理現象で熱を扱う際に最初に習うのが「比熱」の概念ですが,熱拡散率となると,その定義や物理的意味の理解は,専門家を除いて,あまり一般的ではありません.測定にあたっては,さまざまな測定法(しかも原則として非定常法)が存在するため,どのような測定法を選択するかさえ判断を迫られることになり,これが状況を複雑にしています.加えて,伝熱学では熱伝達,熱抵抗という概念があり,最新の科学では熱伝導におけるスケールファクタやフォノンモードが論じられるとなると,実感としての熱伝導を理解する前に頭を抱えてしまう方も多いことと思います.本稿では,物性としての熱拡散率と比熱について,測定法や実験条件の選択を含めて理解するときの考え方を,線形応答理論と熱拡散長,および時定数の観点から解説したいと思います.