古くからの会員の方々は近年,応用物理学会の春秋の学術講演会に新しい試みが次々と導入されたことはご存じかと思います.一方,最近会員となられた方々や学生会員の方々にとっては,全て当たり前に存在している制度なのかもしれません.講演会における新しい試みはさまざまな機会にPRされてはいますが,制度の詳細や趣旨が会員の皆様に十分には浸透していないものも見受けられます.今号では,講演会企画・運営委員会の協力の下,さまざまな改革を続けてきた春秋の講演会を題材にした特集をお届けします.
前半では,学術的な面での特集として講演会初日に開催されているチュートリアルにスポットライトを当て,各大分類のプログラム委員が推薦する最近好評であったチュートリアル講演の中から以下の3件を選び,その内容を改めて「解説」としてご執筆いただきました.
・ナノバイオ技術のエレクトロニクスへの応用―非専門家のためのバイオ分子実験概説と応用例(有機分子・バイオエレクトロニクス)
・高電圧・プラズマの農業・水産・食品分野への利用(プラズマエレクトロニクス)
・結晶成長を理解する(結晶工学)
後半では,講演会を支えている人々に焦点を当て,3つの記事をお届けします.
特別寄稿「応用物理学会講演奨励賞」では,約20年前に始まった講演奨励賞にスポットライトを当て,当時の委員長であった尾浦憲治郎氏に講演奨励賞の歴史や導入当時の思いをご説明いただいたあと,今や本会を牽引(けんいん)する世代となっている初代受賞者の中から2名に,若手であった受賞前後当時の裏話や,現在に至るまでの後日談などを自由に語っていただきました.
座談会「講演会企画・運営の舞台裏」では,歴代の講演会企画・運営委員長にそのときどきで何を考え,将来に向けてどんな思いで運営や改革に取り組んできたのか,さらに講演会や学会への熱い思いを語っていただきました.ページの制約や発言内容の“過激”さから,話された内容の半分程度しかお伝えできないことが残念ですが,裏話や苦労話も含めていかに歴代委員長が講演会に真剣に向き合ってきたかが伝われば幸いです.
特別企画「応用物理学会学術講演会に期待すること」では,本会会員で分野的に近接する他の学会(日本物理学会,生物物理学会,液晶学会など)にも軸足を置いている3名に「応用物理学会講演会の面白さ」や「本会会員に期待すること」をご寄稿いただきました.本会の特徴として,間口が広いこと,何でもありであることが挙げられます.少し引いた視点から,本会の魅力や今後に向けての提言がまとめられています.
さらに,「委員会だより」も特集記事の1つです.2010年春に立ち上がった大分類「ナノカーボン」の立ち上げについて,その前身の合同セッションから関わってこられた秋田成司氏に,大分類立ち上げの経緯や思いをご寄稿いただきました.
講演会の多様な側面や裏側にまでスポットライトを当てた本特集をご覧になることで,さまざまな形で講演会に参加し貢献してこられた方々の熱い思いを感じていただくとともに,会員の皆様がこれまで以上に講演会を有効活用する一助となることを期待しています.
応用物理研究者の間でナノバイオ技術が興味をもたれ,また研究を始めたいという要望がこれまで多くありました.しかし,バイオの専門用語や,バイオの常識が障壁となっていました.本稿では,まず代表的バイオ分子であるタンパク質に注目し,その基礎知識を俯瞰(ふかん)して説明することでバイオと応用物理学研究者の間の障壁を取り除くことを目指しました.前半はナノバイオのエレクトロニクス応用に必要な基礎知識を遺伝子からタンパク質作製,精製,分析,解析,基板への吸着について概説し,後半ではナノバイオの基礎となるいくつかの実験例と応用例について記述しています.
高電場や放電が植物の生育に及ぼす影響は,科学技術が発達する前から経験的に知られており,系統的な研究も18世紀より行われてきた.近年,従来の電気泳動や細胞融合,電気穿孔(せんこう)法などによる品種改良(育種),農薬の静電散布などの農業関連の技術に加え,植物の発芽や生長の制御,担子菌(きのこなど)での子実体形成促進,培地の殺菌などプレハーベストへの利用や収穫物の鮮度保持など,ポストハーベストへの利用が進められている.ここでは,盛んになりつつある高電圧やプラズマの農業・水産・食品分野への利用を俯瞰(ふかん)し,それらが利用する高電場やプラズマの物理・化学的特性と,生物との関係の理解を深める.
結晶成長の理解のため,エピタキシャル成長を想定し,溶液成長と気相成長のメカニズムを解説した.まず,それぞれの輸送過程を見た後,表面で成長ステップがどのように形成されるかを述べた.通常の成長条件では,2次元核か,らせん成分をもつ転位かのいずれかがステップを供給することにより成長が行われることを理解し,おのおののメカニズムにより成長が行われるとき,成長速度と表面過飽和度がどのような関係にあるかを考察した.また,ナノ構造を作製するとき,ファセット-ファセット間を原子が表面拡散する現象を利用するが,その面間拡散をどのように理解するかを説明した.
近年の応用物理学会学術講演会でさまざまな改革がなされてきたことは,会員の皆様も実感していることでしょう.歴代の講演会企画・運営委員長はそのときどき何を考え,将来に向けてどんな思いで取り組んできたのか? 今だから明かすことのできる裏話・苦労話も交えながら,講演会や学会への熱い思いを語り合いました.とりわけ,若手・中堅の皆様が今後,講演会をより身近に感じていただくことの一助になればと思います.
応用物理学会の特徴の1 つに,間口の広さがあります.学術講演会発表者の常連の中にも,本会との近接分野の学会に軸足を置いている方々がいます.今回,そのような他学会のこともよく知る専門家3 氏に,本会の講演会ならではの特徴や面白さ,そして今後の講演会に期待することなどを聞きました.
光学顕微鏡の回折限界を超える分解能を達成した超解像顕微鏡が,バイオイメージングにおいて一般的な技術になろうとしています.本稿では,複数ある超解像顕微鏡法のうち,ローカリゼーション法について概説します.