パワーエレクトロニクスは,エンジン開発で培われた強制冷却技術,高速回転技術と融合しながら,ハイブリッドカー(HV)「プリウス」を生みだし,先進環境対策車両への道を拓(ひら)いた.小型軽量,低コスト,高効率といった二律背反の要求を,すり合わせ技術により克服し,車載システムに特化した自動車パワーエレクトロニクスに進化した.一方,スマートフォンの普及により飛躍的に性能向上したカメラやGPSを活用して,自動車エレクトロニクスは,クラウド上の3次元地図情報を利用した自動運転へ,さらには,ITと融合しながら,コネクテッドカーによる新しいビジネスモデルへと進化しつつある.
次世代のディスプレイとして,薄くて軽く,柔軟で丸めることもできるフレキシブル有機エレクトロルミネセンス(EL)ディスプレイが注目されている.日本放送協会(NHK)では,スーパーハイビジョン(SHV)にふさわしいディスプレイとして,丸めて家庭に搬入可能な大画面のフレキシブル有機ELディスプレイの実現を目指して研究開発を進めている.本稿では,その技術概要と研究開発動向について紹介する.
共役高分子は光吸収,発光,電荷輸送能を有する有機半導体である.これら半導体特性と,高分子本来の優れた成膜性を生かして創る,薄くて,軽く,柔らかな電子機能性薄膜の応用研究が進んでいる.中でも,電子ドナー性と電子アクセプタ性共役高分子のブレンド薄膜を発電層に用いる全高分子ブレンド太陽電池の高効率化が実現すれば,印刷技術をベースに,高速で大量に,低環境負荷かつ低コストで高品質な薄膜太陽電池を生産できるようになる.本稿ではこの数年,海外において研究が活発化している全高分子ブレンド太陽電池の動向について,我々の研究成果を交えて紹介する.
過渡吸収(TA)分光法は光によって誘起されるさまざまな高速現象を実時間で観測できる非常に有用な技術である.しかし現在広く使われている計測手法には大きな問題があり,幅広い分野への応用が制限されている.これは“観測時間域のギャップ”のためであり,具体的には1〜10ナノ秒領域の測定が非常に困難であった.このギャップ問題の解決のため,我々は最近,RIPT法と名付けた革新的な測定法を考案し,サブナノ秒光源,そして高速ディジタル技術を駆使した測定システムの開発に成功した.このRIPT法の原理と,その利用によって拓(ひら)かれる研究分野について概説する.
電気エネルギーの大幅な省エネルギー化をもたらす技術として,パワーエレクトロニクスが注目されている.近年,次世代のパワー半導体デバイスとして,シリコンカーバイド(SiC)を用いたパワーMOSFETが実用化され,市販が開始された.しかし,SiCを用いたパワーMOSFETにおいては,SiO2/SiC界面に存在する界面準位の影響により,チャネル領域において十分な電界効果移動度が得られていないことが問題となっている.本稿では,これまで問題となっていた低い電界効果移動度を克服するために我々が取り組んできた,リン(P)やホウ素(B)などの異原子をSiO2/SiC界面に導入する手法について紹介する.
プラスチック(PET)基板上の単結晶シリコン(Si)形成法として,水のメニスカス力を利用してSOI層を転写する技術を開発した.SOI層が微細なSiO2ピラーで支持された中空構造を作製し,純水を介してPET基板と対向密着させ,90°Cで加熱することによりSOI層の転写を実現した.PET上の(100)単結晶Si層は低温アニールによりデバイスプロセスに耐えうる密着性を確保でき,130°CプロセスでnMOSおよびpMOSトランジスタを作製したところ,それぞれ609および103cm2V-1s-1の高い電界効果移動度を得ることができた.中空状態でのSi層熱酸化により特性ばらつきを抑制可能であり,PET基板上でnMOSインバータの動作に成功した.
生細胞への生体分子(DNA,タンパク質,蛍光分子など)の導入は遺伝子機能や生体反応機構の解明において重要である.特に近年,単一細胞レベルで詳細に解析する1細胞解析の必要性が唱えられており,安全かつ高効率に遺伝子や機能性分子などを特定の単一細胞のみに導入する手法が求められている.我々は走査型イオン伝導顕微鏡(SICM)を用いて,単一細胞へ分子導入するエレクトロポレーション(EP)法を開発した.本稿ではSICMの紹介とともに本手法による低侵襲かつ高効率な単一細胞EP法を解説する.
原子層堆積法(ALD)の室温化研究について紹介する.ALDの室温化を阻む要因を探るため,有機金属ガスの酸化物表面への吸着のその場観察を試みた.多くの有機金属ガスは,表面のヒドロキシル基を吸着サイトとすることで,室温で吸着する.吸着表面を酸化しながら,ヒドロキシル基を表面に形成する方法として,加湿アルゴン(Ar)をプラズマ励起したガスを酸化剤とすることで,室温堆積を実証した.本プロセスは,室温製膜に加え,3次元形状に陰ひなたなく均一に製膜できる.本稿では,シリカ,アルミナの室温ALD事例を紹介するとともに,その応用として,防触,PETボトルコート,ガスバリヤについて説明する.
量子化学計算は,今日さまざまな研究に活用されています.本稿では,量子化学計算によりどのような結果が得られるのか,応用事例を用いて紹介します.また,広く用いられている量子化学計算ソフトについても紹介します.