太陽光をエネルギー源としたCO2還元反応は,持続可能なエネルギー生産システム構築の観点から注目を浴び,半導体と金属錯体はこの反応に対して有望な光触媒として古くから研究されてきた.両者は一長一短の特徴を有し,近年ではそれぞれの長所を融合した光触媒系が注目されている.本稿では,筆者らが開発した非酸化物系半導体と金属錯体からなる複合光触媒を用いたCO2還元反応に関する成果を紹介する.
化合物半導体結晶成長の新たなその場測定手法として開発した放射光その場X線逆格子マッピングについて解説する.放射光その場X線逆格子マッピングは,結晶成長中の試料に放射光X線を照射し,試料からのX線回折の逆格子マッピングを高速測定することで,結晶格子の様子をリアルタイムで解析する手法である.放射光の特長である高輝度であることと,2次元のX線検出器を利用することで高速測定が実現され,原子層レベルの結晶成長ダイナミクスを捉えることが可能である.本稿ではGaN系およびGaAs系薄膜のひずみ変化を観測した結果を紹介する.また,3次元逆格子マッピングをその場測定することで,ひずみの面内異方性を明らかにした結果と,太陽電池を想定した多層構造に適用した結果を解説する.
高圧力印加は,物質の結晶構造や電子状態を直接制御できる強力な手法である.ダイヤモンドアンビルセル(DAC)は高圧力下物性測定の代表的なツールである一方,実験的な難易度が極めて高く,国内でも限られたグループしか取り扱えない.我々は,誰でも簡単に高圧力実験を行えるようにするため,電極や絶縁層など物性測定に必要な機能を備えた新しいDACを開発した.電極材料にはホウ素ドープ金属ダイヤモンド,絶縁材料にはアンドープ絶縁体ダイヤモンドを用いており,高圧力下での安定動作と再利用性を兼ね備えている.本稿では,開発した装置により測定した熱電物質SnSeや,鉄系超伝導体FeSeの高圧力下電気抵抗測定の結果も報告する.
レーザー光の局所照射により形成した多結晶シリコン薄膜によるトランジスタは,フラットパネルディスプレイの画素スイッチや周辺回路として用いられてきた.多結晶シリコン薄膜トランジスタには,より高移動度かつ低い素子間特性バラつきが求められ,その理想形として,移動度の高い特定の結晶面方位への制御がある.ライン状強度分布をもつ連続発振レーザーを用いることで,面方位制御を行い,電子電界移動度1000cm2/Vsを超える超高移動度シリコン薄膜トランジスタを実現したので紹介する.
有機発光ダイオード(OLED)は,室温りん光分子や熱活性化遅延蛍光(TADF)分子を発光材料に用いることで,〜100%の電気→光変換量子効率を実現した.そして,有機分子はストークスシフトにより4準位状態を形成するために,本質的に低閾(しきい)値レーザー材料として優れた発振特性を有していることから,ポストOLEDとして,有機半導体レーザーダイオード(OSLD)への展開が大きく期待されている.本稿では,将来の電流励起レーザーへの布石として,優れたレーザー分子である 4,4’-bis ([N-carbazole] styryl) biphenyl (BSB-Cz) を用いて,光励起下におけるCWレーザー発振現象と将来の電流励起レーザーの可能性について紹介する.
アゾベンゼン誘導体を側鎖にもつポリマー(アゾ系ポリマー)に光を照射すると,アゾベンゼンの光異性化反応によって分子が空間的に移動することで,ポリマーが変形する.この現象を利用すれば,光エネルギーを運動エネルギーに直接変換することが可能となるので,光によるメカニカル機能を発現でき,光駆動のナノ分子機械などへの応用が期待される.また,誘起された変形形状が入射した光の強度分布や偏光状態に依存することを利用すれば,光の回折限界によって光学顕微鏡では観察することのできないナノ物質周囲の光の状態を観察することもできる.本稿では,アゾ系ポリマーの光誘起物質移動現象を概説し,それを利用した金ナノ粒子のプラズモン増強場ナノイメージングへの応用例を紹介する.
半導体微細加工技術で作製されるシリコンを素材とした微小振動素子に,半永久帯電を与えるエレクトレット膜を形成する技術を開発した.この技術は振動子構造作製後,カリウムイオンを導入した酸化膜を表面に形成し,その後550°C程度の温度で振動子電極間に電圧を印加することで帯電させる.そのアプリケーションとして現在開発に注力している環境振動発電素子について説明するとともに,MEMS素子として実現可能となる,双安定アクチュエータや静電トランスなどの新機能素子についても紹介する.
全反射蛍光顕微鏡(TIRFM)は,ガラス基板近傍の試料のみに届くエバネッセント場を局所的な励起光として用いる光学顕微鏡です.エバネッセント場を利用して背景光を大幅に低減することで,水中,室温で蛍光色素1分子をリアルタイムイメージングすることができます.本稿では,TIRFMの基本原理と装置の構築法を解説します.