近赤外分光においては,装置の低雑音化とデータ処理を組み合わせることによりスペクトルのわずかな変化を検出し,試料成分の定量分析が可能となった.1980年代より日常生活に関連する生産品の非破壊,かつ迅速な品質評価,成分定量のツールとして広く利用され,応用分野は拡大している.最新の近赤外分光技術と日常生活での応用について報告する.
スピンゼーベック効果(SSE)や異常ネルンスト効果(ANE)など,磁性が関わる熱電効果についての報告が近年増えている.それらの材料が示す熱電性能指数や変換効率は,現状では実用化に及ばない値であるが,素子特性はまだまだ限界には達しておらず,新しい材料の発見によって大きな進展を遂げると考えている.本稿では,SSEを応用した熱電変換素子の開発に向けたガーネット磁性体の材料依存性評価,磁性体‐金属界面の最適化,コンビナトリアル型の合金材料の探索の取り組み,さらに多量の実験・計算データを扱ううえで,データ主導の解析アプローチの必要性が生じている現状について紹介する.
コロイド量子ドットは,粒径の調整で光吸収領域を制御でき,その配列構造をうまく整えた固体膜は半導体特性を示す.このため,低温・溶液プロセスで作る次世代太陽電池の構成素材として期待できる.本稿では,ワイドギャップ半導体と量子ドットで作るヘテロ接合型太陽電池の高性能化に向けた最近の取り組みについて解説する.また,超高効率太陽電池構築の可能性として,赤外領域で動作する太陽電池の光電変換特性に関する我々の研究成果を併せて紹介する.
光が透ける磁石があれば,専門家でなくてもさまざまな新しい用途に期待が膨らむだろう.ことさら磁性材料研究者にとって透明な強磁性体の開発は,その応用のみならず物性面において,魅力ある研究テーマの1つであろうと想像する.本稿では,我々が開発した透明かつ強磁性を示すナノグラニュラー材料について紹介する.ナノグラニュラー材料は,フッ化物などの絶縁体から成るマトリクスにナノメータサイズのFeCo合金などの磁性金属から成るグラニュールがほぼ均一に分散した微細構造を有し,フッ化物マトリクスに起因する良好な光透過性と同時に,FeCo合金グラニュールに起因する強磁性を併せもつ.
原子層堆積(ALD)法は,室温成膜が可能で,オングストロームオーダでの膜厚の制御,粒子・ホールなどの3次元構造へ均質な酸化物および金属膜を形成できる利点を有しており,幅広い分野で興味がもたれている成膜手法である.本稿では,200°Cの低温度で,ALD法を用いて作製したアモルファスなAl2O3-TiO2バイレイヤをスイッチング層として用いたキャパシタが,Al2O3層とTiO2層の作製順序を変えるだけで,メモリスタのような多値の抵抗変化の特性が得られることを紹介する.
機能物性の宝庫である金属酸化物を「結晶成長の空間選択性」により,基板上の狙った空間位置のみに高品質な単結晶ナノワイヤ構造やヘテロナノワイヤ構造として設計し,1本の単結晶ナノワイヤ物性測定,新しい酸化物ナノワイヤデバイス(ナノワイヤメモリスタ,ナノワイヤ熱電素子,ナノワイヤ生体分子分析,ナノワイヤ分子認識センサ)へと展開してきた筆者らの一連の研究内容について紹介する.
鉛ハライド型ペロブスカイト材料を用いたペロブスカイト太陽電池が急速に注目を浴びている.再現性よく高効率太陽電池を作製するために重要となる,高純度化材料を用いた溶液法による高品質ペロブスカイト層の作製法について紹介する.
情報デバイスの携帯・設置・意匠の自由度を飛躍的に拡大するフレキシブルディスプレイは,次世代表示技術の最有力候補として期待されており,今後の生活環境を革新してエレクトロニクス産業をけん引していく可能性がある.プラスチック基板を用いたフレキシブル液晶は,大画面化・高精細化技術が構築されている,製造時・動作時の安定性・信頼性に優れる,新たな製造設備が不要で量産性が高く低コストであるなどの特長を有する.筆者らは基板間隔を一定に保持するため,液晶中で合成して表面が分子配向した高分子壁により両基板を接合するスペーサ技術を提案してきた.さらに,塗布・剥離工程で極薄の透明ポリイミド基板を開発した.極薄基板と高分子壁を用いた超柔軟化デバイスは,曲率半径3mmの湾曲耐性を示した.
半導体デバイスの電気的な特性を計算するプログラムがデバイスシミュレータです.実用編では,デバイスシミュレータをあまり使ったことがない方へ向けて,使うときにどのような点に注意すればよいかなどについて解説します.