異種材料による高効率多接合太陽電池の作製法として,新たに開発したスマートスタック技術について解説する.スマートスタック技術は,パラジウム(Pd)ナノ粒子配列を接合面に配置し,トップセルとボトムセルを電気的・光学的に損失を抑え,半導体接合する技術である.Pdナノ粒子は,スピンコートによる自己組織化を利用した低コスト手法で作製でき,さまざまな種類の太陽電池を自在に接合することが可能である.本稿では,GaAs系とInP系を接合した4接合太陽電池,III-V族とCuInGaSe,Siをそれぞれ接合した3接合太陽電池の特性について紹介する.また,スマートスタック太陽電池の温度に対する耐久性について述べる.接合メカニズムとしてPdとGaAsを接合した場合に生じる反応について,これまでに得られた知見を解説する.スマートスタック技術は,次世代の低コスト・超高効率多接合太陽電池作製のキーテクノロジーとして,大いに期待される技術である.
ダイヤモンドライクカーボン(DLC)と呼ばれるアモルファスカーボン薄膜やその関連材料は,優れた耐久性や安価な生産性などによって多様な産業において用いられ,昨今の技術革新の根幹を担っている.DLC膜は,膜中のsp2混成軌道をもつ炭素原子,sp3混成軌道をもつ炭素原子,ならびに水素元素の組成比によってその膜質が大きく影響される.しかし,構造解析が難しく,標準的な評価方法が確立されていないことから,その理解と制御を困難にし,基本的な定義・分類がなされていなかった.本稿では,DLC膜の国際標準規格制定に至る経緯とその骨格となった構造解析方法を概説し,今後の動向を解説する.
不揮発性スピントロニクス素子と半導体集積回路を融合することで,情報処理・通信機器の低消費電力化,高性能化が期待される.スピントロニクス素子に情報を書き込む新しい手法として,近年,スピン・軌道相互作用を利用したスピン軌道トルク(SOT)誘起磁化反転が注目されている.本稿では,当技術に関する最近の研究成果を紹介し,モノのインターネット(IoT)や人工知能(AI)などの分野にどのような変革をもたらしうるかについて展望する.
電池極を炭素素材であるバイオ資源由来の活性炭で構成した全炭素極2次電池を提唱し,そのユニークな動作原理と基本性能を紹介する.長サイクル性を得意とするこの素朴で新しい2次電池は,容量・エネルギー密度において従来のスーパーキャパシタを凌駕(りようが)し,鉛(Pb)蓄電池の領域に迫ってきている.資源・環境・コスト性に鑑み,太陽電池などの種々クリーンエネルギーを有効に利用する大容量2次電池としてのポテンシャルを実証した.
III-V族化合物半導体素子は高い性能を示すことが知られているが,製造コストが高いことから応用分野は限定されている.我々は最近,低コストのスパッタリング法を用いて高品質の窒化物半導体を低温でエピタキシャル成長させる技術を開発した.この手法を用いて成長させた窒化ガリウム(GaN)結晶の物性は従来手法によるものと遜色なく,また,発光ダイオード(LED)や高電子移動度トランジスタ(HEMT)といった素子も作製できることがわかった.さらに,安価な非晶質の基板の上にもグラフェンのバッファ層を介してGaNの結晶成長が可能であり,フルカラーのLEDなどの素子が作製可能であることがわかった.これらの成果は性能の高い無機結晶半導体を用いても有機ELディスプレイのような大面積素子が実現可能であることを示している.
グラフェンナノリボン(GNR)は,2次元シート状のグラフェンが1次元短冊状構造をとった新規ナノ材料である.グラフェンと同様に炭素原子1層の厚みからなる究極の原子層物質である一方で,グラフェンにはないバンドギャップをもつという大きな特長がある.このため,将来の次世代超高性能光電子デバイス開発に向け大きく注目されている材料である.本稿では,我々が近年独自に開発したGNRに関する,大規模集積化合成手法,および特異な合成機構に関する研究成果の一部を紹介する.このように大規模集積化合成が可能となったGNRは,今後,実用化に向けた応用研究への展開が大きく期待できるものである.
ヘテロ元素への置換がナノカーボン材料のバンド構造を本質的に変調させる一方で,化学(分子)ドーピングは比較的穏やかなキャリヤ濃度変調を実現できる.一方でsp2結合性材料に共通するn型状態の安定化や高機能化は基礎学術の探求のみならず,熱電変換をはじめとするさまざまなエネルギーデバイス応用へ向けての課題であった.本稿では,超分子相互作用を摂動に用いたカーボンナノチューブ(CNT)の安定なn型ドーピング技術の概念と結果を紹介する.
基礎編では,第一原理計算の基礎としてコーン・シャム方程式を数値的に計算する方法とその精度に関して説明しました.コーン・シャム方程式の数値計算で得られる電子状態,全エネルギーからさまざまな材料物性を解析することができます.本稿(実用編)では,第一原理計算による材料物性解析の一端を紹介します.