今,量子コンピュータが熱い.つい最近まで基礎科学と思われた研究分野に,いつのまにか民間の資金が投入され,さまざまなエンジニアを巻き込んだ開発が急速に進んでいる.カナダのベンチャー企業D-Wave Systems社が,超伝導デバイスによる量子アニーラを開発し,Lockheed Martin社やNASA-Google社のコンソーシアムへ販売したことはよく知られているし,D-Wave社以外のベンチャー企業も次々出現している.さらに,米国ではGoogle,IBM,Intel,MicrosoftといったIT,半導体産業のメジャー各社が量子コンピュータ開発に本腰を入れ始めた.本稿では,量子コンピュータの究極の目標である万能ディジタル量子コンピュータ研究を主題としてその現状を概観し,将来を展望する.
連続セラミックス繊維をセラミックスマトリクスと複合化したセラミックス基複合材料(CMC)の力学特性の特徴を説明し,セラミックス単体との差異を明らかにし,CMCのもつ利点を説明する.次いで,工業的に用いられているCMCの現状を概説する.特に,SiC繊維強化SiCマトリクス複合材料(SiC/SiC)の応用分野について,用いられる理由や代表的な特性を説明する.
金属イオンと有機配位子の自己集合から生成し,規則的な細孔を有する金属有機構造体(MOFs)が,活性炭やゼオライトに次ぐ新しい多孔性材料として注目され,近年大きな研究領域を形成している.金属イオンと有機配位子の組み合わせの自由度により,これまでに数多くのMOFが合成されているものの,得られたMOFが必ずしも分子を吸着する機能を有するわけではない.本研究では,バルク(結晶サイズが大きい)状態では分子の吸着能を全く示さないMOFが,ナノメートルサイズの結晶性薄膜になるとゲートが開くような構造変化を伴って分子を取り込むようになるという現象を発見した.
金属と配位子が周期的に結合し多孔質構造を形成する多孔性配位高分子は,吸着・吸蔵材料,触媒,電気化学電極など,多様な用途で注目されている.中でもプルシアンブルー(PB)型錯体は顔料,放射性セシウム吸着材としての活用に加え,アンモニア吸着材,2次電池電極,エレクトロクロミック素子電極など,多様な開発が進んでいる.PB型錯体の1つの特徴に,金属置換,組成制御による結晶構造制御などが可能であり,用途ごとに必要な機能を結晶構造設計により実現できることが挙げられる.我々はこの結晶構造設計とともに,ナノ粒子化と,マイクロメートルスケールでの多孔質化などの組み合わせといった,マルチスケールで構造設計を行い,用途ごとの機能向上を進めている.本稿では,これらの構造設計技術とともに,放射性セシウム吸着材,アンモニア吸着材,エレクトロクロミック素子などの用途ごとの構造最適化の実例を紹介する.
プラズマの環境応用として水処理に用いられる「気液界面プラズマ」では,プラズマ中に蒸発した水蒸気から,有機物を分解する活性種が生成される.一方,プラズマの電力応用例である「ハイブリッド直流遮断器」では,電気接点開極時にアーク放電プラズマが形成されることで,並列接続した半導体素子に事故電流を転流させ遮断する.このプラズマは接点の溶融・蒸発を経て形成されるため,気液界面プラズマとは逆の過程といえる.本稿では,気液界面プラズマを用いた水処理技術とハイブリッド直流遮断器について,プラズマと液体の関係に着目して紹介する.
グラフェンのケイ素版といえるケイ素の蜂の巣格子であるシリセンは,1994年の論文1)でその存在が理論的に予言されていたものの,実験的な合成報告があったのは最近である.黒鉛からの機械的剥離により得られるグラフェンと異なり,炭素と同じ14族元素の蜂の巣格子であるシリセンやゲルマネン,スタネンなどは母材となる層状物質が存在しないため,実験的な合成報告は単結晶基板上へのエピタキシャル成長によるものがほとんどであり,結晶構造と電子状態への基板の影響が無視できない.加えて,同定の決め手となる評価方法が存在せず,複数の相補的な分析法を併用する必要があり,なおかつ,得られた実験結果,特に電子状態の解釈を行うには,第一原理電子状態計算が不可欠であるなど,1つの研究室ではなかなか歯が立たない.本稿では,シリセンのような未知の2次元材料の研究を行うにあたって,実験と計算の協奏(競争?)がいかに重要であるかを,我々のこれまでの共同研究の成果を交えて論じてみたい.
材料物性を精度よく解析・予測できる第一原理計算は材料研究の重要な手法の1つです.計算プログラムを利用して第一原理計算を実施する際の一助として,基礎となる密度汎関数理論(DFT),数値計算の計算精度などについて解析事例を用いて紹介します.