従来の太陽電池研究では,当該原材料の物性研究に裏付けされた高効率化が最重要課題であった.しかし,来るべき低炭素社会実現のためには,莫大(ばくだい)な量の太陽電池が必要となることから,資源的な制約を考慮する必要が出てきた.すなわち,持続的な生産可能性を考慮したうえで,太陽電池材料の選択を行う必要が出てきたのである.そこで注目を浴びているのが,希少元素フリーのCZTS太陽電池である.CZTSは,開発当初から日本が関わってきた数少ない材料の1つである.本稿では,長岡工業高等専門学校で実施してきたCZTS太陽電池の高効率化の歩みを概説する.
グラフェンの発見以降,2次元原子層物質の合成・基礎物性解明と応用展開は,物質科学における一大研究分野となっている.「グラフェンを構成するC原子と周期表において同族であるSi原子から,グラフェン状の2次元ハニカムシート(シリセン)が合成できないか?」は,基礎・応用的に極めて面白いテーマである.本稿では,Ag基板にSi原子を蒸着することで作製したシリセンの幾何構造と電子状態について,種々の表面分析手法と理論計算を用いて調べた結果を紹介する.
不揮発性記憶機能を有する磁気トンネル接合(MTJ)をCMOS集積回路に内蔵させた新しい集積回路アーキテクチャ「MTJ/MOSハイブリッド回路技術」を示し,超微細加工技術の進展に伴い従来型CMOS集積回路で一層深刻となっている電力消費増大の問題が,この集積回路アーキテクチャにより解決できる原理とその回路構成の具体例を紹介する.
筆者は2008年,宮田耕充(首都大学東京),および片浦弘道((独)産業技術総合研究所)とともに,Applied Physics Express誌において1),直径が系統的に異なる金属型単層カーボンナノチューブ(SWCNT)によるシアン・マゼンタ・イエロー色の分散溶液や金属薄膜について報告した.その後,分離精製技術を駆使して高純度に電子構造を選択したSWCNTを対象とした物性研究と,そしてその性質を電気化学ドーピングの手法を応用して制御する研究を進めてきた.同論文をAPEX誌に掲載した経緯とその後の研究について報告する.
有機半導体材料の特徴の1つとして,溶液塗布による半導体薄膜形成が可能であることが挙げられる.この特徴により,無機半導体プロセスと比較して,有機半導体デバイスは低温印刷プロセスでの作製が可能であり,プラスチックや紙などのフレキシブル基板上への半導体デバイス作製が実現する.本稿では,筆者らが2009年にApplied Physics Expressに報告した溶液塗布による結晶性薄膜作製技術の開発背景と,その後の高移動度有機薄膜トランジスタの応用展開について紹介する.
Siより高い電子・正孔の移動度をもつGeは次世代CMOSデバイスにおけるチャネル材料として有力視されているが,一方で金属/Ge界面では金属の真空仕事関数によらずほぼ一定のショットキー障壁を形成する,いわゆる極めて強いフェルミレベルピンニング(FLP)を生じることで知られる.現実的に微細化されたデバイスでは寄生抵抗低減の観点からも,金属/Ge界面のショットキー障壁の低減,すなわちFLPの抑制が不可欠である.Applied Physics Express創刊当時,我々は数多くの議論があるFLPの起源の中の1つのモデルに注目し,“極薄界面層の導入によるFLPの抑制”を実験的に示すことに成功したが,本稿では当時の研究やその後の応用展開に加え,最近の新たな進展についても紹介したい.
酸化物半導体を使用する高効率亜酸化銅(Cu2O)系太陽電池に関する研究開発の現状を紹介する.古くからよく知られた半導体であるCu2Oは,原材料が地殻埋蔵量の豊富な銅であり,安価で毒性がなく環境に優しい材料である.n形Cu2Oの作製が困難という問題はあるが,多結晶p形Cu2Oを活性層として用いるヘテロ接合酸化物半導体太陽電池において,得られる光起電力特性が近年飛躍的に改善されている.最近,多結晶p形Cu2O薄板(シート)上にn形Zn1-x-Gex-O多元酸化物薄膜(窓層)を形成して作製したヘテロ接合太陽電池において,8%を超える高いエネルギー変換効率が達成されている.
有機無機ハイブリッド材料の1つであるハロゲン化鉛ペロブスカイト半導体は,太陽電池をはじめとしたフォトニクスにおける新しい機能性材料として注目されている.溶液法で作製できる高品質な半導体がもつ優れた光学特性について紹介する.
太陽光エネルギーを高効率で水素の化学エネルギーに変換する可能性を実証するため,集光型多接合太陽電池と水電解装置を接続し,実際の太陽光の下で変換効率24.4%を得た.将来的には30%以上の変換効率が見込まれ,大規模導入によるコストダウンと合わせて,貯蔵・輸送可能な太陽光由来の人工燃料を製造できる可能性を示した.
量子化学計算とは,原子や分子の電子状態を支配する量子力学の基礎方程式,シュレーディンガー方程式をコンピュータにより数値的に解く方法です.本稿では,今日用いられている代表的な量子化学計算法を紹介します.