シリコン(Si)基板上への,化合物半導体のヘテロエピタキシャル成長について,近年の評価技術の進歩により,かつては推測で議論されていた現象を実際に観測することが可能となっている.このことにより,Si基板上に低転位のGaPテンプレートが実現され,Siと格子整合するIII‐V‐N混晶によるバンドギャップエンジニアリングや導電性制御が達成され,デバイス応用が現実のものとなりつつある.本稿では,III‐V/Si成長時のキーテクノロジーとなるSi表面制御,欠陥抑制のための表面核形成制御技術,Siと格子整合するGaAsPN混晶の成長と導電性制御,およびデバイス応用に向けた取り組みについて解説する.
近年,ペロブスカイト太陽電池は,簡便な塗布プロセスで製造可能であり,22%を超える高い変換効率が報告されたことから世界中で大きく注目されている.我々は,ヒステリシスフリーで,かつ高い光安定性を有する逆構造ペロブスカイト太陽電池の高性能化を目指して,傾斜型ヘテロ接合を有する新規セル構造を考案し,その高効率化に成功した.本稿では傾斜型ヘテロ接合の開発経緯とともに,セルの大面積化,および高効率化・高信頼性化に関する研究内容を概説する.
スピンカロリトロニクス分野において,スピン流と熱流の相互作用が基礎・応用の両面から盛んに研究されている.2014年に発見されたスピンペルチェ効果は,スピン流によって熱流が生成される現象である.筆者らは最近,主に半導体デバイス解析に用いられてきたロックインサーモグラフィ(LIT)法を応用することで,スピンペルチェ効果によって生じた温度変化を可視化することに成功し,スピン流が誘起する特異な温度分布を明らかにした.本稿では,スピンペルチェ効果のイメージング計測を中心に,LIT法を用いたスピンカロリトロニクス研究の現状と展望について述べる.
自己組織化単分子膜(SAM)を用いたMoS2 FETの界面制御およびゲート絶縁膜技術について報告する.ゲート絶縁膜は酸素プラズマや酸素ラジカルによって形成した金属酸化膜表面にホスホン酸SAMが形成している2層構造から構成される.未結合手のない2次元有機結晶膜であるSAMをゲート絶縁膜に用いることで,絶縁膜/半導体界面における化学反応,原子拡散や構造欠陥の問題を一気に解決し,急しゅんかつ平たんな界面の形成に成功した.作製したMoS2 FETのId‐Vg特性にヒステリシスなく,サブスレッショルドスロープ値も69mV/decであり,150°C以下の低温作製プロセスにもかかわらず良好な界面特性を実現した.
電気双極子近似が成り立たない空間的非一様な光の場(非一様光場)の研究により,光学禁制励起,第2次高調波発生,波数励起,局所磁場励起など,新規光励起が可能になる.本稿では,この非一様光場の特長を生かした,表面平滑化手法である近接場光エッチングを用いて筆者らが進めてきた一連の研究について紹介する.
波長900〜1400nmの領域は従来の生体計測で使われることは少なかったが,内因性の吸収,散乱,自家蛍光の寄与が極めて少ないことから,外来色素の利用に非常に適していることがわかってきた.また,最近この波長で抗体をラベルすることにとどまらず,体液動態や電気活動など各種生体機能の深部蛍光イメージングの可能性がみえてきた.
ミラー電子顕微鏡の歴史は古く,最初の報告は1935年に遡る.その特異な電子像形成原理は,得られた電子像の解釈を極めて困難にするため,試料表面の未知の情報を得るための顕微鏡技術としては,全くといってよいほど普及しなかった.しかしながら,工業利用される材料などの既知試料表面に存在する異常,すなわち欠陥を見つける技術としてミラー電子顕微鏡を捉えた場合,この像形成原理が高感度の欠陥検出を可能にする.本稿では,ミラー電子顕微鏡の結像原理と装置,および各種欠陥検出への応用事例について紹介する.
本稿では,全反射蛍光顕微鏡(TIRFM)を用いた蛍光色素の1分子イメージングについて解説します.顕微鏡の空間分解能と位置決定精度の違い,実際の観察,データ解析についての具体例と留意点を述べます.また,関連の発展形として,全反射暗視野顕微鏡と金ナノ粒子を用いた高速・高位置決定精度1分子イメージングについても紹介します.