電気化学的手法と分光学的手法を組み合わせたその場ラマン分光法は電気化学の学問に大きな知見をもたらす.特に,近年発展が著しい電気化学エネルギー変換デバイスであるリチウム(Li)2次電池,燃料電池の電極反応解析は,産業に直結した戦略的な学問領域であり,高性能化,長寿命化,低コスト化につながる非常に重要な学問領域である.本稿では,電気化学エネルギー変換デバイスであるLi 2次電池正極界面におけるその場ラマン分光法について測定例を交えながら電気化学界面のラマン分光学的側面を解説する.
半導体デバイス製造に用いられるドライエッチング技術の最前線について概説する.トランジスタのゲート電極(Si)やコンタクトホール(SiO2)加工などの高い精度が求められる加工プロセスでは,プラズマ中の電子密度やガスの解離状態,入射イオンのエネルギー分布,表面に形成されるポリマーや反応層の厚さの把握などが求められる.また,ダメージなどの「見えない」反応やその変動要因を含め,原子レベルで理解し,定量的なモデル化と予測技術開発を進展させていくことが今後の課題である.
我々は,ポアンカレ球で表現される単一光子の偏光状態と,高い電気制御性を有する量子ドット中の単一電子スピンのブロッホ球状態の間でコヒーレントに変換する「ポアンカレインタフェース」を創製すること,そして量子情報通信を中心とした偏光の新しい利活用に基づく次世代フォトニクスへの応用を目指している.本稿では,その基盤技術となる単一光子が量子ドット中に生成する単一電子スピンの検出と角運動量の変換について紹介し,高効率変換など今後の展望を議論する.
有機発光素子・有機太陽電池などの有機多層膜で構成される有機デバイスでは,電子構造の異なる有機半導体の界面(有機ヘテロ界面)が機能発現に重要な役割を果たす.そのため,有機ヘテロ界面における有機半導体の電子準位エネルギーの変遷(電子準位接続)が光電子分光で広く調べられ,その機構が議論されてきた.本稿では,まず有機ヘテロ界面の電子構造に共通する特徴と,これまでに提案されている電子準位接続のモデルについて述べる.さらに,光電子分光と静電ポテンシャルモデルを併用することで明らかになりつつある,有機ヘテロ界面の電子準位接続に影響を与える諸要因について,最近の筆者の研究も交えながら紹介する.
電気の有効利用に加え,熱や未利用エネルギーも含めたエネルギーを地域単位で統合的に管理し,交通システム,市民のライフスタイルの転換などを複合的に組み合わせたスマートコミュニティという概念は,ここ数年の間に各分野での技術開発や実証を経て大きく発展し,現在は実装の段階に移行してきている.各種ソリューションの中で先行しているのは,特定の地域や施設内でのエネルギー管理の最適化や,それらを広範囲にわたって統合し管理する広域エネルギー管理ソリューションであり,交通システムの高度化なども発展著しい.本稿では,最近の代表的な取り組み事例を紹介し今後について展望する.
低炭素社会と脱原発の実現に向けて再生可能エネルギーの普及が最重要課題となっている.特に太陽光・風力発電の大規模導入を行うためにはスマートグリッドの負荷変動平滑化に供する大容量・高出力型の蓄電システムが必要である.また経済性向上の観点からは安価かつ資源的制約のないレアメタルフリーな部材から安全性の高い蓄電システムを構築しなければならない.本稿では,これらの課題に対して有機レドックス分子と水系電解質を用いたプロトン型スーパーキャパシタの研究例を報告する.キャリヤイオンとしてプロトンを,電極・電解質材料としてわずか5つの軽元素,すなわち水素,炭素,酸素,硫黄,塩素だけを用いたセルで鉛電池に匹敵する蓄電エネルギー密度と良好な充放電サイクル特性を有した実用的蓄電デバイスを実証した.
大気圧低温プラズマ技術の医用展開は多岐にわたり,がん細胞の増殖制御,血液凝固による新しい止血デバイス,糖尿病性潰瘍の治療において,作用メカニズムの研究と装置開発が並行して行われ,将来有望な成果が報告されつつある.我々は,プラズマによる血液凝固現象を包括的に解析し,作用メカニズムに基づいた装置設計を行うことで,低侵襲手術の実現に寄与する新しい止血装置を開発している.本稿の前半では,低温プラズマ凝固装置を取り巻く環境から,装置開発の意義や方向性を紹介し,後半では,我々の研究成果を基に,プラズマによる血液凝固の技術を概説する.
拡散係数は物質の輸送に関わる基本的物性値の1つですが,これまで応用物理の分野ではそれほど重要視されてきませんでした.本稿では拡散現象の基本から,拡散係数測定の一般的ノウハウ,そして最新の測定方法などについて,異分野の方にも興味をもっていただけるよう概説します.