先端半導体デバイスの代表例であるCMOSロジック回路やフラッシュメモリに用いられるトランジスタは,スケーリング(寸法縮小)の進展とともに2次元から3次元構造へと進化している.構造の微細化・3次元化に伴い,デバイス製造工程で重要な役割を担うプラズマ加工に求められる精度や速度も高度化しており,基礎に根ざした理解と対応が求められている.本稿では,先端半導体デバイス製造におけるプラズマ加工技術の研究開発の現状と,プラズマ加工によるデバイス表面での欠陥層形成機構とそれらがデバイス特性・信頼性劣化へ与える影響について俯瞰(ふかん)する.
単層カーボンナノチューブ(CNT)は多様な応用が期待されており,特にエレクトロニクスや光学への応用のためには,金属型と半導体型,あるいは単一構造のCNTの分離が非常に重要である.筆者らは10年以上にわたり,これら分離法を開発してきた.本稿では,筆者らの分離研究の最近の進展と,分離CNTを用いた応用開発について紹介する.混合界面活性剤を用いたゲルカラムクロマトグラフィにより,単一構造の半導体型CNTの大量分離や,高純度のエナンチオマ分離を実現した.また,応用開発の例として,バイオイメージング,室温単一光子源,センサなどを紹介する.
水プラズマは水を原料とする熱プラズマであり,H,O,OHラジカルが高温領域に多く存在するため,有機物の分解時にH2を豊富に含んだガスを回収することができる.水プラズマは冷却水による電極からの外部への熱損失がなくなるため,90%以上の熱効率が得られること,ガスボンベなどの外部からの作動ガスの供給が不要であるという特長を生かして,車載型の水プラズマ発生システムが開発された.我々は,高速度カメラにバンドパスフィルタ光学系を組み合わせた計測システムを用いて,これらの水プラズマのアーク変動現象や温度分布を計測し,廃棄物処理へ応用するための水プラズマの特性を明らかにした.
近年,材料開発,製造プロセス,科学計測など幅広い分野において,研究開発の方法論は,データ科学の活用による大きな変革期を迎えている.我々は,多結晶シリコンをモデル材料として,データ収集・機械学習・理論計算を連携させ,多結晶材料の普遍的な高性能化指針の確立を目指す新たな取り組みを進めている.本稿では,その第一歩として,多結晶シリコンインゴット中の組織と転位クラスタの3次元可視化など,データ科学的手法を用いた多結晶シリコンの評価について紹介する.
近年,身の回りの環境に存在するエネルギーから電気エネルギーを得るエナジーハーベスティング(環境発電)技術の研究が盛んに行われている.本稿では,イオンに電圧を印加した際に形成される電気2重層をエレクトレット化した電気2重層エレクトレットという新材料を利用して,振動エネルギーを電気エネルギーに変換する振動発電素子について紹介する.現時点で,1Hzの低周波の振動から最大1mW/cm2程度の出力が得られることが明らかになっている.
HfO2基の強誘電体は,従来の強誘電体と異なり,シリコンプロセスとの高い親和性を有し,膜厚を20nm以下に薄膜化しても強誘電性が劣化しないことから,大きな関心を集めている.本研究では,従来の多結晶で不純物相の混入していた膜に代わって,高品質の方位制御されたエピタキシャル膜を作製した.その結果,強誘電性の起源が結晶の対称中心のない直方晶相であることを実験的に明らかにした.この膜を用いて,最大の残留分極値である自発分極値と,使用温度限界であるキュリー温度を見積もった.その結果,現在強誘電体メモリに使用されているPb(Zr0.4Ti0.6)O3やSr0.8Bi2.2Ta2O9と遜色がない特性を有することを初めて明らかにした.
鉄カルコゲナイド超伝導体は,鉄系超伝導体のメカニズムを解明するためのキーマテリアルとして,近年特に注目度が高い物質である.この物質の研究を行ううえで,大きな障害となってきたのが元素置換の難しさである.本稿では,非平衡な結晶成長プロセスである薄膜育成によって,バルクでは得られない完全な電子状態相図が作成可能であること,そして,そこから明らかとなった鉄カルコゲナイドの超伝導の特異性や,マルチバンド超伝導体特有のユニークな側面について紹介する.
生体組織の観察に超音波顕微鏡を用いると,光学的観察で通常必要となる染色が不要で,音速や特性音響インピーダンスなど,「硬さ」に関係する定量的な音響物性像が得られます.これを用いて,生きた細胞や組織を非侵襲的に観察することができます.本稿では,その原理の概要と観察例について解説します.